500万円オーバーのトヨタ iQ!? アストンマーティン“らしさ”をふんだんに盛り込んだシグネット!
2020/08/15
高いのには訳がある! 随所にアストンマーティンの息がかかる
2011年に登場したアストンマーティン シグネットは、トヨタ iQのOEMモデルだった。シグネットのベースとなっていたのは、1.3L直4エンジンを搭載したトヨタ iQの「130G」で6速MTとCVTをラインナップしていた。
衝撃的だったのは、その価格。
ベース車両が170万円前後だったのに対して、シグネットは6速MTモデルが475万円、CVTモデルが490万円だったからだ。
基本のレザーインテリアこそ標準装備だったが、オプションを選んでいくとすぐに500万円をオーバーした。
例えば、レザーの特別色は60万2700円、座る部分と背もたれにアルカンタラを選択すればプラス11万7600円、キルト加工が施されたアルカンタラを選択すればプラス25万3050円、といった具合だ。新車をオーダーする人たちは……大変だ。
とかく高額なことばかりが注目されてしまったシグネットだが、単にアストンマーティンのエンブレムに付け替えられた車ではなかった。
トヨタから供給されたiQの完成車をわざわざバラし、作り直す手の凝りようだった。
ハード面はトヨタのまま消音材を追加し、アストンマーティン“らしさ”を内外装の随所に与えていた。これが、アストンマーティンのデザイン部門が好んで発する「デザイン言語」というやつだ。
フロントマスクには、昨今のアストンマーティンらしいメッシュ状のフロントグリルが与えられ、ボンネットやフロントフェンダー、リアのテールゲートの形状もiQとは異なっていた。量産するための金型……決して安くなかったはずだ。
メーターパネルは基本デザインこそiQ譲りだが、数字のフォントはシグネット専用。
また、メーター内の背景には腕時計のギョーシェ加工っぽいデザインが施されていた他、メーターパネルカウルは当時のアストンマーティンに共通のデザインにわざわざ変更されていた。
テールランプも、ドアハンドルもシグネット専用だったし、ビス留めされたアルカンタラのルーフライニングも美しかった。
ダッシュボード、センタークラスター、ドアの内張、シートにはDB9と同じメーカーの本革が奢られ、使用する本革の“量”もほぼ同等だったという。
また、アストンマーティンがこだわる塗装や研磨作業も、機械ではなく人の手によるもの。
1台のシグネットを完成させるにあたって、実に150マンアワー(1人で作業したら150時間分)がかけられていたそうだ。ちなみに、1台のDB9を生産するには200マンアワーかかっていた。
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アストンマーティン シグネット(初代)×全国ベースにiQを選んだわけはCO2排出量削減と新たなマーケットの拡大
シグネットの投入にあたって、アストンマーティンは次のように主張していた。
1.景気に左右されることなく安定、継続的に売れる廉価モデルの必要性
2.ヨーロッパの都心部に住む顧客が必要とする、シティコミューターの提供
3.CO2排出量削減
一番のポイントはCO2排出量削減だったはず。というのも、地球温暖化対策として自動車メーカーは、生産台数あたりの平均CO2排出量を下げることが求められているし、基準値を満たせない場合は課徴金が課せられるからだ。
そこで、V8やV12エンジンといった大排気量モデルしかラインナップしていなかったアストンマーティンは、CO2排出量の少ないトヨタ iQに目をつけたというわけだ。残りの2つのポイントは、おそらくもっともらしい“後付け”だろう(笑)。
新型車開発のための資金を捻出する必要もなければ、トヨタ iQはフツーのガソリン車ゆえに、既存のディーラーでもメンテナンスに支障をきたすこともない。
OEM供給された車両だが、徹底的にアストンマーティンらしく仕立てることで、既存オーナーからのセカンドカー/サードカーとしての引き合いだけでなく、エントリーモデルとしての新たな層からの需要もあるだろう、という算段だった。
アストンマーティンとしては年間4000台という販売目標を掲げていたが、販売は苦戦に苦戦を強いられた……。結果的には、販売を終了した2013年までにシグネットは150台が売れたにすぎなかった。お金持ちがターゲットとはいえ、財布の紐は固かった。
いやっ、お金持ちだからこそ、どれだけ“らしさ”があっても、ベース車両との価格差に納得しなかったのかもしれない。
そして現在、皮肉なことに日本に限らず世界的に「希少車」としてプレミアムが付いている……。
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アストンマーティン シグネット(初代)×全国自動車ライター
古賀貴司(自動車王国)
自動車ニュースサイト「自動車王国」を主宰するも、ほとんど更新せずツイッターにいそしんでいる。大学卒業後、都銀に就職するが、車好きが講じて編集プロダクションへ転職。カーセンサー編集部員として約10年を過ごし、現在はフリーランスのライター/翻訳家として活動している。
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