【フェルディナント・ヤマグチ×編集長 時事放談】電気自動車の未来について(中編)
2021/04/25
みなさまごきげんよう。 フェルディナント・ヤマグチでございます。
何かと話題の電気自動車を語り尽くす、時事放談企画の中編です。昨年秋頃からニュースでもやたらと話題に上がるようになった電気自動車。
「あと10年で普通のガソリン車には乗れなくなっちゃうの……?」と焦っている人も多いかもしれませんが、果たして本当にそうなのでしょうか。
今までEVに否定的だった不肖フェル。ポルシェ タイカンに試乗してその走りに魅了され、「けっこうアリかも」とイキナリ肯定派に寝返った訳ですが、年明けに別の電気自動車の試乗でロングドライブ出かけたところ、今度は散々な目に遭いまして、また懐疑派へと転向してしまったという経緯があります。
移ろう乙女心。うーむ。EVとはどのように向き合ったらよいのでしょう。
【前編はこちら】
車に搭載される半導体は数世代前の古い型が大半?
前回は最後に、EVは電気残量が減ってくると心臓に悪いという話をしました。
ガソリン車はガス欠になっても最悪、ガソリンを持ってきてもらうことができますから。
昨年、私も久しぶりに首都高の上でやらかしましたよ。試乗車の燃料計が壊れていて、ほぼ満タンを指しているのに実は空っぽだったんです……。
それは大変でしたね……。
あれがEVだったらと考えるとゾッとします。確実にレッカーですから。
その流れもいずれ変わってくると思います。
携帯電話も出始めの頃はみんな充電が切れちゃって、みたいな感じでしたが、みんながスマホを使うようになったらモバイルバッテリーを持ち歩くようになりましたよね。EVがもっと普及すると、車ですべてを担保するのではなく、その課題を解決するサービスが出てくるはずですから。
今、すごく面白いヒントをもらいました。私はスマホと車ってそもそも求められるものが違うと感じています。
それは具体的にどのようなことでしょう?
期待値の高さです。スマホは充電切れになっても仕方ないかとなりますが、車は絶対に許されない。
確かにスマホと車では精神的なダメージの大きさがかなり違いますね。
私の本業である半導体の話にもつながりますが、買ったスマホが2年で壊れても「あーあ」で済むじゃないですか。
むしろ新しいモデルも出たことだし、これを機に買いかえるか、とか。でも、半導体や電子部品が原因で車が2年で壊れたらブチキレますよね。
メーカーもお客さんも絶対に許さないでしょうね。
同じ消費財なのに意識が全然違う。だから車は半導体に対する要求精度・耐性というロバスト性がものすごく求められています。
車には2世代か3世代前の半導体が使われるんですよ。業界で”ネジクギと呼ばれるような枯れたICを使っている。
数億個レベルという圧倒的な数が出ていて、どんな使い方をしたらどんな症状が出るかが分かっているものですね。
今EVに乗っている人は、半導体に例えるなら性能はいいけれどまだどんなことが起こるか分からない最先端の製品。それを臆せず使っている層だと思います。
EVの新車価格を考えると、ある程度お金を持っていて、チャレンジ精神にあふれている人。
私を含め、毎回中古車を選んで1台の車にすべてを求める人は、もし車が電欠で止まったら車を蹴飛ばしますよ。そうさせないためにも、国や自動車メーカーが啓蒙をしないといけない気がしますね。
ガソリン車からEVに変わっていくためには、乗り方や維持に対する意識の変化が必要になると思います。
でも難しいのは見た目が変わらないのでユーザーは「同じ車でしょう?」となってしまう。
そうそう。みんな、自動車という製品に甘えていますね。甘えているユーザーがあまりにも多い。
ホテルや旅館などがいい例ですが、日本人はいいサービスを受けたときにその対価をしっかり払っていくという概念がないことも関係しているのかもしれません。
お金さえ払えば最大のサービスをしてもらって当然というか。チップという文化がある欧米とは異なる感覚なのでしょう。
脱ガソリン車という目標は本当に達成できるのか?
小池都知事が東京で販売する車を2030年までに脱ガソリン車にするという方針をぶち上げた。期間はあと10年と区切りましたね。
これも難しいのは、「電動化した車」というグラデーションのある表現で語られることですね。一般の人のイメージは電動化した車=ピュアEVだと思いますが、この場合は必ずしもそうではない。
トヨタのハイブリッドカーはもちろん、マイルドハイブリッドもOKですからね。
その辺がやっぱまだみんなもピンときてないし、よくも悪くもたくさん分岐があっていろんなグラデーションがあるので分かりにくくなっている原因だと思います。
電気だけかガソリンだけかって言われるとすごく簡単に議論できるけれど、なかなか簡単にいかない。日産のe-POWERのような電気とガソリンのいいとこ取りみたいなのもあるし。
そういうところが理解されずにここ数十年は燃費の数値だけが前面に出ていました。そこに突然、対局にある電気というものを押し付けられ、実はもう電動化された車に乗っている人もなんとなく「エンジンがなくなるのか」と感じてしまうのではないかと。
ものすごくファジーなまま議論がされていると感じています。
東京都はもともと2030年に乗用車新車販売台数に占めるZEV(電気自動車など、排気ガスを出さない車)の割合を50%に、そして2050年に都内を走る車はすべてZEVという目標を立てていました。これはかなりハードルが高い目標です。
どういう形で制限するかにもよるでしょうね。例えば、ZEV以外は都内に入れないよとか。
そうか、その手があるか。
街の中心部はバスとタクシーとEVしか入れないとか、EV以外はこのレーンを走っちゃダメなど方法はいろいろあるでしょうし、扱いを変えるというのは変化を促すうえで必要な工程だと思います。
販売できなくするだけが解ではない。
新車でガソリン車が買えなくなると、たぶんカーセンサーの価値はめちゃくちゃ上がると思います。
「ガソリン車を買えるの、中古車しかないじゃん」って(笑)。
東京都の指標から考えると、中古車を含めて純粋なガソリン車を普通に買えるのってあと15年前後ではないかと思います。
それがなくなり2045年くらいになると、「ガソリン車乗っているの? 好きだねえ」となるでしょう。
よほどの趣味人か、変態じゃないと選ばない。
だから、今から15年後くらいに乗ること自体が禁止されるのか、新車では売らないよとなるだけなのか。そこが大きな分岐点になると思います。
あとは自動車メーカーがどう取り組むかですね。トヨタは水素を含め、グラデーションをつけながら様々な開発を行っているし、マツダは昔からバイオ燃料に取り組んでいます。
そこにはエリア最適もあります。日本は化石燃料で電気を作っているので「化石燃料をそのまま燃やしている車と何が違うの?」という話もあります。
一方で、オランダのように風力発電が強い国はEVとの相性がいい。
藻からバイオ燃料が作れるなら島国の日本は相性がいいかもしれません。「ガソリン、電気、水素、どれが正解か!」ではなく、どういう最適の中でエネルギーを使っていくかを考えるべきかなと。
「何年からガソリン車はすべてダメ!」とすること自体が最適とは言えないのではないかということですね。小池都知事はどこにも相談しないで、2030年の話を言ったのかな。
それはないと思いますよ。小池さんは2018年に日産が主催したリーフの国内累計販売台数10万台を記念したフォーラムで講演もされていましたから。
豊洲の火消しでバタバタしていた頃にそんなこともやっていたんだ。
さりげなくそういうネタをブッ込まないでください(苦笑)。
私、何も聞かなかったことにしていいですか……。
僕が言いたいのは、メーカーなどと連携を取らずに自治体だけで決めるというのは考えづらいということです。
メーカーと自治体の連携と言えば、電気自動車などを災害時のバッテリー車両として使うということもやっていますね。
有事の際にはディーラーが持つリーフの試乗車を災害現場に派遣するという協定ですね。
日産はかなり力をいれていたはずです。
他のメーカーも本腰を入れて取り組んでいます。各エリアに電気自動車が何台かあれば、非常時にバッテリー内の電気でスマホを充電したり、ドライヤーを使うことができる。
移動手段以外にも社会貢献できる、ひとつの形ですね。
(次回へ続く!)
コラムニスト
フェルディナント・ヤマグチ
カタギのリーマン稼業の傍ら、コラムニストとしてしめやかに執筆活動中。「日経ビジネス電子版」、「ベストカー」など連載多数。著書多数。車歴の9割がドイツ車。
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