▲1970年から1976年まで、ユーザーの窓口を広げるための入門モデルとして製造。エンジンはビートルに積まれていた4気筒を改良して搭載し、上位の914/6がポルシェ製の6気筒を積んでいた。サスペンションはフロントが911と同じストラット、リアがビートルと同じトレーリングアームとなっていたが、リアにはポルシェ初のコイルスプリングが用意されていた ▲1970年から1976年まで、ユーザーの窓口を広げるための入門モデルとして製造。エンジンはビートルに積まれていた4気筒を改良して搭載し、上位の914/6がポルシェ製の6気筒を積んでいた。サスペンションはフロントが911と同じストラット、リアがビートルと同じトレーリングアームとなっていたが、リアにはポルシェ初のコイルスプリングが用意されていた

性能とキャラからいって名車になって当然の車だね

EDGE:さて今回は毎回この企画の車種選びで悩むポルシェ特集です。

松本:結構紹介しちゃってるし、やってないモデルは希少車になってきてるもんねぇ。356カレラ2、73カレラRS、74年の3.0RSなんかも紹介したいなぁ。でもそれよりまずは「名車予備軍」にあたるポルシェを探さないとね。

EDGE:そうなんですよ。ということで、前から探してた914が出てきました。

松本:良かったね。結構前から探してたからね。

EDGE:程度の良い個体、減りましたからね。

松本:ポルシェの場合、特にここ10年で車両の価値が激変したよね。ナローの911Sだって僕が乗っていた頃は今みたいに名車という感じじゃなかったんだから。

EDGE:みんないってますもんね。「あの頃はこんな高くなかった」って(笑)。 あ、この車両です。色もいいですね。

松本:いいじゃない、これ。ビッカビカのコレクションコンディションの車は見てて楽しいけど、乗る気がしないじゃない? いつもお世話になってるコチラのお店の湯山さんもよくいってるけど、やっぱりポルシェは走らせてナンボだから。そういう意味でいいよね、この914。

ラバーバンパーではないから初期型だね。75年以前のアイアンバンパーにこれ見よがしのクロームメッキが特別な感じを醸し出していて好きだなー。こんなに大きなクロームメッキのバンパーが装着された2シーターってないと思うね。それに見てよ。このオレンジもオリジナルだよ。すごいね、再塗装してないよ。こういう個体が程度が良いというんだよ。

EDGE:914の基本的なことを教えてくださいよ。

松本:ワーゲンポルシェなんて呼ばれ方もする車だね。

EDGE:確かワーゲンとポルシェが分業で生産したんですよね?

松本:そう。スーパーカーブームの時に「914/6(*1)はポルシェ製なのに、914はフォルクスワーゲンの車体番号らしいよ!」なんて生意気なことを言ったりしてたよ。スタイルも独特だよね。

EDGE:程度の良い個体が減ったのは、大事に扱われないことが多かったからですかね?

松本:確かに安くなって少し粗野に扱われた時代があったよね。もともとオープンボディのモデルは骨格に応力が集中して入りやすいので、腐食が発生しやすいんだ。だから、真ん中で折れ曲がるからドアの立て付けも……なんていわれたりしたよ。もちろん、程度が良い車両はそんなことはなかったけどね。一部の粗野な扱いを受けた914がそういわれてしまったんだろうね。

EDGE:乗った印象ってどんな感じなんです?

松本:程度が良ければとてもシャープなハンドリングで軽快なんだよ。ポルシェ初の量産型ミッドシップレイアウトだからね。4気筒でも十分パワーバンドに乗せれば楽しめた。スチール製のホイールも雰囲気があってよかったけど大抵が914の4穴ホイールから914/6の5穴ホイールに仕様を替えたりしてね。

この車もお馴染みのアルミホイールに交換されているんだ。この911Sのために付けられたポルシェホイールは傑作中の傑作だよ。鍛造製でね、フックス(*2)社製の。価値があるんだ。採算度外視で作ったホイールで、名品なんだよ。

EDGE:結構車高も低いですね……。

松本:ドライブすると、目線が低くてね。それととにかく軽いんだよ。スタイリングについてはいろいろと評価が分かれるけど、今になって見ると個性的で低く構えた存在感は独特でカッコイイよね。

現在のポルシェでは作ることのできない純粋なライトウェイトスポーツカーなんだ。今から10年以上前に914のワンオーナー車をドライブすることができたんだけど意外なことに速いんだよ。軽いこととミッドシップということもあってブレーキフィールもとてもいい。このパッケージングはレースでも耐えられるスポーツカーだったと思うね。

1970年のル・マン24時間では914/6のレース仕様が総合6位だからね。この当時は純レーシングカーの917K(*3)やフェラーリ512S(*4)などそうそうたるモデルが出場しているにも関わらず、市販車を改造した2Lエンジンで6位は自動車の基本がよかった証しだと思うね。

EDGE:聞けば聞くほどいい車ですねぇ。

松本:そうだね。大人が軽やかにドライブするとモデルとしては偉そうじゃなく、雰囲気もよくてカッコイイ。名車になっていく素晴らしいモデルだと改めて思うんだ。

■注釈
*1 914/6
4気筒エンジンを積んだ914の上位モデルとして用意されていた6気筒モデル。エンジンは914と異なりポルシェ製となっていた

*2 フックス
1910年創業のドイツ鍛造ホイールメーカー。初代911をはじめとする多くの名モデルが装着し、その性能は高く評価されていた

*3 917K
1969年から製造されたポルシェのレーシングモデル。ガルフカラーがトレードマークで、多くのレースで活躍。伝説の存在となっている

*4 フェラーリ512S
フェラーリが国際メーカー選手権に出場するために開発したレーシングモデル。1970年に登場し、1971年に512Mが作られている
 

クアトロポルテ
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text/松本英雄
photo/岡村昌宏
 

※カーセンサーEDGE 2018年7月号(2018年5月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています