I邸・ピットに住まう家 + 石井 淳|EDGE HOUSE

ローコストを実現したマニア垂涎のピットハウス

部屋付きのガレージをローコストで! そんなオーダーに応えたのは建築家の石井淳さん
しかし施主が思い描いていたのは単なるガレージではなく、本格的なピットだった

居住スペースよりもガレージ優先で設計を依頼

最初にお断りしておくが、ここはカーショップではない。あくまでも個人住宅で、車関係の設備はすべてオーナーが自身の愛車をメンテナンスするためのものだ。場所は神奈川県相模原市。自然に恵まれた土地で、津久井湖や相模湖も至近。神奈川県有数のドライブルートでもあり、4輪や2輪の走り屋には絶好のロケーションである。取材当日は花見シーズンで、近くにある桜の名所が賑わっていた。

目指すI邸は小高い丘の上にあった。正面から観察すると、手前は広い芝生のスペース。駐車場として利用すれば2~3台は置ける広さだ。セットバックした建物はアルミ板が張られた壁が特徴で、独特の雰囲気を醸し出していれている。設計を担当したのは建築家の石井淳さん。設計にあたり施主からの希望は?

「まず、ガレージ主体の住宅にしたいということです。居住スペースにこだわりはないようで、まさに部屋付きガレージといったイメージでした。そのため、住空間よりも屋内のリフト設置などを優先しています」

ガレージ内を拝見すると、工具類を収納するキャビネットが3台、エアコンプレッサーが1台。インテグラの後方に設置された工作台の上には、ネジ類などの備品が細かく分類され整理されている。メカ好きのIさんらしい几帳面さだ。ただし、このピットには暖房設備がないため「冬場のメンテナンスは寒さとの戦いなんです…」とIさん。このあたりはローコスト化の弊害か?

ジムカーナやメンテナンス以外にも、Iさんはミニカー収集という趣味をお持ち。その数は1000台を超えるといい、あまりに増えてしまったのでガレージ内にミニカー用の趣味部屋を自作してしまった。ちょうどストリームの頭上に設置されているのだが、もともと愛車をすべてメンテナンスしてしまうほど器用なIさんだけに、この程度のDIYは朝飯前。ホームセンターで材料を買いそろえ1週間ほどで完成したという。好きな本や雑誌、ミニカーに囲まれて過ごす時間は至福に違いない。

また、I邸は友人が集まりやすい家でもあるようだ。「いつも車談義に花を咲かせています。私にメンテナンスを頼む友人も少なくないですよ」とIさん。周辺はドライブにもってこいの環境。そして、これほど本格的な設備が整っていれば、カーフリークには格好のたまり場となるのは必然。そんなとき、この前庭の芝とタイルがメカニカルな雰囲気をやわらげて、居心地のよさを感じさせているに違いない。

「もともと土だけだった前庭を、自分で芝とタイルで庭兼駐車場にしました。郵便ポストも自作で、鉄道の枕木で組みました。今は花壇をなくして、そこも駐車スペースにしようと造作中なんです」とIさん。これからも自宅の進化は止まりそうもない。

間取り図|EDGE HOUSE

「I邸・ピットに住まう家」
建築家・石井 淳

tel:050-3702-4625 http://hpcgi2.nifty.com/ishiiat/
所在地:神奈川県相模原市 主要用途:専用住宅
構造:木造 敷地面積:149.88㎡ 建築面積:57.57㎡ 延床面積:93.28㎡
設計・監理:石井淳アトリエ/石井淳

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村博道 photos / KIMURA Hromichi

ガレージ|EDGE HOUSE

ふだんはシャッターを閉じているが、中身は走り屋憧れの空間。付近はワインディングロードに囲まれ、4輪でも2輪でも腕を磨くにはもってこいの環境だ。Iさんはドライビングとメンテナンス両方のスキルアップに余念がない

正面|EDGE HOUSE

ローコスト住宅といいながらもアルミ板張りの外観は高級感あり。大きくセットバックさせることでメカニカルな空気感をやわらげ開放的な空間を感じさせている。友人たちも気軽に訪れられる雰囲気をもっている

住居スペースへの階段|EDGE HOUSE

玄関ドアを開けると右手は広いガラスの引き戸越しにピット全景が確認できる。居住スペースに続く階段は、最初の踊り場までは土足のままでOK。そこからが本来の玄関となる。階段左手には豊富な収納スペースを設置

格納スペース|EDGE HOUSE

ピット奥には大量の工具や、競技車両には欠かせないスペアのボディパーツを格納しておくスペースが設けられている