※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲約1万5000台を売り上げたヒーレー100の後を受け、59年に登場したのがこのオースチンヒーレー3000。124psに高められたパワーを受け止めるべく、ドライブトレーンなどを強化。当時では最先端のディスクブレーキをフロントに装着させていた。また北米からのオーダーに応えるため2+2シートも存在していた。この3000は61年に132psへと進化したマーク2に、63年には148psまで高められたマーク3へと進化を続ける。今回取材した車両は60年式、内外装レストア済み、エンジン、ミッションもO/H済みの車両となる 約1万5000台を売り上げたヒーレー100の後を受け、59年に登場したのがこのオースチンヒーレー3000。124psに高められたパワーを受け止めるべく、ドライブトレーンなどを強化。当時では最先端のディスクブレーキをフロントに装着させていた。また北米からのオーダーに応えるため2+2シートも存在していた。この3000は61年に132psへと進化したマーク2に、63年には148psまで高められたマーク3へと進化を続ける。今回取材した車両は60年式、内外装レストア済み、エンジン、ミッションもO/H済みの車両となる

様々なレースで活躍した歴史ある英国スポーツカー

徳大寺有恒(以下徳大寺) 今回は英国車特集だな。
松本英雄(以下松本) はい。それで真っ先に頭に浮かんだのが大田区の蒲田にある“ガレージ日英”だったんですよ。
徳大寺 あそこの白鳥さんは英国車を紹介するなら最もふさわしい人なんじゃないかな。
松本 そこで白鳥さんに聞いてみたら、巨匠好みのがありましたよ。アルヴィス TE21DHC。
徳大寺 そうか。まだあったか。アルヴィスが欲しくて何度も行ったよ。
松本 それともう1台。オースチンヒーリー3000MK1です。これは英国らしいロードスターですよね。
徳大寺 うん。昔オースチンヒーリーに乗ったことあるよ。確か3速だったからビッグヒーリーのハンドレッド(100)だったかな。
松本 3速なんて想像もつきませんね。では今回登場してもらうのは3000MK1にしましょう。
徳大寺 あったあった。店の雰囲気も落ち着いてるんだよな、ここは。
松本 珍しいなー。“ジャンセンヒーリー”もある。ジャンセンはドナルド・ヒーリーが会長だった自動車メーカーですから、ヒーリーで揃えてくださったようです。流行りものに翻弄されないところはさすがですね。
ガレージ日英 白鳥氏(以下、白鳥) 徳大寺さん、松本さんご無沙汰してます。
徳大寺 いつもお世話になります。相変わらず趣味の良い車を揃えていらっしゃる。もう何年専門店で営業されていますか?
白鳥 日英自動車が解散して日英という文字を頂いてから25年です。
徳大寺 日英自動車は日本の英国車を支えたインポーターだったからね。そこが撤退したのは英国の自動車産業の低迷を意味していたんだろうな。
松本 僕が最初に乗っていた80年のMG-Bにも日英自動車というプレートが貼ってありましたね。
白鳥 これですよ。1960年式のオースチンヒーリー3000です。ハードトップも付いています。
徳大寺 うん。なかなかのコンディションだ。英国車はこのくらいのコンディションに乗るのがジェントルマンじゃないかな。あまりにもピカピカじゃ格好悪いよ。色もいいね。白だけど重くなくていい。
松本 ホント、いい感じの車がありますよね。英国紳士は新品を好まないといいますし。使い込んだ品物に美学を感じるというか。
徳大寺 そうなんだよ。新品みたいな昔のものなんかあるわけないんだから。車だって同じことだろう。
松本 今見ると小さいですね。1530mmないですから日本の道にもってこいですね。車重が1000kgぐらいですから、3Lの6気筒は強力だったでしょうね。
徳大寺 だろうな。様々なレースでも活躍していたし、ラリーなんかはけっこう強かったんじゃないかな。英国人はこの手のスポーツカーは乗って汚れてなんぼ、なところがあるからさぁ。乗るんだよ。とにかく。
松本 ヒーリーを作り上げたドナルド・ヒーリーは独学で自動車を学んだそうですね。戦中戦後に英国にあった様々な自動車メーカーのパーツを見て、その中でも英国車らしさが際立ったライレー社のパーツを流用したといいますね。
徳大寺 ライレーという会社は採算よりもスポーツカーの性能を重視したメーカーで、エンジンなどは技術的にも相当凝ってたんだ。
松本 ドナルド・ヒーリーはパーツを吟味して結果的にライレーの設計に感銘を受けたのでしょうね。
徳大寺 ドナルド・ヒーリーはモータースポーツ出身だからね。一貫してスポーツカーを作り続けたんだ。そしてオースチンヒーレーは成功した。決して度肝を抜く高性能ではなかったが、ボディを軽くしてトルクのあるエンジンを使い、ドライバビリティの向上に努めた。いかにもラリードライバーの発想だな。
松本 はめ込みのサイドウインドウはスライド式ですね。戦闘機みたいな雰囲気です。この当時はステアリングホイールの中央部分に方向指示器があるんですよね。
徳大寺 そう。アルヴィスもそうだし、トライアンフもそうだったな。
松本 これディスクブレーキが付いてますね。この当時としてはかなり早いんじゃないですか。当時のフェラーリなどと同じディスクキャリパーです。
徳大寺 イギリス車はディスクブレーキを早くに量産車で使ってるんだよな。量産した会社もイギリスだからね。ダンロップだろう。
白鳥 おっしゃるとおりでして、当時は先端をいっていましたからね。油圧ブレーキも英国車は案外早い段階から使っていました。
松本 つい話に夢中になって長居してしまいましたね。
徳大寺 まったくだ。こういう話ができるお店があるとないとじゃ大きな違いだからな。古い車はお店の人と話をしてその人にほれ込んで買うんだ。それがイギリスらしいじゃないか。今日はありがとう。また近いうちに遊びに伺います。
白鳥 いつでもお気軽にどうぞ。

オースチンヒーレー3000MkI 運転席周り
オースチンヒーレー3000MkI リア
オースチンヒーレー3000MkI フロント周り
オースチンヒーレー3000MkI エンジン

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:4000×1524×1250(mm)
■車両重量:1080kg
■ホイールベース:2329mm
■エンジン:直列6気筒OHV
■総排気量:2912cc
■最高出力:124ps/4750rpm
■最高トルク:23.0kg-m/2700rpm

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2010年4月号(2010年3月10日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています