ジャガー XKコンバーチブル

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫る【名車への道】
クラシックカーになる直前の80、90年代の車たちにも、これから価値が上がる車、クラシックカー予備軍は多数存在する。そんな車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく企画「名車への道」。

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

そうそうたる人間が関わっているから価値があるんだよね

――新しい車が「名車への道」に入るって素晴らしいことだと思いませんか?

松本 そうだね。数は多くないけど後世に残したい車はあるからね。

――だから積極的に取り上げたくて。今回は松本さんも以前所有してたXKを選んでみました。

松本 いいじゃない。僕がしばらく乗っていたのは“X150”タイプという2代目モデルなんだ。初期型のNA4.2Lのクーペだね。

――あ、今回はこの個体、コンバーチブルですね。

ジャガー XKコンバーチブル
ジャガー XKコンバーチブル

松本 いいねぇ。2009年式から近代的なダイヤル式に変わったんだけど、初期型はJゲートと言われるATのセレクターなんだよ。

――あー確かに最初はそうでしたね。XKはシリーズとしてはこれが2代目で、初代が1990年代に出たモデルですよね?

松本 そうだね。2006年から14年まで生産されたこのXKが2代目だね。このモデルから今の新しいジャガーがスタートしたんだよ。

――正直、松本さんがこれを買ったと聞いて驚いたんですよね。意外だなって。

松本 そうかな? このXKって2+2で実は実用的でしょ? それでいて程よくエレガントさもある。際立って格好つけた感じもしないし、そういうところが気に入って購入したんだよ。

ジャガー XKコンバーチブル

――初代XK(*1)はダメですか?

松本 初代は懐古的でクラシックな雰囲気はすごく好きなんだけど、新しさがないんだよね。この2代目をデザインしたのはアストンマーティン DB7をデザインしたことでも有名なイアン・カラム(*2)でね。7年くらい前にお会いして話したことがあるけど、自信に満ちあふれたカッコいいジェントルマンだったよ。

新しいXJはどうしてリアに重心をかけたデザインなのかと聞いたら「スポーツカーのジャガーはロングノーズでリアが短い方がサルーンでもカッコイイんだ!」と言っていたね。ちなみに同氏は日産がル・マンに出場するために作ったR380(*3)も手がけているんだよ。

――お名前はもちろん知ってますが……。凄い人がデザインしてたんですね。

松本 この2代目XKはクーペとコンバーチブルがあるけど本当はこのコンバーチブルが好きなんだ。単純にカッコいい。

もちろんクーペもカッコいいよ。それとトランクスルーのラゲージスペースが便利でね。これはこれでとても使いやすくて良かった。まあ2+2といっても後ろは荷物置きだね(笑)。

――2+2でそう思えるのは優秀ですね。

松本 素晴らしい点を挙げればキリがないよ。まずボディはすべてアルミニウム製で、コンバーチブルなんかは先代のボディ剛性と比べると3割以上は向上したと言われているね。

エンジンだってV型8気筒で重厚感があってね。ZFのトランスミッションと組み合わせていて、ゆっくり走らせるときはおとなしくジェントル、踏み込むと一気に獰猛になるんだ。

――確かXKRとかもありましたよね?

松本 そうだね。XKRはスーパーチャージャーを搭載して、もっと凄いよ。でも当時走らせたときはXKもXKRも燃費はそれほど変わらなかったんだよね。

――カタチがいきなり変わったわけだから、新旧で好みは分かれるところですよね。

松本 そうだろうね。確かにハード面で懐かしいジャガーの面影はなくなったけど、走らせると実はしっかりとジャガーなんだ。しなやかでラグジュアリー、そして余裕のある走りの感じがすごく良いんだよ。

――僕は新しい方もイイと思いますよ。

松本 でしょ? 特にコンバーチブルは美しさを極めているよ。フロントからリアまで長く見せることで優雅さを引き出したデザインなんだ。

実はクーペもコンバーチブルも両方ともカッコいいモデルってなかなかないんだよね。こういうデザインならずっと乗っててもあまり古く感じないと思うよ。

――エンジンはどうなんですか?

松本 エンジンはAJ-8(*4)と呼ばれてアストンマーティンやランドローバーでも使われているユニットだよ。もっともアストンの場合は手作業で組み立てたユニットだけどね。

XKは初めに4.2L、その後5Lに変わるんだけどフィーリングは全く別物だったね。インジェクションのマネージメントはデンソーが担当していたらしい。なんたって1996年から作られているエンジンだから信頼性は抜群だよ。

設計にコスワースが加わったという話も聞いていたし。そうそうたる顔ぶれで作ったモデルだからこそ、今見てもすごく価値を感じるんだろうね。
 

ジャガー XKコンバーチブル

■注釈
*1 初代XK
1996年から2006年まで発売。クーペ、コンバーチブルを設定し、エレガントなデザインでブランドのイメージを牽引した。

*2 イアン・カラム
ジャガーのデザインを指揮する英国人デザイナー。フォード、マツダなどでその辣腕を振るい、1999年にジャガーへ入社。

*3 R380
プリンス自動車工業が開発をスタートさせ、日産と合併後にニッサン R380として開発されたレーシングカー。生産は1965年。

*4 AJ-8
ジャガーの多くのモデルが搭載してきたV8型エンジン。レンジローバーやアストンマーティン V8ヴァンテージも採用。
 

ジャガー XK(2代目)

2006年から2014年にかけて発売された4座スポーツモデル。クーペとコンバーチブルが設定され、デザインはイアン・カラム氏が担当。ジャガーが新デザインを取り入れた最初の1台となる。アルミボディを採用し、軽快な走りも大きな特徴となっていた。
 

※カーセンサーEDGE 2019年12月号(2019年10月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏