歴史に残る英国高級GTカー ’63 ALVIS TE21
カテゴリー: クルマ
タグ: EDGEが効いている / VINTAGE EDGE
2015/11/25
※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。
ロールスやベントレーと並んで作られた高級車
松本 巨匠、どうやらEDGEはリニューアル(※2011年5月号発売時点の情報です)するようですが、この企画はそのまま続くそうです。
徳大寺 それは何よりだな。読者にいろんな車を知ってもらいたいが、それ以上にこの企画は我々の楽しみでもあるしな。
松本 そうですね。で、今号ですが前に巨匠「久しぶりに蒲田の英国車屋に行きたいな~」って言ってましたよね? 今回はテーマにこだわらず奥深いモデルにしようという話だったので、蒲田の白鳥さんのお店に行くことにしたんですよ。
徳大寺 ほ~! いいね。ガレージ日英だろう? あそこで何か購入したいと思ってるんだけど、これだ! というモデルはすぐに売れちゃうんだよ。流行とは関係ない車があるのが通好みなんだよ。ACエースやアルヴィスといった車もあるから、日本では極めて希有なお店と言えるだろうな。
松本 それで今日のヴィンテージエッジは最後の英国車らしい車を紹介しようと思いまして、アルヴィス TE21にしました。巨匠と僕の間を取り持ったようなメーカーですからね、アルヴィスは。
徳大寺 共通の知り合いがアルヴィス TD21を持っていて、話が弾んだんだよな。いすゞ自動車のヨーロッパ代表だった松下さん。君も世話になったんだろう?
松本 それはもう。僕に英国車の神髄を教えてくれた方ですから。もちろん松下さんのアルヴィスにも何度も乗りましたよ。6気筒がとても静かで上品でしたね。しかも粘り強くトルキーなユニットでした。
徳大寺 今日見に行くアルヴィス TE21DHCだけど、DHCって何だと思う? 英国車のカブリオレタイプのモデル、ドロップヘッドクーペの略なんだ。ちなみに英国車の通常のクーペはフィックストヘッドクーペ(FHC)と言うんだ。
松本 アルヴィスというメーカーは今は乗用車を作っていませんが、当時最新のテクノロジーを導入していたんですね。乗用車の生産を1967年に終了した後、その技術力を買われて戦車などの軍用車両を昨年まで作っていたと聞きました。
徳大寺 イギリスという国はそう簡単にアルヴィスのような技術力を持ったメーカーを手放したりはしないんだ。アルヴィスは航空機用のエンジンも作っていたし、戦前はグランプリカーを作って走らせていた。
松本 アルヴィスは知る人ぞ知る自動車メーカーということになりますね。航空機用のロールスロイスのエンジンのライセンス生産も行っていたぐらいですからね。
徳大寺 今日行くガレージ日英は大通りに面していないところもイギリスらしいな。この辺だろう。あったあった、ウーズレイがあるよ。
松本 今日のお目当てのアルヴィス TE21DHCがありますね。上品な茄子紺ですね。過度なレストアをする訳でもなく、でもオリジナルコンディション。これは作ろうにも作れないですからね。
徳大寺 まったくだ。ピカピカだとかえって恥ずかしいよな。ましてやスノビズムのイギリスだ。このボディはどこのだろう。戦後、特に1950年代からはスイスのグラバーでデザインしてボディを作っていたんだ。しかしその後はロールスやベントレーのボディでもおなじみのパークウォードで作っていたな。
松本 当時の写真を見るとロールスとアルヴィスが並行して作られていますね。こりゃ高級なわけです。モノフォルムのオールアルミボディですからね。
徳大寺 アルヴィスはきわめて進歩的なメーカーで戦前からフルシンクロのトランスミッションを搭載してたんだ。1950年代の初めには、ミニを作ったことで知られるアレックス・イシゴニスもエンジニアとして参画していた。
松本 後にミニに使われたモールトン博士のハイドロ式のサスペンションも先駆けて採用されていたんですから恐るべしですね。
徳大寺 このTE21はパワーステアリングが付いてるからまぁ、それほど苦労はないだろうな。この当時のアッパークラスのモデルはステアリングが異常に重いからね。
松本 ATはボルグワーナー製(BW)のようですね。この当時はBWはけっこう使われていましたから、メンテナンスは問題ないでしょう。発電機の後ろに付いているパワーステアリングのポンプが凄いですね。初めて見ましたよ。パーツはどうなんでしょうね。以前松下さんに聞いたんですが、イギリスにはレッドトライアングルというアルヴィス専門店があって何でも揃うようですよ。
徳大寺 そうだよ。レッドトライアングルはアルヴィス社からすべてを譲り受けた会社だから、ボディだってあるそうだ。車を長く乗るには、消耗品を含めたパーツがどれだけ揃っているかが大前提になる。イギリスという国は旧いモノを大切に部品を換えて使う。それが素晴らしいじゃないか。昔の日本もそうだったんだがな。こういう車の価値観を少しは分かってくれないとイイ物は作れないよ。
【関連リンク】
※カーセンサーEDGE 2011年5月号(2011年4月9日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
日刊カーセンサーの厳選情報をSNSで受け取る
あわせて読みたい
- 西川淳の「SUV嫌いに効くクスリをください」 ランボルギーニ ウルスの巻
- EVハイパーカーメーカー「リマック」が今熱い!従来のスーパーカーを猛追するクロアチアの新星【INDUSTRY EDGE】
- 【功労車のボヤき】「オペルとは思えないほどイカしてる!」というトホホな褒め言葉に涙した日もあったけど……。オペル一族の逆襲!?
- 【試乗】メルセデス・ベンツ 新型Sクラス│”新時代の車”を堪能できるラグジュアリーセダンの最高峰!
- ドア開閉音からも分かる卓越したビルドクオリティ、空冷時代だからこそ生きたポルシェの技術力
- 【試乗】新型 フォルクスワーゲン T-Cross│「TさいSUV」はハッチバックよりもどこが欲張りか? 実際に乗って考えた
- 今はもう中古車でしか味わえない高純度FR、国産を代表するミドルセダンのレクサス GS【Back to Sedan】
- 世界で3社しか市販していないレアなFCVの1台、トヨタ MIRAIのドライブフィールに注目! 【EDGE’S Attention】
- 【試乗】新型 アウディ A4 アバント│実用性の高いアバントボディがクアトロらしい俊敏な走りとマッチし、絶妙にバランスがとれた逸品
- アルピナ B8 4.6リムジン。それはある意味「永遠の命」をもつ希少名車だった。【NEXT EDGE CAR】