※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1962年にウィリス・モータースが発表したワゴンモデルがジープワゴニア。4輪駆動で自動変速機付き(3AT)というのはこれが世界初となる。また別に後輪駆動モデル、2ドア、4ドアモデルも用意されていた。OHVエンジンが主流のアメリカにおいて、当時唯一のSOHCエンジンを搭載していたことも特徴のひとつである。排気量は3773ccで最高出力は142ps/4000rpm(SAE)、最大トルクは29kgm/1750rpm(SAE)。最高速度は130km/hと発表されていた。今回の撮影車はその希少な初期モデル 1962年にウィリス・モータースが発表したワゴンモデルがジープワゴニア。4輪駆動で自動変速機付き(3AT)というのはこれが世界初となる。また別に後輪駆動モデル、2ドア、4ドアモデルも用意されていた。OHVエンジンが主流のアメリカにおいて、当時唯一のSOHCエンジンを搭載していたことも特徴のひとつである。排気量は3773ccで最高出力は142ps/4000rpm(SAE)、最大トルクは29kgm/1750rpm(SAE)。最高速度は130km/hと発表されていた。今回の撮影車はその希少な初期モデル

アメリカ車では珍しい直6エンジンのSUV

松本 今月のヴィンテージエッジのテーマは、巨匠にはちょっと言いづらいんですが、“SUV(SportUtilityVehicle)”なんです。お好きなカテゴリーではないですよね?
徳大寺 SUVか。同じ4輪駆動でも、今日乗ってるアウディR8スパイダーとは対極のカテゴリーだな。まぁ一口にSUVと言ったって様々な車種があるからな。別に毛嫌いはしてないよ。僕だってレンジローバーを新車で買って乗っていたんだし。もっともレンジローバーは品の良い高級な乗用車でありながら本物のオフロードカーだから、簡単にSUVなんて仕分けできないがな。
松本 今回なんですが、乗用車タイプのオフロードSUVの始祖と言っても良いモデルを見つけたので見に行きましょうよ。
徳大寺 そうか。それは面白そうだな。で、車種はなんだ?
松本 “カイザーワゴニア”ですよ。 それもカイザーというだけあって1963年の初期型ですよ! その後64年からはカイザーの名は使われず、ジープ・ワゴニアになっていったんですよね?
徳大寺 うん。その通りだよ。
松本 10年以上前からR246を走っていて面白いお店があるなぁと思っていたんですよ。“アトニック”というワゴニア専門店です。
徳大寺 カイザーのワゴニアはかなり珍しいぞ。今までに見たことないな。カイザー・ジープ社のモデルで、6気筒じゃないかな。それも直列のSOHCだったと思うが。
松本 さすがですね巨匠。V型8気筒と思われがちですが、直6なんですね。しかもSOHCなんてアメリカ車とは思えないほど進歩的ですよね。カイザー社はエンジンは自社製が間に合わず、コンチネンタル製のエンジンを使っていたそうです。
徳大寺 航空機エンジンで有名な、あのコンチネンタルだろ? そっちのほうが高級な感じもするな。セスナはコンチネンタル製エンジンが多いからね。信頼のあるエンジンだ。
松本 航空機好きにはたまりませんね。しかしこのワゴニアのシャシーはフルサイズのジープシャシーとして1962年に生産されましたが、140馬力そこそこのコンチネンタル製の6気筒3.8Lユニットでは物足りなかったようですね。
徳大寺 着いたようだぞ。こんなにワゴニアがたくさんあるのも珍しいよ。おぉジープコマンドもあるぞ。ここはなかなか面白いお店だな。カイザーワゴニアはショールームの中にちゃんと入ってるからボディのコンディションも素晴らしいね。メタリックの薄いグリーンも当時の感じを出してていいな。
松本 実際に見るとかなり大きいですね。4ドアにリアハッチを加えた5ドアは使い勝手が良くて、様々な遊びにもってこいですね。ジープ社が造ったシャシーは軍用にも耐えられた設計ですから、キャンピングトレーラーやボートなどのヘビー級の牽引にも問題ないのでしょう。このシャシーは1991年のグランド・ワゴニアまで使われていたんです。
徳大寺 そう考えるとシャシーのメンテナンスは全く問題ないな。エクステリアとインテリアの細々した部品もなかなかキレイだな。ベンチシートも良いじゃないか。ベンコラ(ベンチシート・コラムシフト)だから6人乗りだし。荷室も広いし何たってリアのハッチの窓だけパワーウインドウで開閉できるんだ。アメリカらしいじゃないか。
松本 エンジンを見てみましょう。この当時の車はキャビンからのレバーでボンネットを開けるタイプもありましたが、フロントグリルの隙間や下の方にレバーがあって誰でも簡単にボンネットを開けられるんですよね。
徳大寺 そうだよ。俺みたいに古い人間はその辺りは詳しい。これだなコンチネンタル製のエンジンは。カムカバーのデザインで、まさにコンチネンタル製だとわかるな。アルミがとてもキレイだ。その後この直6エンジンからナッシュやハドソンに使われていたAMC(AmericanMotorsCorporation)のV型8気筒327 cu in(5・4L)が使われたんだ。
松本 円形ではない台形のホイールアーチなどのデザインはジープからのインスピレーションもありますし、通常のカーデザイナーでは考え出せないような要素が詰まっていますね。台形のホイールアーチは大きなホイールを履かせても様になるんですよね。ハマーなんかを見るとよくわかります。
徳大寺 ハマーも元々はジープを設計したウィルス・オーバーランド社だし、デザイナーのブルックス・スティーブンスはインダストリアルデザイナーで、自動車だけに留まらない天才肌のデザイナーなんだ。我々が目にするミラービールのロゴも彼の作品だよ。メカニズムはミリタリースペックで、デザインは天才インダストリアルデザイナーが描いたモデルがワゴニアなんだ。しかもエンジンはコンチネンタル製なんて、現在では考えられないほどの頭脳が結集したモデルだからね。SUVというカテゴリーを作ったにふさわしい1台だと思うよ。

ジープカイザーワゴニア フロント
ジープカイザーワゴニア エンジン
ジープカイザーワゴニア シート
ジープカイザーワゴニア 運転席周り
ジープカイザーワゴニア リア
tefxt/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2011年2月号(2010年1月8日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています