drivethru▲『DRIVETHRU』のトップページ
 

いきなりですが、『DRIVETHRU』(ドライブスルー)という自動車メディアをご存じでしょうか?

自動車メディアのようだけど、広告のバナーもなし、新車ニュースもなし。シンプルでとにかくかっこいいサイトデザイン! そして一風変わったプロジェクト。

一体どうやって成り立っているのか? どんな目的で運営しているのか? 気になったので中の人に話を聞いてきました。
 

神保匠吾

『DRIVETHRU』Director

神保匠吾

1982年、福岡県出身。2008年、カエルム株式会社入社。2014年にオンライン・モーターマガジン『DRIVETHRU』を立ち上げ、現在に至る。クリエイティブなモビリティをテーマに、キャンピングトレーラーをホテルにしたCARAVAN TOKYOや、いすゞ専門店との117クーペを現代のテイストでレストアしたカーシェアリングプロジェクトなど、多数の企画が現在も進行中。また、インディペンデントなショップやカーカンパニーとのクリエイティブディレクションなども手がけている。

高橋亮介

インタビュアー

高橋亮介

カーセンサー編集部員。カーセンサーの営業を経て編集部へやってきた。MT車を動かす機会はやんわりと回避しているゆとり世代。カセットを流しながら90年代前後のネオクラシックカーを乗り回したいと妄想たくましくしている今日この頃。

drivethru▲こんな形で遠隔インタビューをしました!『DRIVETHRU』の神保編集長は右下。一番見えにくい……。MTGアプリよ空気読んでくれ……。ちなみに右上が筆者で、左が日刊カーセンサーデスク
 

最大の謎を聞く

高橋
高橋亮介

いきなりなんですけど、このサイトはどうやって儲けているんですか?

神保
神保匠吾

単純に言うと「ちりつも」ですね。「少なくとも赤字にはならない」という仕組みを『DRIVETHRU』の看板で複数やっています。

例えば、『DRIVETHRU』のいろいろな記事にも登場する「いすゞ 117クーペ」をカーシェアに出したりですとか、DRIVETHRU名義でカスタムしたトレーラーハウスをホテルにして運営したりしています。

高橋
高橋亮介

なるほど。でも広告を入れればもっと簡単に収益化できると思うんですが、どうしてやらないのでしょう?

神保
神保匠吾

きっとそうでしょうね。ただ、これはDRIVETHRUを立ち上げた経緯が関係してくるんですが……広告に頼らないようにしているんです。

紆余曲折の『DRIVETHRU』誕生

高橋
高橋亮介

ほう……では立ち上げまでの経緯を教えていただけますか?

神保
神保匠吾

僕はもともと車大好きなので、自動車雑誌の編集者にはあこがれていたんです。ただ一方で、「車好きじゃない同世代の友達たちとも車の良さを分かち合いたい」という思いもありました。

そんなとき、イギリスで出している『INTERSECTION』というファッション誌が作った自動車雑誌に出合ったんです。これが自分の思いにぴったりくる雑誌でした。

そこにどうにかして入りたいと思ったので、大学を卒業したあとにあの手この手でロンドンへ渡ったんです。

drivethru▲こちらは『INTERSECTION』フランス版のサイト。UK版はすでにクローズ。
高橋
高橋亮介

すごい行動力ですね!

神保
神保匠吾

いやバカなんでしょうね(笑)。英語も全然しゃべれないのに。いきなりドンドンって扉たたいて訪ねて行ったので「おまえ誰?」って感じでしたよ(笑)。

ただ、手ぶらで行ってもダメだとは思ってたので、彼らが食いつきそうだけど入手できないような日本のネタを持っていきました。

高橋
高橋亮介

それってどんなものですか?

神保
神保匠吾

フリーペーパーのころの『高速有鉛』ですね。さすがに日本の旧車をカスタムしているものは知らないだろうと思って。日本の自動車雑誌はひと通り向こうの編集部も持ってたんですが、さすがにフリーペーパーはどうやっても手に入らないですからね。

高橋
高橋亮介

たしかに……!

神保
神保匠吾

で、そこから関係ができて2年間ぐらい『INTERSECTION』の編集部に出入りさせてもらったんです。

ただ、車の映像作品を自作して持ちこんだりしてたので、どうやらアーティストになりたいやつだと思われてたみたいなんですよね。ある日そのことに気がついて、自分はアーティストじゃなくて編集者になりたいんだ!と伝えたんです。

そうしたら、「じゃあ『INTERSECTION』の日本語版が出ることになったからそれをやりなよ」と言われたんです。まじか!! と思いましたね。

高橋
高橋亮介

すごいタイミング!

神保
神保匠吾

その日本語版を出版するために、帰国して今の会社に入社しました。

ただ……『INTERSECTION』は日本では3号ぐらいまでしか出版できずに廃刊になってしまいました。

高橋
高橋亮介

なんと……どうしてですか?

神保
神保匠吾

リーマンショックで広告が一気に入らなくなってしまったんです。広告収入が頼りだったので、それが無くなってしまったことで中身とは関係なく突然出版できなくなってしまいました。非常に悔しかったですね。

そのとき社長に「そんなに悔しいなら自分で作ればいいじゃない」と言われて、確かにそれもそうだなと思ったんです。

なので、広告に頼らずに面白いコンテンツだけ作っていられる仕組みを考えて始めたのが『DRIVETHRU』なんです。

高橋
高橋亮介

は……波瀾万丈!それで今の運営スタイルになったんですね。

神保
神保匠吾

はい。モーター”マガジン”を自称しているので本来はもっとたくさん記事を出すべきなんでしょうけど、広告主もいないので慌ててコンテンツを量産する必要もないですし、扱いたいネタだけを取り上げることに徹しています。

車をもっとフラットな目線で見てほしい

高橋
高橋亮介

どういう基準で取り上げるネタを選んでるんですか?

神保
神保匠吾

クリエイティブな感度が高いものを扱うようにしてます。ただ情報を持ってきたものというよりは、「もうひと手間」とか「こんなことできるんだ」と思ってもらえるようにしなきゃと心がけてますね。

読んだ人には、そういう視点もあるんだーとか、車ってやっぱいいよねっていうことを感じてもらいたいんです。ありとあらゆる情報はよそでも載っていると思うので、ニュース的なものはそっちで調べてね、というスタンスです。

高橋
高橋亮介

それでいうとTAXIの行灯の記事とか非常に面白かったです!

神保
神保匠吾

あの記事でいうと、タクシーに乗るという日常のなんでもない行為の中に、「行灯に注目する」という今までになかった視点をひとつ持ち込んでもらえたら、と思っていました。

高橋
高橋亮介

社用車のいすゞ 117クーペも素敵ですね。

神保
神保匠吾

117クーペってヘッドライトが「丸目」と「角目」があるんですが、いわゆる車好きの間では「丸目」のものが一番とされてきたんですね。

ただ、僕らはあえて「角目」がいいと、パートナーである「いすゞスポーツ」さんにお願いしたんです。

個人的には、角目の方がかっこいいと思ったし、そもそも普通の人はヘッドライトが2種類あるなんて知らないじゃないですか。だから関係ないなって。実際、ぼくらの117クーペを見て「角目」の方がいいと買いに行かれる方もいるので。

高橋
高橋亮介

確かにそれは知らなかったです。

神保
神保匠吾

車好きの価値観だけで「こうだ!」と決めつけるんじゃなくて、もっとフラットな視点で見てもいいんじゃないか、と思ってます。

いつかは新車も乗ってみたいけど

高橋
高橋亮介

神保さんご自身は今までどんな車に乗ってこられたんですか?

神保
神保匠吾

大学1年の時に買ったスズキ ジムニーのSJ10型が最初ですね。そのあと短期間BMW 3シリーズ(E30)に乗って、次に買ったのがBMW 3シリーズ(E21)でした。大学在学中からロンドンに行くまではこれに乗ってましたね。7万円でした。

高橋
高橋亮介

安い!

神保
神保匠吾

はい。中古車屋でバイトしてたので、下取り車を安く買えたんです(笑)。このE21は今も保管してあって、『DRIVETHRU』の企画で電気自動車化しようとしてます。

drivethru▲1975年発売の初代BMW 3シリーズ(E21)
 
高橋
高橋亮介

日本へ戻ってからは?

神保
神保匠吾

知り合いに譲ってもらったベンツ 190セダンでしたね。それがいよいよ壊れた時に、ポルシェ 924に乗り替えました。それからもう10年ぐらい乗ってますね。車は好きですけど、あまりポンポン乗り替える感じではないです。

drivethru▲1976年に発売されたFRポルシェ、924
 
高橋
高橋亮介

こうやって振り返ると新車で買ったのは無いんですね。

神保
神保匠吾

いつかは買ってみたいですね! ただ、今のところ欲しい新車がないんですよね……。それにプライベートで乗るのって週末の気晴らしだけなんで、古い車でもあまり困らないんですよ

隠してないけど「隠れ家」

高橋
高橋亮介

今後も『DRIVETHRU』は同じスタンスで運営されていくのでしょうか?

神保
神保匠吾

もちろん欲しい車は買いたいですし、儲からなくていいとは思ってません。前述のように『DRIVETHRU』のプロジェクトは「ちりつも」なので、我々がよしとする「純度」を落とさずにスケールを大きくしていったらビジネスになると考えていますね。

高橋
高橋亮介

それって……超ステキですね!

神保
神保匠吾

まぁ個人店主でやってる感じなので。メディアなのに「隠れ家」みたいなもんですね。隠してないけど、結果的に隠れ家になってるというか。あまのじゃくなんですね(笑)。

高橋
高橋亮介

「隠れ家」はまさに言い得て妙ですね! なのに紹介しちゃって大丈夫ですか?

神保
神保匠吾

もちろんです! 刺さる人にしか刺さらないかもしれないですが(笑)。

好きなことを続けるために、好きなことだけをやる

以前から気になっていた『DRIVETHRU』。

話を聞いてみると、スタイリッシュなサイトや一貫したスタンスは、「広告が入らなくなることで雑誌が廃刊になる」という生々しい現実を経験した結果、たどりついた答えでした。

記事もデザインもクールなんだけど、その背景を知ってから見ると、なんだかますますかっこよく見えてきました!

文/高橋亮介(編集部)、写真/BMW、ポルシェ、『DRIVETHRU』