気持ち良く愛車を眺めたい。そのために生まれた大胆なプラン

愛車は道具でも移動ツールでもなくオモチャのような存在。そう言い切るTさんが望んだのは、車を眺めるための家だった。

今しかできないことをやりたい。そんな思いから作った趣味の家

外観は住宅というよりも、ヨーロッパ郊外のファクトリーという雰囲気。そして邸内に入ると、そこはプレミアムモデルのショールームともいえる空間。T邸はまさに、愛車のために設計された「ガレージ」そのものであった。

設計担当は、建築家の吉川二布さん。住宅だけではなく、学校や商業施設なども手掛ける人気建築家だ。吉川さんのポリシーは、設計に際して施主と徹底的に話し合うこと。今回の物件に関して施主のTさんが望んだことは、①3台が入るビルトインガレージに、②内部をショールームのイメージ、そして③ホテルのような生活空間、というもの。

「 昔から車が好きで、いつかはガレージ付きの家を建てたいと思っていました。一人暮らしなので、今やりたいことを全部やってみたいと思ったのです」とTさん。その思いを正確に理解するために、吉川さんとTさんは徹底的にディスカッションし、車の観察・研究を繰り返したという。

そうして完成したT邸。一見2階建てに見えるが、じつはロフトをもつ天井の高い平屋造り。イメージはアストンマーティンのディーラーだという。2分割のシャッターを開け放つと、3台の愛車がグラマラスなヒップを並べている。アストンマーティンV8ヴァンテージ、フェラーリカリフォルニア、そしてスバルインプレッサWRX STIだ。

国籍もボディ形状もキャラクターも三者三様。Tさん曰く「アストンはジェームス・ボンドが好きだから。インプレッサは走行性能が気に入っている。メインはアストンで、走りを楽しみたいときにインプレッサ。そして楽に乗れるオープンカーということでカリフォルニアを…。とくにフェラーリに対する思い入れはありません」とのこと。う~ん、死ぬまでに言ってみたい言葉ですな。

この特徴的な3台を眺める環境は、まさショールーム。天井までは約5mほどもあり開放感たっぷり。床面は人造大理石を使い、ガレージ側の壁面は巨大なガラス窓だ。このリビングルームだけではなく、人造御影石で色のトーンを変えた寝室からもガレージを眺めることができる。

「 リビングルームから見えるものは、愛車と空のみ…」そう吉川さんが言うとおり、天井近くに設けられた広い窓からは自然光がたっぷり注ぎ込む。夜には月や星が眺められることだろう。ソファに身を沈めれば、そこには外界からは隔絶された垂涎の空間が広がるのである。

T.G.house
建築家:吉川二布
吉川建築設計室

tel.028-666-4360 http://www.geocities.jp/yoshika240
所在地:栃木県宇都宮市 主要用途:専用住宅
構造:鉄骨造 規模:平屋建 敷地面積:369.28㎡ 延床面積:124.39㎡
設計・監理:吉川建築設計室/吉川二布

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi

建物側面にシャッターがあり、その奥が3台分のガレージ。50㎡の広さを確保しており、3台駐めても余裕のある空間としている

寝室から縦長の窓越しにガレージが眺められる。車の上にあるシャッターの構造体がメカニカルな雰囲気を漂わす

居住スペースとガレージは繋げず、玄関脇にある出入り口を使う

ガレージと隣合うリビング。上部に位置する窓からは空しか視界に入らず、余計な景色を見せない