フェルディナント・ヤマグチ

みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。

前回のテーマ(電気自動車の未来について)からまた時間がたってしまいました。うーん、このままではいかん……。せっかく本企画を楽しみにしてくださっている読者諸兄に申し訳が立ちません。

普段は「原稿はまだか!」「どこで遊び歩いているんだ!!」という編集者からの怒りの連絡を華麗にスルーしておりますが、初めて私から担当編集者のケツを蹴り上げて先までの対談スケジュールを入れてもらいました。

これからはコンスタントに本企画をお届けできるはずなので、どうぞお楽しみに。

ま、当企画がスタートした当初もそんなことを言っていましたので、どうなるか分かりませんけれどね。相手があることですし。

さて、私はマスクをかぶってちょいちょいメディアに顔を出したり、拙稿を掲載いただいたりしていますが、これは世をしのぶ仮の姿。1985年に大学を卒業して以来、半導体・電子部品かいわいで日々マジメにリーマン稼業にいそしんでおります。

本名を明かしていないのも、マスクをかぶっているのも、「フェル業」をやっていることが本業バレするのを恐れてのことです。なにせ地味な業界ですから。

昨今、自動車業界は深刻な半導体不足により減産や工場の操業停止を余儀なくされる事態に見舞われております。

今回はまさに私の本業である「半導体」と自動車業界の話をお届けします。内情を知る業界人だからこそ分かる裏事情も織り交ぜながら、西村編集長と話をしていきましょう。

※この対談は2021年6月4日に行いました。
 

現代の車の中は半導体だらけ

カーセンサー・西村編集長(以下、西村) フェルさんご無沙汰しております。今回もよろしくお願いします。

フェルディナント・ヤマグチ(以下、フェル) 本当にご無沙汰ですね。長らく放置プレーが続いたので、この企画はボツになったのだとばかり思っていました。ま、よろしくお願いします。で、なんですか、今回は「半導体」がテーマだとか。

西村 はい。僕は様々なメディアから取材を受ける機会も多いのですが、ここ半年ほど必ずと言っていいほど昨今の自動車業界の半導体事情について質問されます。

フェル そうでしょうね。業界構造すら激変させかねない深刻な問題ですから。

西村 もちろん、僕も日々のニュースを追いかけていますが、やはり本職の方から話を聞いて勉強したいと思いまして。

編集担当・大津 私も一緒に勉強させてください。そして、今回はすごくホットな話になると思いますので、3日連続で記事を掲載していこうと思います。

フェル 分かりました。なんなりと。

西村 自分もそうですが、おそらくカーセンサーの読者全員が半導体に詳しいわけではないので、まずは本当に基本的なところをおさらいしておければ。そもそも、半導体とはどのようなものなのでしょうか。そして、我々の生活にはどのくらい入り込んでいるのでしょうか。

フェル ではまず、半導体の定義からお話ししましょう。世の中には、導体と絶縁体というものが存在します。導体は電気を通すもの。鉄、銅、水などですね。反対に、絶縁体は電気を通さないもの。

西村 ゴムやプラスチック、ガラスなどがメジャーなところですね。

フェル そのとおりです。半導体はその中間の性質を備えた物質です。ある条件では電気を通し、逆にある条件では電気を通さないというオン・オフのスイッチングができるのです。半導体のひとつずつの線をオン/オフすることで0と1を表します。それにより、絵を描いたり、ものを覚えたり、判断したりすることができる。そうしたデバイスを総称して半導体と呼んでいます。

西村 ICやLSI、LEDなどが半導体デバイスになります。

フェル 現在、半導体は身の回りのあらゆる製品に入っていて、みなさんにとって最も身近なスマホには数百もの半導体が使用されています。それこそ、私たちが朝起きてから夜寝るまで、何億個の半導体に触れているのか想像もつかないほどです。

西村 半導体はスマホだけでなく家電にも使われています。その数は今後ますます多くなるでしょうね。

フェル はい。だから海外の半導体を作る会社は、いま結構な利益を上げています。日本の会社は相変わらずですが……。そして、半導体の周辺産業~例えば、半導体を作る装置を製造する会社や材料のメーカーも、もうかっています。

西村 そして、半導体は我々が乗る車にもたくさん使われている。

フェル はい。現在の車は電子デバイスの塊です。例えばエアコンやカーナビ、パワーウインドウ、パワーシートにも半導体が使われています。車の場合は、一つひとつの制御を小さなECU(Electronic Control Unit)というもので行っています。超ざっくり話すと、高い車であればあるほどコントロールする部分が増えるのでECUの数も多くなります。その数があまりにも増えすぎて、車の中にECUを置く場所がなくなってきているというのが現状です。
 

メルセデスベンツ Gクラス▲半導体はあらゆる製品に使用されている私たちの生活に欠かせないもの(家電製品イメージ)

西村 私たちが暮らす中で、電気を使うものにはまず間違いなく半導体が使われている。そう考えても問題ないですか?

フェル そうですね。もう必ず使われていると言っても過言ではありません。しかも、その数がとめどもなく増え続けている。そう考えてもらって大丈夫です。

西村 読者の方々は、半導体と聞いてどれくらいのサイズ感のものが製品の中に入っていると考えればいいですか?

フェル 中心の石の部分は2cm角くらいもあれば、0.5mm角というものもあります。電車に使われるパワー半導体では10cm角というものもありますが、それは特殊なもの。普通の人が使う製品に入るものだと、最大でも2cm角とかじゃないかな。それより大きなものはないと思います。
 

電気自動車よりガソリン車の方が多くの半導体を使っている

西村 なるほど。半導体はとても小さなものだということが分かりました。前回のこの企画では電気自動車の未来について話をしました。この企画ではまだ取り上げていませんが、自動車業界ではADAS(エーダス:先進運転支援システム)も大きな話題です。それらが進んでいくと、使われる半導体の数も加速度的に増えていくという理解で大丈夫でしょうか。

フェル ADASに関してはその理解で大丈夫ですが、電気自動車に関しては単純に現在の車の形で電気自動車になると、半導体の数は逆に減っていきます。先日あるティア1(メーカーに直接部品や製品を納入するサプライヤー)の方に「今後、車の電動化が加速すると御社はもうかりまくって笑いが止まらないですね」と話したら 「それは違います。今、この瞬間にすべての車がEVになるとうちの売り上げは20%ダウンです」と聞きました。

西村 それはなぜですか?

フェル 現在のガソリン車やディーゼル車には、燃料噴射や温度管理など様々な形で電子制御が入っていてセンサーをたくさん使っていますが、 電気自動車だとそれらが必要なくなるのです。
 

日産 アリア 前回の放談テーマでもあった「電気自動車」(日産 アリア)。素人感覚では半導体がたくさん使用されているようなイメージなのだが……

西村 電気自動車の場合は、ガソリン車ほど複雑な制御が必要ないということですね。日本人の感覚だと、 ハイブリッドカーやPHEVなどガソリン車とEVの中間的なものにまだ安心感を覚える傾向があって、メーカーも様々な選択肢を用意するという形を取っています。そうすると、エンジンを置くスペースとバッテリーを置くスペース両方に対応できる車作りが必要になって、制御面でも両方用意しないといけない。でも、半導体不足の影響を考えると実はEV専用モデルを生産すると供給が安定するなんてこともありそうですね。数が出れば価格も抑えることができるし。

フェル それもひとつの考え方として理解できます。

西村 欧州は政治も含めて電動化、それもEVの方に舵を切っています。ただ、すべてを置き換えたときにエネルギーやサプライヤーなどを置き換えることができるのか。そこにも難しさがありますね。

大津 お話が盛り上がっているところにすみません。今回はまず半導体の基礎の基礎にあたるお話を伺いました。この続きは、次回のお話にしてもよろしいですか?

フェル 分かりました。次回からはいよいよ現在世界で起こっている深刻な状況について迫っていきましょう。

大津 楽しみにしています!

(次回へ続く!)
 

文/フェルディナント・ヤマグチ 写真/いらすとや、日産
フェルディナント・ヤマグチ

コラムニスト

フェルディナント・ヤマグチ

カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。