AUDI ▲アウディでは購入を検討している車の仕様を3Dバーチャルで体感できる「Digital Retail Modules」を取り入れている。外観、ボディカラー、内装などを大型モニターとヘッドマウントディスプレイに投影して仮想空間で体験できる

F2Fビジネスはもはや不要なのか?

コロナ禍の影響で世界的に販売台数が大幅に減少した自動車販売だが、最悪の時期であった4~6月期を越え、7~9月期は確実に回復基調が見えてきた。

実際、11月6日に発表されたトヨタの第2四半期決算会見には普段はこのタイミングでは出席しない豊田章男社長が会見に臨み、この危機下でもリーマン・ショックの時よりも早い回復を発表。

7~9月実績で対前年比93%までの回復と、1~3月には105%まで販売台数を戻す見通しを述べたことは同社の努力、今風に言えば「自助」がしっかり働いた結果とも言える。同様に輸入車を扱うインポーターも徐々にではあるが、復活への道筋を示し始めている。

一方で現場はどうだろうか?

何よりも車の販売においてディーラーはエンドユーザーとの接点がある重要な拠点であることは言うまでもない。

しかし、コロナショックによりディーラー自体への来場が減ったことは間違いなく、くしくも従来までの販売スタイルに対する変革の必要性が如実に現れた格好だ。

昨今の取り扱いモデルの統一や拠点の統廃合の加速、また、カーシェアリングやサブスクリプションといった新しい仕組みによる競争軸の変化、さらに将来電気自動車が主軸になったと仮定した場合、アフターセールスの利益ダウンなどを予想するアナリストもいる。

特に販売においては昨今、各社が導入しているオンライン販売、またVR(仮想現実)、さらにAI(人工知能)を活用した販売スタイルが勢力を伸ばしてきている。

オンライン販売に関しては読んで字のごとくであるが、遠隔地にいてもF2F(直接対面)に近い接客を行えるようにバーチャルショールームなどの仕組みも増えてきている。

そうした流れの中、注目しているのが、アウディが世界的に展開している「DRM(Digital Retail Modules)」と呼ばれる仕組みだ。

簡単に言えば3DのVR機器を活用し、購入前に外観やボディカラー、そして内装の仕様などを確認することができるもの。

VRなのでヘッドマウントディスプレイを顧客は装着する必要があるが、これによりカスタマーは(自分が購入するであろう)モデルを“映え”も含め、従来とは比較にならないレベルの仮想空間で体感できる。

このシステム自体は現在、アウディみなとみらいをはじめとする4店舗でしか体験できないが、この流れは各社、各ディーラーに波及していくはずだ。

もちろん、日本には日本なりの〝商習慣〟というものがあり、顧客層によっては、そもそもVRなどは受け入れられない場合も考えられる。

実際、オンライン販売を見ても利用時のオプション装着も含めた購入プロセスの不備はF2Fにはかなわない部分がある。ただこれまでエリアによって一貫性のない値引きを含めた価格設定はITを活用することで統一されていくはず。

さらにAIを活用した顧客行動の分析など、あくまでも仮説だが、ひょっとしたらディーラーは小規模運用でネットワークを活用する仕組みに変わっていくのかもしれない。
 

AUDI ▲アウディのDMRでは、上の写真のQ3をはじめ、ほぼすべてのモデルを仮想空間で体験できる。カタログやカラーサンプルではわかない、あらゆる角度から眺めることができる他、背景も昼や夜など設定することが可能となっている
メルセデス・ベンツ ▲いち早くオンライン販売を始めたのがメルセデス・ベンツ。EQCは日本デビュー当初からオンラインストアでの販売を行っている。メルセデスは、GLAやGLBなどもオンラインの対象車種として設定している
文/高山正寛、写真/アウディ ジャパン、メルセデス・ベンツ日本

※カーセンサーEDGE 2021年1月号(2020年11月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています