【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】自動車業界と半導体について(後編)
2021/06/14
みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。
前回は自動車業界の深刻な半導体不足がなぜ発生したかをお話ししました。
読者諸兄におかれましても工場の操業停止や納車の遅れなど、昨今の半導体需給に起因する諸問題をニュースで目にする機会も多いと存じます。もちろん、不肖フェルもその手の記事に目を通してはいるのですが、記者自身が本質を理解せずに書いているケースが多いので、妙に内容が薄かったりトンチンカンな視点で書かれていることが多いのが現状なのです。
前回の話をしっかり読んでいただければ、ニュースの捉え方も変わってくるはずです。
しかしまあ、このままだと自動車業界は当分明るい話がありそうにありません。そんなことでは身もふたもなくなってしまうので、今回の半導体大特集の最後は、西村編集長と自動車業界の未来について明るく楽しく、かつ少しだけ真面目に考えていこうと思います。
※この対談は2021年6月4日に行いました。
異業種メーカーが自動車を作るのは必然の流れ?
編集担当・大津 フェルさん、編集長。今回もよろしくお願いします。これまで2回にわたり、半導体とは何か、なぜ今自動車業界が半導体不足に苦しんでいるのかを伺ってきました。最後は、今後自動車業界がどうなっていくかをお二人の視点でお聞かせいただければと思います。
カーセンサー・西村編集長(以下、西村) まず、目先のことから考えると、いまの状況はいつ元通りになるのかが知りたいです。新車販売は将来の中古車流通量に直結するので、この状況が長引くと必ず中古車業界にも大きな影響が出てきます。
西村 そんなにかかりますか。本当に深刻ですね……。
西村 そうなると、当然価格も跳ね上がりますよね。
西村 一律ですか! そんなすごいことがあるなんて。それにしても、半導体を多用した電子デバイスは、例えば、手巻き時計のような何十年もメンテナンスしながら大事に使い続けようというものではなく、世代が古いと有無を言わさず変えざるを得ないようなサイクルになる と思います。ということは、いまの供給不足、需要過多という状況は一過性のものではなく、今後も続いていくということですね。
西村 おそらく、これからの車も様々な電子デバイスと同じようになっていくかもしれません。
西村 リモートワークが進むと、ますます電子デバイスなしには考えられない世の中になりますね。当然、高性能な半導体の需要は今以上に増える。
西村 車単体でものを考えるのではなく、生活の中のひとつのピースとしてあらゆるものとかみ合っていく世の中がすでに始まっています。
西村 ソニーのVISION-Sはすでにその姿が世の中に公開され、公道での走行テストも行われています。
西村 EVが主流になり半導体をユニット化できると、これまでの常識では考えられなかったところが車を作ることもあり得るということですね。
機体は同じでもそれぞれの航空会社にファンがいる。車もそうなっていく!?
西村 MaaS(バスや電車からカーシェアまで、すべての交通機関をITでシームレスに結びつけるという概念)も盛り上がっていますよね。ただ、その議論の中でも動くものを作るのは特殊技術が必要だから、あくまで自動車メーカーが担うというのが3年ほど前まで主流でした。
西村 異業種から参入してきた企業が完成車までは作らなくても、何割かはソフトウエアメーカーなどが作るようになる。提携か協業かの差はあるでしょうが、その流れはすでに見えてきています。
西村 EVに関しては「EVだからこそできる自動車メーカーのアイデンティティは何か」という流れにシフトしてきています。
西村 モーターは、出力の上げ下げを自由にコントロールできるじゃないですか。調理に例えると、かつてまきや炭で火を起こしていた世界からIHにまで進化し、どういう温め方をするのか、(火を使っているような)色の味付けをするのか、そういう部分で各社の個性が出る。
西村 調理の時間だけでなく、掃除しやすい、壊れにくいというのもメーカーの個性です。どこでどんな表現をすると、そのメーカーらしさにつながるのか。EVはよく「自動車としての個性がなくなる」といわれますが、僕は逆にEVだからこそ自動車メーカーが自分たちらしさを打ち出す幅が広がると思うんですよね。
西村 あるメーカーはデザインを際立たせるかもしれないし、別のメーカーはインテリアの質感を高めるかもしれない。走りで個性を出すのも、スポーツカーのような速さもあれば、エコな走りというアプローチもあるでしょう。そのコミュニケーションを各社が模索しています。
西村 その表現が様々な半導体を使うことでベースアップできるようになる。他社より高性能な半導体を積むことで安全性をアピールしたり、快適性を高めたりできるようになる。まさに多様化ですね。逆に言うと、これまでの車のようにメガヒットしないとコストを回収できないような開発の仕方ではなく、先ほどフェルさんから教えてもらったようにいくつもの企業が分担して作っていくことで、可能性が大きく広がっていくのではないでしょうか。
西村 開発も、これまでは自動車メーカーが一気通貫で行っていたものが、開発を分担することで時間もコストも抑えられるようになるかもしれません。そうすると、車がもっとおもしろくなるかもしれない。ポジティブな意味で業界の常識が変わっていくことを期待したいです。
西村 間もなくEVの方がよりこだわったってブランドを打ち出すという時代がやってくると考えています。そうなると、どこかが思い切ったことをやって「これ、楽しいでしょう!」というものが必ず出てくるはず。ある意味、テスラはその先駆けだと思います。
西村 いまだとHonda eは「ホンダらしいEVの楽しさってこういうこと」というのを分かりやすい形で打ち出すことに成功していますよね。一方で、今のブランドの延長線上で電動化を進めているメーカーもあります。その意味では、極端にEVかクラシックカーかではなく、その間のグラデーションが埋まっていく感じになるのではないかと感じます。
西村 だからこそ、カーセンサーをはじめとする自動車メディアは、人々が複雑すぎることで興味を失わないように、みんなが自分の好みで楽しめるものを選べるんですよということを接合し、購入後の未来を描いていくことが重要になるでしょうね。
西村 航空業界だと、JALとANAは同じ飛行機を使いますが、JALが好きな人とANAが好きな人に分かれます。車もサービスの違い、搭載されるエンタテインメントシステムの違い、どんな形で家やスマホとつながるかということで好きなメーカー、好きなブランドに差が出てくるのかもしれません。
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。
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