ミニクラブマン

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
これからクラシックカーになるであろう車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

ミニという車がもつ、ミニマリズムを色濃く継承したモデル

——さて、最近は新しい年代の車が登場するようになってきた「名車への道」ですが、どうも「名車」という響きと新しい車が繋がりにくくて……改めて取り上げる車の定義について、整理させてください。

松本 今回はBMWミニだよね? 確かに「名車」って言われてもピンとこない人はいるだろうね。

——そうなんですよ。まず、大きなテーマは「これから名車になる可能性が高い車」ですが、他に松本さんはどんなことを重視してます?

松本 自動車の世界って、時代ごとのレギュレーションに対応しながら毎年のように新しいモデルが生まれてくるでしょ? その時は最良と思ってデザインされ、開発されて、世に出てくる。でも、かなりの割合のモデルが人々の目に触れなくなり廃れ、忘れ去られていく。でも、中にはその時代でしか作れないモデルがあるんだ。例えばデザインだったり、作りの良さだったり。つまり所有して嬉しいと思える。車好きの心の中に染み込んで、記憶に残るモデル。こういう車を名車と呼ぶのもひとつの考え方だと思うんだよね。

——なるほど……分かるような気がします。

松本 今回のミニクラブマン、もちろんBMWの方も、そういう車だと思っているんだ。

——カーセンサーEDGEにも物件数は多いですし、人気も高いようですね。あ、今回の車両はこちらです。早速ですけど、車を見ながら基本的なことを教えてください。

松本 まず歴史的なことから話すと、今ではミニクラブマンはエステート、もしくはステーションワゴンといった感覚かもしれないけど、実際は少し違うんだ。1969年にフロントグリルを角型にしたミニが発売されたんだけど、これがクラブマンという名前だった。当時、同じボディでライレーやウーズレーといった往年のブランドからもミニは作られていたんだけど、それらと差別化するための名前なんだよ。この頃、クラブマンにはホイールベースを延ばして、空間を広く使える車があったんだけど、名前はミニクラブマン エステートだったんだ。他のメーカーから同様のディメンションで1961年からオースチン ミニ カントリーマンやモーリス ミニ トラベラーというモデルが作られていたね。
 

ミニクラブマン
ミニクラブマン

——なるほど。同じワゴンで名前が違うのは何でだろうと思ってはいたんですよ。

松本 クラブマンという名前は元々エステートを表しているわけじゃないってことね。

——そうなんですね。でもなぜBMWはクラブマンという名前をエステートに使ったんですかね? オリジナルと雰囲気は確かに似てますが。

松本 僕も経緯は分からないけど、BMWがミニの権利を購入した時にクラブマンという名前と販売する権利も獲得したんじゃないかなぁ。BMWはトラベラーやカントリーマンの権利も持っていると聞いたことがあるし。

——それで松本さん的にはこのBMWになってからのクラブマンは「名車予備軍」にあたると考えているんですね?

松本  そうだね。まずこのデザインとアイデア、そして作りの良さだね。
 

ミニクラブマン

——ミニ、ではなくクラブマンがですか?

松本 そう。そもそも初代BMWのミニクラブマンの特徴はオリジナル ミニに設定されていたエステートのようにホイールベースを延ばした点、そしてリアのスプリットドアだね。

——スプリットドアっていわゆる観音開きドアのことですよね?

松本 そうだね。デザインも素晴らしい。ホイールベースを延ばすとタイヤが小さく見えて可愛い印象になるんだよ。全長はハッチバックより240mm長いんだ。Bピラーより前はミニのまんまで、Bピラーから後ろをすべて作り直したんだ。

——だからワゴンボディなのにミニの雰囲気が出てるんですね。

松本 そうだね。そして右側だけに取り付けられたクラブドア。あと後席側のドアがパーティングドアになっているのが特徴的だね。マツダ RX-8や最新のMX-30にも使われている技術で、人によっては使いにくいと思うらしいけど、慣れてくると結構便利なところもあるんだ。荷室のスプリットドアも同じだよね。ダンパーを使ってスッと開くようになっていて、実に凝った作りだね。しかも水平じゃなくて斜め上方に、まさに仏壇のように開くんだ。ドアの厚みも凄いよ。この重厚感はロールス・ロイスのような雰囲気だよね。

——確かに観音開きドアを開閉していると、妙に良いモノ感がありますもんね。

松本 このスプリットドアは、素晴らしい精度で作られているんだ。運転席と助手席のドアよりもずっと作りがいい。スプリットウインドウの左右にある独立したワイパーも泣かせるよね。デザインもカワイイし。ちょっと日本のメーカーでは考えられないぐらいコストをかけて作ってあるんだ。

——最新世代のミニにもクラブマンってありますけど、スプリットドアは後ろだけですもんね。

松本 最新のクラブマンもいいけど、この時代の方が作りも凝っているよね。荷室のスプリットドアを開けたときにテールランプはボディに装着されたままで、ドアパネルをくりぬいて作ってあったりするんだ。ここもコストがかかっているよ。テールランプが小さくてクラシックなエッセンスも感じるしね。

——ボディサイズも手頃でエステートとしては使い勝手もいいですしね。

松本 そのとおりだね。この車は全幅が1700mm以下で5ナンバーサイズ。日本の道路事情にはピッタリだよね。荷室が広くて使い勝手がいいとか、ミニとして基本性能が高いとか車の魅力はたくさんあるんだけど、やっぱりデザイン、作りの良さが本当に素晴らしいし、最大の魅力なんだ。このサイズにギュッとミニの魅力を凝縮したモデル。ミニという車がもつミニマリズムをとても色濃く継承したモデルだと思うね。
 

ミニクラブマン

シューティングブレークのコンセプトを取り入れ、3ドアより全長を240mm延ばしたエステートモデル。車両右側にはクラブドア、リアゲートにはスプリットドアと呼ばれる観音開きのドアが備わる。ラゲージ容量は260~930L。
 

ミニクラブマン
ミニクラブマン

※カーセンサーEDGE 2021年2月号(2020年12月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏