※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲成功を収めた前モデルのTD21に代わり、63年より発売された高級GTモデル。ボディはもちろんのこと、細かい装飾品に至るまで職人の手によって作り出され、まさに芸術品のような作り込みがされている。エンジンはTD21から継承した130psの2993ccの直列6気筒エンジンを採用。65年のマイナーチェンジで150psまで出力は高められていた。ボディはドロップヘッドクーペの他にサルーンもラインナップされていた 成功を収めた前モデルのTD21に代わり、63年より発売された高級GTモデル。ボディはもちろんのこと、細かい装飾品に至るまで職人の手によって作り出され、まさに芸術品のような作り込みがされている。エンジンはTD21から継承した130psの2993ccの直列6気筒エンジンを採用。65年のマイナーチェンジで150psまで出力は高められていた。ボディはドロップヘッドクーペの他にサルーンもラインナップされていた

ロールスやベントレーと並んで作られた高級車

松本 巨匠、どうやらEDGEはリニューアル(※2011年5月号発売時点の情報です)するようですが、この企画はそのまま続くそうです。
徳大寺 それは何よりだな。読者にいろんな車を知ってもらいたいが、それ以上にこの企画は我々の楽しみでもあるしな。
松本 そうですね。で、今号ですが前に巨匠「久しぶりに蒲田の英国車屋に行きたいな~」って言ってましたよね? 今回はテーマにこだわらず奥深いモデルにしようという話だったので、蒲田の白鳥さんのお店に行くことにしたんですよ。
徳大寺 ほ~! いいね。ガレージ日英だろう? あそこで何か購入したいと思ってるんだけど、これだ! というモデルはすぐに売れちゃうんだよ。流行とは関係ない車があるのが通好みなんだよ。ACエースやアルヴィスといった車もあるから、日本では極めて希有なお店と言えるだろうな。
松本 それで今日のヴィンテージエッジは最後の英国車らしい車を紹介しようと思いまして、アルヴィス TE21にしました。巨匠と僕の間を取り持ったようなメーカーですからね、アルヴィスは。
徳大寺 共通の知り合いがアルヴィス TD21を持っていて、話が弾んだんだよな。いすゞ自動車のヨーロッパ代表だった松下さん。君も世話になったんだろう?
松本 それはもう。僕に英国車の神髄を教えてくれた方ですから。もちろん松下さんのアルヴィスにも何度も乗りましたよ。6気筒がとても静かで上品でしたね。しかも粘り強くトルキーなユニットでした。
徳大寺 今日見に行くアルヴィス TE21DHCだけど、DHCって何だと思う? 英国車のカブリオレタイプのモデル、ドロップヘッドクーペの略なんだ。ちなみに英国車の通常のクーペはフィックストヘッドクーペ(FHC)と言うんだ。
松本 アルヴィスというメーカーは今は乗用車を作っていませんが、当時最新のテクノロジーを導入していたんですね。乗用車の生産を1967年に終了した後、その技術力を買われて戦車などの軍用車両を昨年まで作っていたと聞きました。
徳大寺 イギリスという国はそう簡単にアルヴィスのような技術力を持ったメーカーを手放したりはしないんだ。アルヴィスは航空機用のエンジンも作っていたし、戦前はグランプリカーを作って走らせていた。
松本 アルヴィスは知る人ぞ知る自動車メーカーということになりますね。航空機用のロールスロイスのエンジンのライセンス生産も行っていたぐらいですからね。
徳大寺 今日行くガレージ日英は大通りに面していないところもイギリスらしいな。この辺だろう。あったあった、ウーズレイがあるよ。
松本 今日のお目当てのアルヴィス TE21DHCがありますね。上品な茄子紺ですね。過度なレストアをする訳でもなく、でもオリジナルコンディション。これは作ろうにも作れないですからね。
徳大寺 まったくだ。ピカピカだとかえって恥ずかしいよな。ましてやスノビズムのイギリスだ。このボディはどこのだろう。戦後、特に1950年代からはスイスのグラバーでデザインしてボディを作っていたんだ。しかしその後はロールスやベントレーのボディでもおなじみのパークウォードで作っていたな。
松本 当時の写真を見るとロールスとアルヴィスが並行して作られていますね。こりゃ高級なわけです。モノフォルムのオールアルミボディですからね。
徳大寺 アルヴィスはきわめて進歩的なメーカーで戦前からフルシンクロのトランスミッションを搭載してたんだ。1950年代の初めには、ミニを作ったことで知られるアレックス・イシゴニスもエンジニアとして参画していた。
松本 後にミニに使われたモールトン博士のハイドロ式のサスペンションも先駆けて採用されていたんですから恐るべしですね。
徳大寺 このTE21はパワーステアリングが付いてるからまぁ、それほど苦労はないだろうな。この当時のアッパークラスのモデルはステアリングが異常に重いからね。
松本 ATはボルグワーナー製(BW)のようですね。この当時はBWはけっこう使われていましたから、メンテナンスは問題ないでしょう。発電機の後ろに付いているパワーステアリングのポンプが凄いですね。初めて見ましたよ。パーツはどうなんでしょうね。以前松下さんに聞いたんですが、イギリスにはレッドトライアングルというアルヴィス専門店があって何でも揃うようですよ。
徳大寺 そうだよ。レッドトライアングルはアルヴィス社からすべてを譲り受けた会社だから、ボディだってあるそうだ。車を長く乗るには、消耗品を含めたパーツがどれだけ揃っているかが大前提になる。イギリスという国は旧いモノを大切に部品を換えて使う。それが素晴らしいじゃないか。昔の日本もそうだったんだがな。こういう車の価値観を少しは分かってくれないとイイ物は作れないよ。

ALVIS TE21 リア
ALVIS TE21 エンジン
ALVIS TE21 エンブレム
ALVIS TE21 内装
ALVIS TE21 インパネ
text/松本英雄 photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2011年5月号(2011年4月9日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています