トヨタ MIRAI▲ “エモーショナルなデザイン”によってスタイリングで選ばれる車を目指したという2代目MIRAI。グレードはベーシックなGと上級のZを基本に、装備の異なるパッケージを用意した。価格は710万~860万円

世の中の、こだわりすぎ、コスト度外視、先進的、独創的すぎなモデルを紹介するEDGE’S Attention。

そんなエッジィなモデルにEDGE編集部から「アテンション プリーズ!」。

今回は水素を“燃料”にエネルギーとなる電気を作り出す装置(スタック)を積んだ、FCVのトヨタ MIRAIを紹介。市販第2世代へと進化した「未来のプレミアムカー」の実力は?
 

世界で3社しか市販していないFCV

世の中やれBEVだ電動化だ、と騒いでいるけれども、もうひとつ、重要な存在を忘れてはいけない。フューエルセル車(FCV)だ(それにしても燃料電池だなんて意味不明な和訳を考えたのは誰?)。超簡単にいうと、水素を“燃料”に酸素と化学変化させて電気を作り出す装置(スタック)を積んだ電気自動車(EV)のこと。近ごろ話題の水素エンジンとはまるで違う仕組みなのでお間違いなく(個人的には水素エンジンの方が興味津々!)。

そんなFCVを市販するメーカーは現在、世界でたった3社しかない。トヨタ、ホンダ、現代(ヒュンダイ)で、中でもトヨタが最も熱心なのは周知のとおり。FCVのMIRAIは早くも昨年、市販の第2世代へと進化した。

スタイルも随分とマトモに。ちょっとふやけたサメ顔アウディみたいな独特の顔つきは好みの分かれるところかもしれないけれど、そんなものは結局好き嫌いの範疇でBMWでもレクサスでも同じだろう。嫌いな人は乗らなきゃよいだけの話。今、どうしてもFCVを選ばなければならない人なんて、トヨタや水素ステーション関係者以外いないだろうし。

それにしても威風堂々たるサイズである。全長5m弱で幅も1.9m近くあるから、欧州Dセグ級。それもそのはず、ベースとなったプラットフォームはトヨタのFR用GA-Lだ。つまり、中身の格でいうとクラウン以上LS未満に当たる。これには、水素タンクの増量=航続距離を延ばしたい、という要因もあった。スタックそのものは随分と小型化されたのだけれど。
 

トヨタ MIRAI▲駆動用モーターは最高出力182ps/最大トルク300N・mを発生。5.6kgの水素を搭載し、旧型比+約30%となる1充填で約850km(Gグレード)の走行を可能とした

街中も高速も申し分なし。峠道までオン・ザ・レール感

今回、新型MIRAIで初めてちょい乗りではない長距離試乗がかなったので、その感想をリポートしたい。東京から自宅のある京都までの、いつものドライブだ。

走り出した瞬間から評価はポジティブだった。ミッドサイズ以上のトヨタ車としては上位にランクされる車というのが最初の印象で、しばらく走ると「ひょっとして一番いいかも」と思えてきたほど。

乗り心地はもちろん、大きな車体が意のままに動く感覚が常にあって、持て余すことがない。微速域のマナーも良好。わずかなネガは、制動時にどうしても重量を感じてしまうことくらい。乗り心地には視覚的要素も大きいというのが持論の筆者としては、インテリアの見栄え質感がもうちょっと高ければ、街中をゆっくり走らせるような場面では申し分なしだ。

圧巻だったのは、今回最も確かめたかった高速道路におけるGT性能だった。そのレベルは欧州Eセグに迫ると言っていい。シートの座面がプアでお尻が痛くなった(ちなみにシートはクラウンと同じらしい)ことを除けば、全くよくできたGTカーだ。乗り心地もよく、路面のショックも気持ちよくいなしていく。無音で走る様は、これぞ“個室新幹線”(室内に加減速を感じる音を響かせることはできる)。高速コーナリングもそつなくこなした。

実は大渋滞に巻き込まれてやむなく高速を降り、一般道の峠道を長く走る機会もあったが、これがまたなかなかのオン・ザ・レール感で楽しめた。さすがデビュー時にサーキット試乗会を敢行しただけのことはある。
 

トヨタ MIRAI▲発電装置(FCスタック)をフロントに、モーターと駆動用バッテリーをリアに配置するなどにより、前後重量配分を50:50とした。中央に黄色い水素タンクが配される
トヨタ MIRAI▲FCスタック部には外部給電アウトレットが備わっており、AC変換の外部給電器が必要ながら、災害時などには住宅や電化製品などへの電力供給も可能

画面距離表示と実走行距離に大きな違いはない

みなさんが最も気になるのは水素充填の便だろう。結論から言うと、高速ドライブではEVほど悲壮な気分にならなかった。カタログ上の後続可能距離は750~850km。楽勝だと思っていたのだが、満充填(おそらく完全にフル充填はできない)で借り出して、残航続距離450kmと出たのには驚いた。けれども、そこからの減りがリーズナブルだ。要するにちゃんと450km走る。BEVだとそうはいかない。高速道路では実走行距離の増え方よりも、段違いに早くシステム上の航続距離表示が減っていく。これでは不安が募る一方で、勢い残距離の数字ばかり見ながらのドライブになってしまう。デジタル数字のぐんぐん減る様子を気にしながらドライブなんて、楽しいはずもない。精神的にかなり悪い。

その点、FCV はマトモに減ってくれる。だから計画を立てやすい。実を言うと京都まで無充填で帰りたかったのだが、調べてみればその日はあいにく京都の水素ステーションがすべて休みだった。急遽、途中の伊勢湾岸道刈谷で高速を降りて水素ステーションに駆け込んだ。長距離用の次世代パワートレーンとしては筆頭格のFCVなので、できれば高速道路近くにもう少しステーションを設置してもらうと助かるのだが。

もうひとつ、嬉しいことがあった。それは短い時間でちゃんと充填できること。ガソリン給油なら当たり前のことだが、バッテリーEVではそうはいかない。高速道路の急速充電では30分もかけて150km分くらいしか充電できないこともしばしば。充電器やバッテリーの性能に左右されるのだ。これでは満充電からの最初のスティントはともかく、そこから先の道のりで30分の休憩をちょくちょく強いられることになる。長距離ドライブを計画どおりに楽しむなんてことは無理。水素ならタンクの準備から充填まで正味10分くらいで、また400~500km分の充填が可能だ。これは大きい。ただし、水素ステーションが開いていれば、の話だけれど。
 

トヨタ MIRAI▲各種機能を表示する12.3インチセンターディスプレイをメーターパネル横に配し、一体感のある構成に。スイッチ類も極力減らし、機能ごとにゾーニングされた
トヨタ MIRAI▲水素タンクのため、後席は中央にセンタートンネルがあるものの定員は3名に増えている。室内にも2ヵ所のAC用のアクセサリーコンセントが備わる

普通と同じ車の感覚で燃料補給ができる。実はこれがもっとも大事なのかもしれない。もちろん、水素ステーションの数はまだまだ少ない。東京や名古屋、大阪といった大都市を中心に全国でたったの130ヵ所くらいだ。これじゃまだまだ趣味車の領域であると言っていいだろう。けれども水素ステーションが近くにあって、都市中心の往来生活をされている方であれば、十分に使えると思う。事実、筆者の友人は愛知県に住んでいて、自宅近くとオフィスの近くに1軒ずつ、15分ドライブ圏内にさらにもう1軒、計3軒の水素ステーションがあることを知ってMIRAIをオーダーした。

現行のクラウンよりも乗り味が良いのだから友人の選択は間違っていない。否、レクサス LSよりも良いと思う。しかも、装備もひととおり揃っている。最近ではハンドフリードライブを実現する“アドバンストドライブ”も追加設定された。

これだけドライブフィールが良いのであれば、トヨタの高級車はすべてFCVになれば良いのに、と思ったほど。大型車両に特化せざるをえないFCVだからこそ、高級車への搭載に理はあるのだから。

そもそも、どうしてMIRAIの乗り味をLSやクラウンで実現できないのだろう? それほどMIRAIのドライブフィールは上等だった。
 

トヨタ MIRAI▲自動運転レベル2相当の高度運転支援機能「アドバンスドドライブ」を搭載したグレードもラインナップ
トヨタ MIRAI▲「アドバンスドドライブ」のステアリングにはドライバーモニターカメラが設置される

▼検索条件

トヨタ MIRAI(全世代)× 全国 ※現行型は掲載がない可能性があります
文/西川 淳、写真/トヨタ

自動車評論家

西川淳

大学で機械工学を学んだ後、リクルートに入社。カーセンサー関東版副編集長を経てフリーランスへ。現在は京都を本拠に、車趣味を追求し続ける自動車評論家。カーセンサーEDGEにも多くの寄稿がある。