▲筆者が購入したダイキャスト製の戦闘機模型3点。手前からF-15J、F-2B、零式艦上戦闘機 ▲筆者が購入したダイキャスト製の戦闘機模型3点。手前からF-15J、F-2B、零式艦上戦闘機

サーキットでは488GTBが勝ち、空戦ではF-35Aが勝利するだろうが……

過日、1/72スケールの戦闘機ダイキャストモデルを3機購入した。航空自衛隊のF-15JとF-2、そして旧日本海軍の零戦五十ニ型丙である。筆者は物騒な筆名を名乗っているが決して好戦的な人間ではなく、平和を愛するピースフルな人間である。しかし戦闘機を「見る」ことだけは昔からなぜか大好きなのだ。

それはさておき戦闘機ファン的には、今や旧式機ともいえるF-15Jではなく、航空自衛隊のF-X(次期主力戦闘機)であるF-35Aに興味を持ち、そのダイキャストモデルが欲しいと思っている人も多いだろう。しかし筆者はF-35Aの模型を欲しいとはまったく思わない。

個人的な好みにもとづく話でしかないため意見を押し付けようとは思わないが、とにかく筆者はF-35Aのカタチがあまり好きではないというか、アレを「美しい」とは思えないのだ。

もちろん本物の戦闘機にとっては美しさウンヌンなどまったく無意味で、必要なのは運動性能など諸々のリアリズムである。しかし市井のヒコーキ好きに過ぎない筆者としては「美しい!」と感じることや「なんだか知らないけど萌える!」という部分の有無こそがもっとも重要となる。で、最新鋭機であるF-35Aには(筆者が思うところによれば)それがないのである。

▲上がF-35のC型で、下は1995年初飛行のF/A-18Fスーパーホーネット ▲上がF-35のC型で、下は1995年初飛行のF/A-18Fスーパーホーネット

ここはミリタリー系の話をする場所ではないためごく簡単にのみ述べるが、F-35Aというのは最新技術の粋を集めた超絶航空機で、最大の特徴はステルス性(機体を敵方のレーダー等に探知されにくくする技術)に優れ、そして各種操作系も限りなくハイテク化されているという点だ。それゆえ現時点ではおそらく世界最強の戦闘機といえるだろう。しかし、そういったハイテクを究極レベルまで突き詰めた結果、造形における優雅さのようなものは残念ながら失われてしまったのだ(少なくとも筆者はそう思う)。

これは戦闘機に限らず、たいていの物事に当てはまる話なのだろう。例えば「フェラーリ」がそうだ。

今年3月3日から開催されているジュネーブモーターショーで公開されたフェラーリの最新V8ベルリネッタである「488GTB」。筆者は当然ながら試乗していない。しかし「たぶんモノ凄い性能なんだろう」ということは200%断言できる。なにせ前身である458イタリアでさえ気絶するほど速く、UFOか何かのような異次元の曲がりを見せるのだから(あまりに曲がるため、筆者はコーナー内側の壁に激突しそうになりました)、あれ以上の運動性能となるのが確実である488GTBは、もう想像の埒外といえるほどモノ凄いのだろう。

しかしそういった超絶高性能を実現させるため(もちろんそれだけではなく世界の最新デザイントレンドを取り入れた結果)、488GTBの造形はこうなった。

▲フェラーリが公開した488GTBの画像。搭載エンジンは3.9LのV8ターボとなる ▲フェラーリが公開した488GTBの画像。搭載エンジンは3.9LのV8ターボとなる

……どうだろうか。先ほどの話と同じでデザインの好みというのは人それぞれであり、そしてこのカタチを「カッコいい!」「最高!」と思っている人も多いことを知ってもいる。しかしそのうえであえてわたし個人の主観を言わせてもらえば、「ゴテゴテしすぎで優雅さに欠ける」ということになる。

これまた主観のみに基づく話で恐縮だが(しかしデザインの話というのは主観に基づかざるを得ない)、フェラーリといえば、いや「美しい車」といえばコレでしょう! と筆者が考えるのがこのモデルだ。

▲中古車市場ではいまだ「圧倒的」ともいえる人気を誇るフェラーリ F355 ▲中古車市場ではいまだ「圧倒的」ともいえる人気を誇るフェラーリ F355

1994年から1999年にかけて販売された、488GTBから数えて4世代前のV8フェラーリである「F355」。……なんて美しいのだろう。そして、なんて優雅で可憐なのだろうか。世の中が今ほどハイテクまみれでなく、相対的にのんびりしていた時代の傑作である。

もちろんF-15JとF-35Aが空戦を行えばF-15Jが惨敗するのと同じで、F355と488GTBがサーキットなどで速度を競えば、F355は惨敗する。しかし我々は軍用機のパイロットではないのと同じ意味で、レーサーではない。単なる車好きの兄さんやおっさんである。それゆえ別に「勝つ」必要なんてないのだ。であるならば、惨敗必至のF355に何の不満と問題があるだろうか。カタチが良ければ(というか自分の好みに合致するものであれば)、そしてそれなり以上のドライビングプレジャーを備えていれば(もちろんF355はいまだ世界一線級の性能を有する車だ)、それで良いではないか。個人的な大勝利ではないか。

もちろん筆者がここまで述べた内容は、488GTBの意匠や性能を、そしてそれを何らかの理由により強く求める人の嗜好を否定するものではない。488GTBがお好きであれば(そしてそれを買う財力をお持ちであれば)どんどん買っていただき、そして日本の路上を華やかにしていただきたいと切に願う。しかし「488……なんか違うんだよね」と思う人は、ぜひF355に今一度ご注目いただきたいのだ。

いろいろ極端なことを申し上げたが、しかしこのように感じている人間は筆者1人ではない。それが証拠にF355は、良質な物件であればいまだ1000万円以上となることも珍しくなく、また購入後のリセール価格も異様なまでの高額となる場合が多い。そしてその傾向は、筆者調べによれば今後も大きく変わることはない。

70年以上前の零式艦上戦闘機がいまだ人の心を捉えてやまないのに似て、フェラーリ F355という車の命はある意味「永遠」なのである。

ということで今回のわたくしからのオススメは、ずばり「フェラーリ F355」だ。

▲戦争云々とは無関係に今もファンが多い零戦(手前)と、設計は古いがいまだヒコーキ好きの心を魅了してやまないF-15イーグル(奥)。F355の人気とは、こういった航空機のそれに似ているのかもしれない ▲戦争云々とは無関係に今もファンが多い零戦(手前)と、設計は古いがいまだヒコーキ好きの心を魅了してやまないF-15イーグル(奥)。F355の人気とは、こういった航空機のそれに似ているのかもしれない
text/伊達軍曹