【功労車のボヤき】「オペルとは思えないほどイカしてる!」というトホホな褒め言葉に涙した日もあったけど……。オペル一族の逆襲!?
カテゴリー: クルマ
タグ: オペル / スピードスター / ヴィータ / オメガワゴン / カデット / アストラカブリオ / GT / EDGEが効いている / 功労車のボヤき / 夢野忠則 / c!
2021/06/15
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。
今回は、抜群の知名度を誇るドイツブランド各社の陰に完全に隠れてしまった、オペル一族が物申す!!
いいえ、電気会社ではありません
はぁ~。
最近じゃ「OPEL(オペル)」と、堂々と名字を名乗ったところで、そんなメーカーは知らないって人ばかり……。
挙句の果てに、フロントグリルの稲妻マークを見て、どこの電気会社っすか? なんて訊かれる始末……。
さらに、生まれはドイツだって言うと本気で意外な顔をされるし。1899年から自動車の製造を始めて、かつては(といっても第一次世界大戦前の話だけど)あのベンツと肩を並べるメーカーだったんだぞ、なんて自慢しようものなら、さらに驚かれる。
あぁ、ワーゲン、ベンツ、ビーエム、アウディ、ポルシェと、同胞たちは今もみんな元気に頑張っているのに……。わがオペル一族ときたら、なんでこんなことになってしまったのやら……。
え? そもそもおまえは誰だって? オレが、オペル ヴィータさ!
やっぱり、知らないんかい……泣。
実は、初代「いすゞ ジェミニ」にもオペル一族の血が!
かつて、オペルと言えばドイツ車らしい実直な車づくりで、本国はもとより日本でもツウ好みの車として知られた存在だったんだ。
古いところでは、1968年に登場したオペル「GT」兄さん。
小粋な2シータ―のスポーツカーで、アメリカでも人気を集めたもんさ。スモールコルベットなんて呼ばれてさ。もちろん、日本にも結構な台数が海を渡ってやって来た。
ちなみに、価格は当時のトヨタ 2000GT級のスーパーカーだったんだぜ。
そして、大衆車として長年にわたってオペルの屋台骨を支えたのが「カデット」兄さんだ。
カデット兄さんは、1936年に初代が登場して以来、6代目まで進化を遂げ、1991年の生産終了まで半世紀以上も活躍したんだ。1972年にはなんと、晩年のビートルを抜いて旧西ドイツでナンバーワンの売上げを記録したことだってある。カデット兄さんこそ、まさに一族が誇る功労車よ。
70年代には、4代目のカデット兄さんが親会社であるGMの「グローバルカー構想」の一環として登場し、従兄弟車たちが世界中に広まっていった。日本では、いすゞの初代ジェミニのベースにもなったんだ。
オペル一族の中で日本で一番売れたのは、1995年に発売された「ヴィータ」だな。オレだよ、オレ。
本名はコルサって言うんだけど、当時、トヨタさんに同じ名前を名乗る車があったから、日本ではヴィータと名乗らせてもらっていたんだけどね。
コンパクトなサイズと低価格、さらにはTVのトレンディドラマで主役の女の子の愛車として登場したもんだから思わぬ大ヒットさ。
だけどオレ、つまりヴィータに続く人気の弟分を世に送り出せなかったのが、一族の敗因のような気がする。今となってはかなり悔やまれるな……。
地味ながらも他のドイツ車にはない渋さが魅力
わがオペル一族には、地味ながらも他のドイツ車にはない渋い魅力があった。だから、イメージよりも堅実さを大事にする人たちに重宝されたものさ。
派手さはないけど、だからこそ魅力的だった「アストラカブリオ」兄さん。
決してお洒落とは言い難いけど、実用車としての使い勝手に優れた「オメガワゴン」兄さん。
いつの世にも、ありきたりなモデルに背を向けたがる車好き(車馬鹿とも呼ばれる)がいて、そういう連中からも、今で言うところの「ハズし車」的な存在として、その渋すぎる個性がウケていた。
もちろん、スペシャルなスポーツカーだってあったんだぜ。2003年に登場したミッドシップのオープンカー、その名も「スピードスター」さ。
スピードスター兄さんのベースとなったのはロータス エリーゼで、その低く構えたスタイリングは「オペルとは思えないほどイカしてる!」と大評判さ。
「オペルとは思えないほど」って言い方が若干気になるところだけど……。 まあ、それでも質実剛健なオペルらしいスポーツカーとして、車好きからの注目度は高かったな。
ただ、堅実剛健という個性をもっていたにもかかわらず、残念ながら兄弟たちの販売は伸びず、オレたちオペル一族は、2006年をもって日本での販売が終了してしまったのさ。
【朗報!】今年の夏から日本でも新車販売が復活!
今にして思えば、低価格で人気を集めたオレ、ヴィータが、わが一族のブランド価値を逆に下げてしまったのかもしれない、という気がしないでもない。
その後は、高級感を打ち出して低価格路線を変更しようにも、ベンツやビーエムのバカ高い壁に阻まれ、結局のところは「地味でプレミアム性に欠ける安いドイツ車」ってイメージが定着してしまった。
ブランド価値は高まることなく、日本での販売は伸びず(輸入元がコロコロ変わったのも原因のひとつだろう)、さらには親会社であるGMの経営が悪化と最悪なパターンに……。
もしかしたら、わが一族の悲運は、不況下だった1931年に早々とGMの完全子会社となってしまったことから始まっていたのかもしれない。きちんと真っ直ぐに走る優れた車を作りながらも、会社そのものは右往左往と蛇行を続けてきたんだもんな……。
ところが!(ピッカーン!)
2009年に破綻したGMの後を受けて、2017年に欧州のPSAグループがわがオペル一族を受け入れてくれることになったんだ!
おかげで、今はヨーロッパでの販売が絶好調さ。つまり息を吹き返したってわけだ。
そして、さらに! さらに! 今年の夏から、日本での販売が復活することになった(日本導入予定は3車種)。どうだい、勢いを感じるだろう?
これで、また日本でもオペル一族の名を耳にする機会が増えるに違いない。
今現在(2021年6月現在)カーセンサーnetでオペル名を検索しても、計13台の生き残った兄貴たちしかヒットしないが、ここからがわが一族のリベンジの始まりってわけだ。
昨今の世の中はEV化に向かっている。当然、わが一族の末っ子には、すでにEVも誕生している(シボレーボルトの姉妹車)。その子がいつ日本にやってくるのかはわからないけど、導入されれば、今度はフロントグリルに輝く稲妻マークがEVの象徴としてその役割を果たしてくれるはずだ。
どこの電気会社? と訊かれることなど、もはやなくなるだろう。
というか、日本で一番売れたオレ、ヴィータの中古車がすでに絶滅しちゃてるってどういうこと??
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オペルの中古車すべて×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。
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