▲インドで実用化されている、スズキの800㏄2気筒DOHCディーゼルターボ。コンパクトカーのセレリオに搭載されているが、大きく傾斜したバージョンもあるので、商用車にも用いられるかもしれない ▲インドで実用化されている、スズキの800㏄2気筒DOHCディーゼルターボ。コンパクトカーのセレリオに搭載されているが、大きく傾斜したバージョンもあるので、商用車にも用いられるかもしれない

1L直3ブースタージェットから透けて見える、スズキの計画

スズキが、バレーノの日本仕様に起用した1L直3直噴ターボ、ブースタージェットは、同社の意欲作だ。海外を見回すと、同排気量の3気筒ユニットは多数ある。フォードのエコブースト、フォルクスワーゲンのTSIなどがそうだ。昨今のトレンドに乗った形ともいえるが、スズキはこのユニットをもっと有効活用しようと考えているようだ。

これらのエンジンは、シリンダー数と排気量の両方を減らし、過給で吸気量を稼いで、トルクとパワーを補う考え方に基づいている。これがいわゆる「ダウンサイジング過給」だ。

周知のとおり、日本メーカーはこの領域になかなか手を出さなかった。それは国内の走行速度域が低く、高速域での伸びも求められず、組み合わされるトランスミッションもCVTだから、ターボはいらないという判断があったからだ。

▲2016年3月に日本市場に投入された、スズキ バレーノ。日本仕様には、1.2L直4デュアルジェットとともに、1L直3直噴ターボ、ブースタージェットもラインナップされた ▲2016年3月に日本市場に投入された、スズキ バレーノ。日本仕様には、1.2L直4デュアルジェットとともに、1L直3直噴ターボ、ブースタージェットもラインナップされた
▲こちらが1L直3ブースタージェットエンジン。JC08モード20㎞/Lを達成しながら、ターボ化により、1.6L車並みのアウトプットを実現している ▲こちらが1L直3ブースタージェットエンジン。JC08モード20㎞/Lを達成しながら、ターボ化により、1.6L車並みのアウトプットを実現している

スズキが直噴ターボに踏み切ったわけとは

そもそも燃料をシリンダー内に直接噴射する直噴システムは、一般的なポート噴射システムよりもコストがかさむ。ターボとセットにすると、それだけで安い自然吸気エンジンの製造原価の6割にも達してしまうといわれている。

他社以上にコストに敏感なスズキが、直噴ターボ化に踏み切った背景には、世界戦略がある。おそらく同社は軽自動車の恩恵がなくなる日のことを考えているのだろう。

軽自動車といえば660㏄直3が一般的だが、1気筒あたり220㏄ではシリンダー内の壁や燃焼室天井に奪われる熱が多いという。これが冷却損失だ。

先達、フィアットに学ぶ新世代スズキエンジン

イタリアのフィアットが、875㏄エンジンを2気筒で作った理由も、冷却損失に配慮したためだ。また、この排気量も絶妙で、1気筒あたり437㏄となる。同じシリンダーとピストンを使って3気筒にすると1.3Lユニットが、4気筒にすると約1.8Lユニットができるという寸法。

▲珍しい875㏄の2気筒エンジンを採用するフィアット 500。日本の軽自動車に搭載されている660㏄直3と比べて冷却損失が少ないという ▲珍しい875㏄の2気筒エンジンを採用するフィアット 500。日本の軽自動車に搭載されている660㏄直3と比べて冷却損失が少ないという

そして、スズキもこれにならおうとしている節が見受けられるのだ。同社の1L直3ターボは1気筒あたり332㏄。これを2気筒にして、ほんの少しピストン形状を変えれば660㏄2気筒ができあがる。次世代のスズキ軽自動車に2気筒エンジンが用いられる可能性さえ透けて見える。

バレーノのブースタージェットは、振動対策として重量のある大径フライホイールの採用と、シリンダーブロック補強が行われ、併せて新設計のエンジンマウントが採用されている。

3気筒エンジンでは、バランサーシャフトを使うのが一般的だが、スズキはコストと可動部の重量増を嫌って採用しなかった。この方式で大丈夫との自信にもつながったはず。となると、軽自動車用の660㏄2気筒エンジン開発に踏み切る可能性も高まったと見るべきだろう。

※2016年6月8日現在における予測記事です

text/マガジンX編集部
photo/マガジンX編集部