【功労車のボヤき】記憶の中から引っ張り出しちゃくれねえか? ポンテアック ファイアーバード・トランザム
2021/04/19
――君には“車の声”が聞こえるか? 中古車販売店で次のオーナーをじっと待ち続けている車の声が。
誕生秘話、武勇伝、自慢、愚痴、妬み……。
耳をすませば聞こえてくる中古車たちのボヤきをお届けするカーセンサーEDGE.netのオリジナル企画。
今回は、TVドラマ「ナイトライダー」で大活躍していたあのモデル……ファイアーバードが物申す!!
オイラがZに似てるんじゃねえし、しかも逆だよ逆!
ちげえよ、フェアレディZのZ31型じゃねえよ!
あぁ、トランザムのファイアーバードねって?
正確に言えば、それもちげえし!
トランザムという名の車があって、そのボンネットに大きな火の鳥が舞っている派手なモデルが「トランザム・ファイアーバード」だと、みんな勘違いしてやがる。
そうじゃねえんだよ、逆なんだよ。
まず、1967年にシボレーカマロの兄弟車としてデビューしたのが、ポンテアックのファイアーバード。その初代ファイアーバードのハイパフォーマンスモデルとして1969年に登場したのが、トランザムよ。
だから、正式名称は「ポンテアック ファイアーバード・トランザム」……って、自分の名前から説明しなきゃならないことが情けない……。
ちなみに名誉のために言っておくが、3代目のトランザムとなるオイラがデビューしたのは1982年。そんで、Z31とやらのデビューは1983年だから、オイラがZに似てるんじゃなくて、Zがオイラに……。ま、それはどうでもいいや。
名前は間違えられるし印象もイマイチだけど、記憶の中ではまだ走っている!
名前だけじゃない。「トランザム」と聞いてイメージされるその姿も、車好きの年齢層によって違うんだからやんなっちゃうぜ。
トランザムと言えば、カマロと並ぶ60年代のアメリカンマッスルカーの代表格。もちろん、ライトは丸目である!
いやいや、トランザムと言えば、70年代のボンネットにファイアーバードが羽ばたく、角目4灯のイーグルマスクだろ。映画「トランザム7000」でも大活躍したアレよ!
いやいやいや、トランザムと言えば、80年代に登場したリトラクタブルライトだろ。「ナイトライダー」に登場するドリームカー「ナイト2000」!
いやいやいやいや、オイラの鼻っ面は赤く光ったりしねえし、コックピットだってフツーだし……。
名前は間違えられ、印象さえマチマチ……。
そんなアイデンティティのあやふやさが、わが一族が廃れていった原因のひとつではあったろう。でも、だからこそ初代、2代目、3代目と、それぞれの年代の多くの人の記憶の中で今もトランザムは走り続けているのだ、とも言えやしないかい?
だが、しかし……。
問題は、記憶の中で何台走っているかではなく、今、カーセンサーnetに何台並んでるのかってことで……。
検索してみると、ヒットするのはファイヤーバード家全員でたったの数台。そのうちトランザム3代目のオイラたちが3台……。ちなみに、兄弟分のカマロ家は168台、親戚筋のコルベット家は109台……。(2021年4月現在)
今なら、まだ間に合う。記憶の中から、オイラを現実の道の上に引っ張り出しちゃくれねえか?
えっ!? 0-100km/hが0.2秒!?
記憶の糸をたどりやすいように、トランザムの歴史を改めて紹介しておこう。
最初に説明したように、60年代後半、トランザムは初代ファイアーバードのハイパフォーマンスモデルとしてデビューした。もちろん、V8の6.6Lエンジンを積んだ370psのアメリカンマッスルカーよ。
1970年に2代目ファイアーバードが登場し、もちろんトランザムもさらにパワーアップ。
7.5Lで540psなんてモンスターエンジンを積んで大暴れしたもんだが、そんなお祭り騒ぎも73年のオイルショックを境に沈静化……。
エンジンはどんどんおとなしくなっていったが、その代わり見た目は、ますますイカつくなっていった。角目4灯の精悍な顔つきは「イーグルマスク」と呼ばれ、ボンネットには派手な火の鳥(ファイアーバード)が舞い降りた。
3代目にあたるオイラの登場は1982年。この時代の多くのアメ車がそうだったように、かつてのマッスルさはすっかり影を潜め、流線型の洗練されたデザインになった。それでも、走りにこだわったトランザムGTAなんてモデルも存在したんだぜ。
マッスルさと引き換えに手に入れた(スマートな?)デザインが功を奏したか、オイラはTVドラマ「ナイトライダー」に、人工知能を搭載したドリームカー「ナイト2000」として登場し大人気。役柄とはいえ、0-100km/hが0.2秒という設定はいかがなものか、と我ながら思ったもんだ。
1994年に4代目ファイアーバードが登場するも、もう時代の波に追いつくことはできなかった。そして2002年、ファイアーバードの生産終了とともにトランザムもまたその歴史を閉じることになった……。
今こそ夢を、と伝えたい
トランザム(=TRANS AMERICAN)の名には、アメリカ大陸を横断するという壮大な夢が込められていた。そして、21世紀の人々の夢を満載してテレビの中を駆け抜けたのが「ナイト2000」だったはずだ。
もっと速い車はある。もっとオシャレで、もっと快適な車だってある。
でも、記憶に残るような車が、はたして何台あるだろう?
夢よ、もう一度……では、なくて。
今こそ夢を、と伝えたい。
だからちげえって! Zの話しをしてるんじゃねえよ!
▼検索条件
ポンテアック トランザム&ファイアーバード×全国ライター
夢野忠則
自他ともに認める車馬鹿であり、「座右の銘は、夢のタダ乗り」と語る謎のエッセイスト兼自動車ロマン文筆家。 現在の愛車は2008年式トヨタ プロボックスのGT仕様と、数台の国産ヴィンテージバイク(自転車)。
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