▲もともとAさんはモノを作るのが好きで、じつは板金もできるという。実際に911は現在ボディをレストア中だ。そこで、Aさんの希望はシャッター付きであること、将来的に車幅のある車を入れたときに、車の左右ドアが開けられるスペースがあること、ミニカーを収納する造作をした壁にすることなどが挙げられた。奥様はキッチンを中心とした間取りで、とくにリビングルームとバルコニーを楽しいものにしたいと希望した▲もともとAさんはモノを作るのが好きで、じつは板金もできるという。実際に911は現在ボディをレストア中だ。そこで、Aさんの希望はシャッター付きであること、将来的に車幅のある車を入れたときに、車の左右ドアが開けられるスペースがあること、ミニカーを収納する造作をした壁にすることなどが挙げられた。奥様はキッチンを中心とした間取りで、とくにリビングルームとバルコニーを楽しいものにしたいと希望した

目指したのはアメリカ西海岸のガレージハウス

スペースを気にせず、自宅で思い切り洗車やメンテナンスができたら……。そう思うことはないだろうか。車好きであるほど、洗車は人任せにしない。しかし、カーフリークの自邸がすべて洗車やメンテナンスが十分に行えるガレージスペースを備えているとは限らない。勢い、洗車場まで足を運んだり、ガソリンスタンド任せにしてしまうことが多いはずだ。

今回訪れたA邸は、駐車スペースだけでも優に6台分。玄関までのアプローチに敷かれた芝生スペースにも駐車許可が下りるなら、8台以上は可能という垂涎の環境なのだ。

場所は東京都下、緑豊かな住宅街の一画。私鉄の駅まで500m弱という好立地ながら、高い建物がないせいか空がとても広く感じられる。前述のようにA邸は、敷地の入口からガレージまでのアプローチが長い。「アメリカ西海岸にある家の雰囲気をイメージしました」とAさん。たしかに、緑の美しい芝生の先に木製のオーバースライダーが見える風景は狙いどおりといえる。天気のいい休日に、ここで愛車のドアをすべて全開にして、のんびりと洗車やメンテナンスをすれば、まるで映画のワンシーンのように感じられるはずだ。

A邸の設計は、テラジマアーキテクツに所属する竹沢孝浩さんが手掛けた。設計にあたりA夫妻からはどんなオーダーがあったのだろう。「ご主人からはガレージを中心に、奥様からはキッチンを中心にした間取り構成について明確な希望がありました」と、竹沢さん。施主であるA夫妻に同様の質問をしたところ、「じつは建築中に、私はガレージのオーバースライダーを、家内はキッチンをオーダーしてしまったのです。それで竹沢さんに『これらが入るようにお願いします』……と(笑)」

そんな少しコミカルなエピソードを残しつつ、「最初にいただいた提案で100%満足しました」と、A夫妻は竹沢さんを絶賛。夫妻ともに、それぞれの想いが実現するとなれば満足度が高いのもうなずける。なんといっても夫婦円満だ。

玄人はだしの腕前を存分にふるえるガレージに

そもそも、A夫妻と竹沢さんの出会いも面白い。A夫妻は自邸を建てるにあたりリゾート風の家をイメージし、それに合致するサンプルを様々なメディアから収集していた。その画像をもってテラジマアーキテクツに赴き、「こんなイメージにしたいのですが…」 と担当の竹沢さんに見せたところ、「それはほとんどウチの作品です」と。

そんな逸話には事欠かないプロセスを経て、竣工したのは2012年5月のこと。すでに2年以上経過しているのだが、いまだ新築のようなコンディションを保っている。

ガレージを拝見しようとオーバースライダーを開けてもらうと、姿を現したのは1986年式ポルシェ 911。年式相応の適度なヤレ感により、ドイツ車でありながらどこか西海岸の香りを放っている気がする。これはガレージ周辺の造作や内部にデコレーションされているミニカーやポスターなどによるところも大きい。

「この間の大雪で倒れてきた街灯で屋根が凹んでしまい、今レストア中なんです」と、Aさんに教えられ911を観察してみたが、美しい曲面を描くルーフにその形跡は見当たらない。どうやらAさんは、日常手的なメンテナンスだけではなく、本格的な板金塗装技術もお持ちのようだ。

ガレージにはミニカーや工具などが整然と並んでいる。見上げると左右の壁には複数の窓が設けられ、閉塞感が強くなりがちなガレージに明るい自然光をもたらす。また、オーバースライダーを閉じた状態で換気できることもメリットだ。ガレージ奥の引き戸からは、直接邸内にアクセス可能。広い玄関の脇には、書斎とグランドピアノが置かれた音楽室がある。どちらも奥様専用の部屋だが、A さんは愛車のために十二分なスペースを優先しているので、このあたりは巧みにバランスを保っているようだ。

▲玄関までのアプローチは、贅沢なスペースが取られている。アメリカ西海岸にあるような、広い芝生とガレージ…そんなイメージで作られた。ここでの洗車は開放的で気持ちよさそう▲玄関までのアプローチは、贅沢なスペースが取られている。アメリカ西海岸にあるような、広い芝生とガレージ…そんなイメージで作られた。ここでの洗車は開放的で気持ちよさそう
▲人気の高いドイツブランド「ミーレ」で統一されたキッチン。このシステムも竣工前に購入し、奥様の実家でしばらく預かっていたというエピソードがある▲人気の高いドイツブランド「ミーレ」で統一されたキッチン。このシステムも竣工前に購入し、奥様の実家でしばらく預かっていたというエピソードがある
▲2階には、広いロフトが設けられていて「酔いつぶれたゲストを寝かせる場所(笑)」とのこと。リビング&ダイニングルームは基本的に奥様の希望によりコーディネイトされている▲2階には、広いロフトが設けられていて「酔いつぶれたゲストを寝かせる場所(笑)」とのこと。リビング&ダイニングルームは基本的に奥様の希望によりコーディネイトされている
▲邸内からガレージにアクセスする際には、愛車をやや俯瞰気味に眺められる。930のグラマラスなヒップがより強調されるビューポイントだ。自然光も十分に入り、居心地がいい▲邸内からガレージにアクセスする際には、愛車をやや俯瞰気味に眺められる。930のグラマラスなヒップがより強調されるビューポイントだ。自然光も十分に入り、居心地がいい
▲長いアプローチを経て広いエントランスから玄関のドアを開けると、ゆとりのある空間が広がる。使用頻度の高いジャガーXJは玄関前が定位置▲長いアプローチを経て広いエントランスから玄関のドアを開けると、ゆとりのある空間が広がる。使用頻度の高いジャガーXJは玄関前が定位置
▲高い位置に貼られているのは、古い雑誌の裏表紙広告。懐かしいモデルが並び、幼少期から車好きだったことが窺える。ミニカーが飾れるように、壁には凹みを設けてある▲高い位置に貼られているのは、古い雑誌の裏表紙広告。懐かしいモデルが並び、幼少期から車好きだったことが窺える。ミニカーが飾れるように、壁には凹みを設けてある
▲ガレージ後方の壁面にもミニカー用の造作が。大きなツールボックスとキャビネットの存在から、Aさんの本格的なガレージライフが想像できる▲ガレージ後方の壁面にもミニカー用の造作が。大きなツールボックスとキャビネットの存在から、Aさんの本格的なガレージライフが想像できる

【夫婦の希望をバランスさせた家】
■敷地に高低差があったので、その処理に気を配ったとのこと。また、北側の隣地の宅盤(宅地の地盤面)がさらに上がっていたので宅盤崩落に備える形で土留めの役目をもたせ、一般的な基礎より高くする工夫も。ただ、この過程でガレージの天井を高くできたので、その余剰空間はガレージのさらなる進化を期待させている。玄関ホール正面に大きな開口部を設け、建物奥の緑が目に飛び込んでくる構成や、開放された2階LDK空間の構成にはこだわった。
■主要用途:住宅
■構造:木造(耐震構法SE構法)
■敷地面積:273.57平米
■建築面積:91.60平米
■延床面積:148.22平米
■設計・監理:株式会社テラジマアーキテクツ
■TEL:03-5431-3377

text/菊谷聡
photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2014年10月号(2014年8月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています