▲14年10月に登場した現行シトロエン C4ピカソおよびグランドC4ピカソ。その魅力の本質は「他の何にも似ていない」という独創性にある。写真は5人乗りのC4ピカソ ▲14年10月に登場した現行シトロエン C4ピカソおよびグランドC4ピカソ。その魅力の本質は「他の何にも似ていない」という独創性にある。写真は5人乗りのC4ピカソ

上手いだけの画家、便利なだけの車は消えていく

過日、所用のため箱根方面に行った際、「箱根 彫刻の森美術館」まで足を伸ばしてパブロ・ピカソの絵を見てきた。常設展ゆえ作品点数はそう多くなかったが、やはりピカソ先生は最高であった。何が最高かといえばその「独創性」だ。

ピカソと同時代にも「やたらと絵が上手い人」はたくさんいたのだろう。しかし「ただ絵が上手いだけの人」は歴史のなかへ消えてゆき、ピカソのような(あるいはダリ、マグリットのような)独創性の塊だけが、後の世を生きる我々の心を今なお揺さぶるのだ。それが芸術であり、爆発である。

▲筆者が過日訪問した彫刻の森美術館の敷地内奥側にあるピカソ館。超が付くほどの有名作品は常設されていないが、数々の油絵やスケッチ、陶器などの作品を静かに堪能することができる ▲筆者が過日訪問した彫刻の森美術館の敷地内奥側にあるピカソ館。超が付くほどの有名作品は常設されていないが、数々の油絵やスケッチ、陶器などの作品を静かに堪能することができる

そして芸術という名の爆発だけでなく、自動車においても似たようなことは言える。

ただ便利な車というのはいつの時代もたくさんあり、それはそれで素晴らしいことである。しかしそういった車が人の(少なくとも筆者の)記憶に長くとどまることはない。ニューモデルが出るたびに記憶は上書き保存され、何かのきっかけで「あぁ、そういえばそんな車があったね」とたまに思い出すこともあるが、たいていは忘れてしまう。

車に対する考え方は人それぞれだろうが、少なくとも筆者は簡単に上書き保存される車ではなく「独創性の塊」的な車に、できることなら乗りたいと考えている。せっかっくだもの、人間だもの。

で、自動車界における「独創性の塊」といえばフランスのシトロエンが、唯一にして最高かどうかはさておき、正横綱の一人であることはほぼ間違いないだろう。

▲これぞ独創性の権化? 1955年から1975年まで販売されたシトロエン DS ▲これぞ独創性の権化? 1955年から1975年まで販売されたシトロエン DS

1950年代から70年代の「DS」に代表される内外装の独特すぎるデザインセンスを持ち、しかしそれでいて1949年に発売された「2CV」の本質、つまり「実用に根ざし、そして圧倒的に良好な乗り心地を備えた車であること」を貫き通すその姿勢は、他の自動車メーカーとは異質すぎるほど異質だ。前述のDSや2CVといった歴史的名作だけでなく、割とフツーなデザインであったモデル群であっても、シトロエンの車はその独創性ゆえにそう簡単に記憶が上書きされることはない。

そんなシトロエンの車はそれこそ往年のDSから、独立ブランドとなった最新のDSシリーズまで多種多様なモデルが流通しているが、今ここで注目したいのは新世代のマルチ・パーパス・ヴィークルたる現行C4ピカソおよびグランドC4ピカソだ。

▲向かって右が7人乗りのグランドC4ピカソで、左が5人乗りショートボディの現行C4ピカソ ▲向かって右が7人乗りのグランドC4ピカソで、左が5人乗りショートボディの現行C4ピカソ

……ピカソつながりという文脈上の観点というかダジャレではなく、単純にマネーの問題である。つまり今、それら最新独創的MPVの登録済み未使用車や超低走行中古車が、まあまあな勢いで増殖中なのだ。

例えばグランドC4ピカソ。これは旧型C4ピカソとほぼ同サイズとなる7人乗り仕様で、搭載エンジンは1.6Lの直噴ツインスクロールターボ。新車価格はベーシックな「セダクション」が353.9万円で、上級グレードの「エクスクルーシブ」が385.6万円。で、その中古車は今のところセダクションが290万円前後、エクスクルーシブは320万円前後が中心だ。ほとんどがいわゆる未使用車やディーラー試乗車あがりの上モノであることを考えると、この相場はかなり魅力的といえるだろう。中古車ゆえボディカラーや装備を選べないという難点はあるが、それを補って余りあるお得感が、そこには確実にある。

▲7人乗りとなるシトロエン グランドC4ピカソ。全長は旧型C4ピカソとほぼ同一だが、ホイールベースは110mm延長され、居住空間はより余裕のあるものとなっている ▲7人乗りとなるシトロエン グランドC4ピカソ。全長は旧型C4ピカソとほぼ同一だが、ホイールベースは110mm延長され、居住空間はより余裕のあるものとなっている
▲グランドC4ピカソの内装。特に1列目と2列目の間隔に余裕がある。シートのデザインとソフトなたっぷり感もさすがはシトロエンといったところ ▲グランドC4ピカソの内装。特に1列目と2列目の間隔に余裕がある。シートのデザインとソフトなたっぷり感もさすがはシトロエンといったところ

グランドC4ピカソより全長が147mm短い5人乗り仕様の現行C4ピカソは「エクスクルーシブ」のモノグレードで、その新車価格は364.1万円。こちらの中古車も元ディーラー試乗車がほとんどで、価格は310万~340万円といったところ。価格的なお買い得感はグランドC4ピカソの中古車の方が強いが、ショートな5人乗りならではのキビキビとした走りはこちらの方が断然上。用途にもよるが、もしも走りの気持ちよさ重視で選ぶなら断然こちらだろう。

▲こちらは5人乗りの現行C4ピカソ。グランドC4ピカソと比べて全長は170mm短く、ホイールベースも60mm短い。とはいえ2列シートゆえ、車内はまったく窮屈ではない ▲こちらは5人乗りの現行C4ピカソ。グランドC4ピカソと比べて全長は170mm短く、ホイールベースも60mm短い。とはいえ2列シートゆえ、車内はまったく窮屈ではない
▲柔らかいタッチで背中とお尻をしっかりホールドしてくれる現行C4ピカソのシート ▲柔らかいタッチで背中とお尻をしっかりホールドしてくれる現行C4ピカソのシート

内外装のデザインセンスはどちらも紛うことなき「シトロエンワールド」全開であり、この世界観を好む人にとっては最高すぎるほど最高だ。そして伝統のハイドロニューマチックを捨てて金属バネのサスペンションとなった足回りも、シトロエンらしさ(ハイドロっぽさ)を大いに残しつつ、現代的な俊敏さも実現しているなかなかの名作。よほどのハイドロ中毒者でない限り、そこには何の不満もないだろうと推測する。

「生活するうえでミニバンというかMPVが必要なのだが、わたしの審美眼にかなうMPVが世の中にない……」とお嘆きの貴兄にぜひともご注目いただきたい、ある種の人にとっては最強最後のMPV。それが現行シトロエンC4ピカソ/グランドC4ピカソであり、それらの上モノ中古車がお手頃なプライスで増殖中ということは、これはもうオススメしないわけには絶対にいかないのである。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり現行シトロエン C4ピカソおよびグランドC4ピカソだ。

text/伊達軍曹