▲レースの緊張感はサーキットならでは。スタート前に最速ラップで走るイメージをつくる ▲レースの緊張感はサーキットならでは。スタート前に最速ラップで走るイメージをつくる

筑波サーキットを激走! スピードを追い求めたその結果は?

目の前には筑波サーキット、ポルシェ 996 GTに乗り込みハンドルを握っている。高鳴る鼓動を抑えられずにいた。

スタートの合図にアクセルを徐々に踏み込む。ポルシェのエンジン音が鳴り響きハンドルを握る手にも力が入る。 最初のラップはスピードを出しすぎず、周りにある目印を元にどこでアクセルを踏み、ブレーキを踏むか、強烈にイメージをたたき込む。ライン取りも決まったところで、さぁ、いざタイムアタック!

筑波のコースをイメージしきったところでスタートだ。まずはメインストレートで思いっきりアクセルを踏み込む。グングン加速し第1コーナーに突っ込む。アウトインアウトが基本のライン取りだが、第1コーナーでは残り100mで、少しインにノーズを向けフルブレーキをかける。体に力が入り、グググッとGが体全体を襲う。スピードが落ちたところでシフトダウンしカーブに突入。次のS字をイメージしながら立ち上がりのアクセルを踏むタイミングに意識を集中させる。「焦ってはだめだ! しっかりと曲がりきってから」

S字を抜けると第1ヘアピン。さらにはダンロップコーナー、80Rコーナーを高速で抜け、第2ヘアピンへ突入。一瞬でもブレーキのタイミングが遅れると、曲がりきれない。曲がりきれずクラッシュしたときの映像がフラッシュバックする。恐怖と闘いながらギリギリのタイミングでブレーキをかける。何とか曲がり切れた。この瞬間が快感だ。

それを抜けると、900mの長いバックストレートが続く。ここでは最高速度200kmを超える。ビリビリとハンドルから振動を感じ、90+110Rの最終コーナーに突入。100km以上で曲がる高速コーナーだ。これを抜ければメインストレート。さらにアクセルを踏み込みエンジン音が鳴り響く。さぁタイムは......1分8.37秒。

筑波サーキットのツーリングカーにおけるコースレコード、1分3.59秒には4秒及ばずだが、なかなかの善戦である。30分のタイムアタックを終え、コックピットから出たときには、汗ビッショリだった。目標タイムの、1分6秒台まであと少し。今日の課題をしっかり把握して、次に生かそう!

あまりのリアルさに本気で本物と勘違い!

「はーい! お疲れ様でした」という声で、我に返る。さっきの汗が嘘のように、部屋は涼しい。ここは東京メトロの赤坂駅近くにある東京バーチャルサーキット(通称:TVC)。都内でサーキット走行のシミュレーションを体感できる場所。集中しすぎて忘れてしまうが、先ほどのタイムはシミュレーションでのもの。何を隠そう私もサーキットで走行2回目のド素人である。ではなぜ、そんな私がシミュレーションとはいえ、そんなタイムを出せたのだろうか?

シミュレーションといってもテレビゲームの延長戦上のようなものとは訳が違う。7メートルの大型スクリーンの前に、ポルシェ 966 GTのコックピットを設置。 さらにグローブ必須のステアリングは、ダウンフォースがかかると重みを増し、縁石に乗ったときや、マシンの挙動が乱れたときなど、実際のレーシングマシン同様のトルクでのキックバックが再現されている。リアルすぎる乗り味に、皆30分のトレーニング後は汗だくになるほど。まさにバーチャルサーキットなのだ。中には、シミュレーションなのに、車酔いしてしまう人すら出るという。
 

▲マンションの1階にある東京バーチャルサーキット。外観からは中に広がる本格的なシミュレーションはイメージできないが、実際は? ▲マンションの1階にある東京バーチャルサーキット。外観からは中に広がる本格的なシミュレーションはイメージできないが、実際は?
▲視界のほぼすべてをカバーする7mの巨大スクリーンと、実車同様のステアリングフィールを誇る、高精度の大型レーシングシミュレーター ▲視界のほぼすべてをカバーする巨大スクリーンと、実車同様のステアリングフィールを誇る、高精度の大型レーシングシミュレーター
▲ステアリングは実車同様の重さと挙動をほぼ完全に再現しており、
ダウンフォースがかかると重みを増し、縁石に乗ったときや、マシンの挙動が乱れたときなど、実際のレーシングマシン同様のトルクでのキックバックがある。そのためグローブ必須となっている ▲ステアリングは実車同様の重さと挙動をほぼ完全に再現しており、ダウンフォースがかかると重みを増し、縁石に乗ったときや、マシンの挙動が乱れたときなど、実際のレーシングマシン同様のトルクでのキックバックがある。そのためグローブ必須となっている

サーキットでは誰でも速くなれる! 塾長による熱血指導

前述させていただいたタイム差は4秒だが、実は初日は散々なものだった。筑波サーキットのコースも把握せず、ゲーム感覚でがむしゃらに飛ばした。カーブでは曲がりきれず、何度もスピン。そしてクラッシュ。ベストラップも1分24秒という結果だった。

そこで、ド素人である筆者に、TVCの塾長から熱血指導いただいた。
※塾長こと砂子智彦。元レースドライバーにして現役引退後も精力的にレーサーの指導にあたり多くの塾生を輩出している。

指導ポイントは簡潔に言うとこうだ。
1.コースをそらで書けるようにしろ!
2.コーナーごとに正しいブレーキポイントを見つけろ!
3.コース上で最適なギアを見つけろ!
4.最適なライン取りを見つけろ!

「サーキットではさっきあげた4つのポイントを正確に再現できれば誰でも速く走れる」 あまりの熱血っぷりに、面食らった筆者であったが、 沸々と湧いてくる「速く走りたい」という感情を感じながら、取材を終えた。

YOUTUBEなどでアップされている映像で勉強することができるというので、後日、編集部員とともにご指導いただいたポイントを徹底的に勉強をした。コースをプリントアウトし、動画でブレーキポイント、シフトチェンジを盗み、書き込んだ。ライン取りも記載し、すべてをそらで書けるようにした。

そして挑んだ、2回目のチャレンジ。その結果たった1週間で、それなりのタイムを出すことができた。もちろん塾長には「まだまだ! ブレーキがあまい! 再現性もイマイチ!」と熱くご指導いただいたが、走ったあとは満足感にあふれていた。

データを交えて「第1コーナーはもう少しブレーキポイントを遅らせられる」などさらに早く走るためのアドバイスをいただき、次はもっと走れると確信を持って帰ることができた。

1回目と2回目で最も変わったところは、コースでの最高の走りをイメージしきれるようになっていたこと。目を閉じれば、たとえ通勤電車の中でも、筑波サーキットを最短ラップで走れる。そうなっていれば、いざ本番となっても自然と体が動くようになっているというわけだ。

プロも認めるTVCの実力! その門戸は誰にでも開かれている

少し説明をさせていただくと、TVCにはプロレーシングドライバーから、走行会のタイムアップを目指すアマチュアレーサーのトレーニングや、一般のモータースポーツファンのサーキット体験、ストレス解消など、様々な車好きの方が訪れる。それぞれの状況に合わせた30分走行とデータ分析を行う4つのトレーニングコースと、15分のフリー走行の中から好きなメニューを選ぶことができる。実際、我々が取材に伺った前では、カップルらしき男女2人がサーキット走行を楽しんでいた。

日本にはまだこういった本格的なシミュレーションは少ないが、ヨーロッパでは主流だという。プロのドライバーが、海外などあまり走る機会がないサーキットでのレース前にイメージトレーニングとして活用するらしい。そのため海外のサーキットをまるでホームのサーキットのように知り尽くして走る。

つまり、それほどまでにイメージをするということは大事なのだ。かくいう筆者も、筑波サーキットには行ったことがないが、目を閉じればコースをイメージできるようになっており、すでにホームのサーキットだと感じている。きっと、本当の筑波サーキットを走ったとしても、今の持っているイメージは継続できるだろう。

サーキットで走るということは、限られた人間だけのもの。F1やSUPER GTを見ていてそんなふうに思っていたが、固定概念は覆された。いきなりサーキットでの走行は危険が伴うしハードルが高いと思っている方でもTVCであれば、リアルさはそのままに安全にサーキット走行を体験することができる。シミュレーションで自信がついたら、本当のサーキットでチャレンジすれば良いだろう。筆者自身も、実は走りたくなっている人の一人である。

すでにサーキットで走っている方でも、もっと速く走るためのアドバイスを塾長が熱く指導してくれる。プロのレーシングドライバーも認めるデータ解析と合わせての塾長の指導は一見の価値ありだ。

▲塾長に指導を受ける実際の画像! 本来はデータをもとに解説してくださるのだが、今回は闘魂を注入いただいた! ▲塾長に指導を受ける実際の画像! 本来はデータをもとに解説してくださるのだが、今回は闘魂を注入いただいた!
▲データによる解析。1ラップにおける塾長とのアクセル、ブレーキタイミングなどの違いをデータで見ることができる。これにより、どのコーナーでブレーキが遅いなど、明確な改善点が見つかる。ちなみに、赤が塾長で、黒が筆者である。 ▲データによる解析。1ラップにおける塾長とのアクセル、ブレーキタイミングなどの違いをデータで見ることができる。これにより、どのコーナーでブレーキが遅いなど、明確な改善点が見つかる。ちなみに、赤が塾長で、黒が筆者である。塾長のタイムは筑波のコースレコードに迫る1分3.89秒
text/編集部
photo/編集部