【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】自動車業界と半導体について(中編)
2021/06/13
みなさまごきげんよう。フェルディナント・ヤマグチでございます。
「半導体の供給不足により自動車メーカーが工場の稼働を停止」というニュースをご覧になった方も多いでしょう。5月18日には、これまで供給網の整備などでこの状況をしのいでいたトヨタも6月に初めて国内工場の一時停止をするというニュースが流れました。
1台の車は数万点にもおよぶ部品が組み合わさってできています。半導体はとても小さく、車に使われるのはどんなに大きくても数cmほどのサイズ。それでも、ひとつでも足りなければ車を製品として世に送り出せません。
半導体不足という自動車業界を襲った深刻な問題。今回はその核心に迫ります。専門的な話も出てきますが、みなさんしっかりついてきてください。
※この対談は2021年6月4日に行いました。
グローバルで分業化が進んだ半導体業界
編集担当・大津 フェルさん、編集長。今回もよろしくお願いします。前回は本題に入る前に半導体がどういうものなのかを読者の皆さんにも理解していただこうと、基礎的なお話を伺いました。いよいよ今回から、自動車業界で現在起こっている問題についてお話を伺えればと思います。
カーセンサー・西村編集長(以下、西村) 車はスマホや家電などと比べて大きな製品だし、使う半導体の数も半端じゃないから、半導体メーカーにとっては上得意では? という感覚があります。実際、半導体業界ではどのような位置付けなのですか? 例えば半導体が使われている量だとか、半導体の供給先として自動車産業が占める割合などを教えてもらっていいでしょうか。
西村 思ったよりも少ないですね。
西村 台湾セミコンダクター・マニュファクチャリングですね。
車載半導体はドイツのインフィニオン・テクノロジーズとオランダのNXPセミコンダクターズ、そして日本のルネサス エレクトロニクスが3大メーカーといわれています。
半導体は中の線の幅が細いほど性能が高くなりますが、これらの会社も線幅が40ナノメートルより細いものの製造はTSMCに委託しています。
西村 それはなぜですか?
大津 数千億! それをいくつか作ったら兆の設備投資が必要ですね。
このようなメーカーを“ファブレス”といいますが、ルネサスなどはミドルレンジまでを自身で製造し、ハイエンドの製品を外部に委託しているので“ファブライト”といわれています。
西村 なるほど。そして、その能力をもった会社に生産依頼が集中する構造になったわけですね。
大津 半導体市場での車載のシェアが1割強ですから、同じくらいでしょうか。
西村 車載向けのものはどれくらいの線幅ですか?
大津 6倍も! それはなぜですか?
西村 確かに。
西村 そうなると半導体メーカーの立場で考えれば、値段は高いし手間もかからないからスマホ向けのものを作った方がいいとなります。
コロナに停電、火災……。半導体業界を襲った悲劇
西村 突如キャンセルされた方はたまったもんじゃないですね。当然、他の業界へ営業をかける。
一方で、同じ時期に巣ごもり需要でスマホやゲームPCをはじめとするハイエンドPC向けの半導体の注文が大量に入った。そのため、半導体メーカーはそちら向けの生産にシフトしました。一方、ふたを開けてみたら自動車はパンデミックの中でも思ったより需要が下がりませんでした。
西村 日本でも公共交通機関を使うのが不安だからと、これまで車は必要ないと考えていた人が車を買うという現象も見られましたね。自動車業界は再び半導体を注文するけれど、半導体メーカーは生産体制をガラッと変えたからそれを急に戻すことができない。スマホやハイエンドPCの需要が減ったわけではないから。
西村 つまり、いまの状況はたった1%元に戻っていないだけで起こっているということですね。
西村 それはなんですか?
西村 最先端の半導体だけでなく、大量に使う部分まで供給がストップした……。
大津 ルネサスの火災は日本の自動車メーカーなど取引先からの応援が入って、火災から1ヵ月で生産が再開し、5月末時点で9割弱まで生産能力が復旧したという報道がありました。
半導体不足の影響で中古車の落札価格も上昇傾向に
西村 もう少し話を掘り下げてもいいですか。半導体が不足しているという危機感とそれをすぐには補えないという事情はよく分かりました。この話は自動車メーカーが全体的に業績を下方修正するような話なのか、あるいは特定メーカーや特定の機能の部分に影響が出る話なのか。そのあたりはいかがでしょう。
西村 なるほど。それはかなりの数です。
それによって減産を強いられる事態も出ています。シェアが低いとはいえ、この影響は自動車業界にも出てくるでしょう。先ほど話した100万台、300万台という数字はあくまで電動車の数字です。普通の車にも半導体はたくさん使われているので、今年はかなり厳しいかもしれないですね。
西村 ちなみにいま、中古車まわりでは新車がお客さんのところに納車できないので下取り車が発生しないために、オークションに車が出てこなくて落札価格が上がっているという現象が出てきています。
西村 業態にもよりますが、仕入れ値に影響が出ているので中古車だけが売れて、中古車業界がもうかるという単純な構図にはなかなかなっていないですね。
西村 それもありますし、あとは単純に商品を仕入れにくくなっているという状態だと思います。中古車マーケットの需要は盛り上がっていますが、すべての販売店がすべからく利益を上げているかというと、必ずしもそうではなくグラデーションがある状況でしょうか。
西村 コロナ禍になってからは、世界中でハイエンドの車やスポーツカーの人気が高まっています。どこかに行って何かを楽しむことができなくなった中で、ただ走るだけで楽しめる、あるいは1人でいじって楽しめる車が日本はもちろん、世界中で盛り上がっています。
大津 すみません。そろそろ中編のお話を終わりにしてもいいでしょうか。いまの半導体不足がなぜ発生したのか、それをすぐ解消できない理由は何かがよく分かりました。後編では半導体を軸にこれからの自動車業界がどうなっていくか、フェルさんの考えをぜひ聞かせてください!
(次回へ続く!)
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。
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