※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1959年から62年までの3年間作られたベントレーSⅡ。その中でもコンチネンタル2ドアクーペはとびきり優雅で大陸を疾走するにふさわしいモデルである。コーチビルダーはH.J.マリナー。アルミ製のハンドメイドボディで架装した。エンジンはベントレーSⅠの伝統的な6気筒ユニットから59年のSⅡより新たに設計したV型8気筒を搭載した。このエンジンは航空機エンジンとしても定評あるシリコンを含む耐熱アルミ合金ブロック製で6.2Lのキャパシティからトップスピードは実に200km/hを超えた 1959年から62年までの3年間作られたベントレーSⅡ。その中でもコンチネンタル2ドアクーペはとびきり優雅で大陸を疾走するにふさわしいモデルである。コーチビルダーはH.J.マリナー。アルミ製のハンドメイドボディで架装した。エンジンはベントレーSⅠの伝統的な6気筒ユニットから59年のSⅡより新たに設計したV型8気筒を搭載した。このエンジンは航空機エンジンとしても定評あるシリコンを含む耐熱アルミ合金ブロック製で6.2Lのキャパシティからトップスピードは実に200km/hを超えた

細部まで芸術品のように作り込まれた1台

徳大寺 今日はなんでも特集に合わせてポルシェ 356を見に行くって聞いてたけど……。
松本 いや、そのはずだったんですけど、サンゴロ(356)が整備中でどうしても見れないということで、別の車になったんですよ。
徳大寺 そうなのかそれは残念だな。
松本 ええ。すべて整備済みで動かせる車しかショールームに飾らないそうなんですよ。本来はベントレーやロールスの専門店で、調布のつつじヶ丘にある「シーザートレーディング」というお店です。
徳大寺 この取材はお店に着くまでも楽しいな。いろいろな車が待っているかと思うと。
松本 巨匠、楽しみにしてますもんね、この取材。さて、今日はコーニッシュクーペとかあるといいですね。スティーブ・マックイーンとフェイ・ダナウェイの映画「華麗なる賭け」良かったですよね?
徳大寺 あれはカッコイイな。マックイーンがいいんだよな。なんたって自前の車だからね。
松本 今日のお店、僕は一度取材で行っていますが、巨匠なら似合うモデルばかりあると思いますよ。マンションの一階部分がすべてショールームですから。裏とかも珍しい車をたくさんストックしているんですよ。見たら巨匠も驚きますよ。
徳大寺 ここじゃないか? 確かに凄いのが置いてあるな。こんなところにベントレーとロールスの専門店があるとは。知らなかったな。
松本 ファンタム・ファイブ・スリー・パッセンジャー・リムジーンありますね。
徳大寺 奥にも凄いのがあるぞ。ベントレー コンチネンタルクーペだ。これはカッコイイんだよ! 僕は今まで何千、何万台の車と出会ってきたけど、これが一番好きなんだ!
松本 本当ですか? それは凄いですね。じゃあ今日はこの車を見せてもらうことにしましょうか。
徳大寺 ぜひそうしてほしいな。
松本 確かにこれカッコイイですよね。でも、自分には似合わないな…。
徳大寺 マッちゃん。この車を40歳ぐらいで買ってさ、60歳ぐらいになったら引っ張り出してきて乗るんだよ。カッコイイぞ。
松本 そりゃそうですけど……。そこまで乗らないで整備だけしてるなんて本当の意味で弩級の高級車ですね。
徳大寺 このダークブルーがまた何とも言えないな。ダークだけどどこか華やかさがある。これが高級な色目というヤツなんだ。内装はグレーのコノリーか。このマッチングもいいだろう? これは初めからこのオーダーだったんだろうな。
松本 この塗装もトロっとした漆器のようですね。シャープなプレスラインも出ていますから、ただ単に塗装を何回も塗ったんじゃないんですね。薄く塗っては磨いて塗っては磨いてを繰り返して、惜しげもなく時間をかけて作られたんでしょうね。
徳大寺 内装も程よくヤレていていいな。ウッドの塗装もこの艶が少し引けた感じが英国の雰囲気なんだ。やたら光ってるのはカッコ悪い。このウィルトンカーペットもいい感じだ。高級車には若干フカフカなカーペットが必須なんだよ。
松本 似合いますね。クーラーも雰囲気よくレトロフィットされてますし。品の良い修理です。ショールームで座っていると、どこか遠くを走って来た気になります。
徳大寺 これはATだろう。機械式のサーボが心配だけど、整備してあれば問題ないだろう。昔乗ったシルバークラウドがこの調整が今ひとつで、Dレンジでブレーキ踏んでると前に進んで行っちゃうんだよ。
松本 僕も経験があります。思わずニュートラルにしてサイドブレーキかけましたよ。6.2Lもあるからトルクが凄いこともあるでしょう。
徳大寺 でもエンジンは静かだな。これはいいよ! もう少し若ければ買いたいな。
松本 リアビューもキレイですね。テールランプはイギリスの高級車“アルヴィスTD21”と同じですね。
徳大寺 うん、やっぱりな。この手の質感が高い、上品な部品を使っているというわけだな。
松本 ドアノブのピストルのような形状も専用に作られた一品ものの感じがしますね。
徳大寺 ドアノブひとつとってみても一種の芸術品みたいなもんだからな、この手の車は。
松本 このお店には1953年のJAMES YOUNG製のベントレー Rがありますが、このモデルとディテールに共通項がありますね。
徳大寺 うん。しかし、こっちの2ドアサルーンも珍しいな。見たことない。シートは一枚革仕立てで、ベントレーらしい。この当時は主がリアシートに乗るから2ドアでも広いだろう。車は動いてないとしょうがないんだ。コンチネンタルクーペでも持っていたら乗りたいときにどんどん乗るよ。しかしここまで様々なベントレーやロールスを見れて、しかも買えるお店はそうないだろう。今日は本当にいいモノを見せてもらった。ありがとう!

ベントレー コンチネンタルS2 H.J.マリナークーペ シート
ベントレー コンチネンタルS2 H.J.マリナークーペ エンブレム
ベントレー コンチネンタルS2 H.J.マリナークーペ エンジン
ベントレー コンチネンタルS2 H.J.マリナークーペ リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:5396×1816×1575(mm)
■車両重量:1980kg
■ホイールベース:3124mm
■エンジン:V型8気筒OHV
■総排気量:6230cc
■最高出力:-ps/-rpm
■最高トルク:-kg-m/-rpm

tefxt/松本英雄 photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2010年5月号(2010年4月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています