▲その気になればドアの数も乗員数も増やすことができるのに、あえてそうはしない大柄でプレミアムな2ドアクーペ。そればまるで余裕ある土地に建っている贅沢な平屋造りの家のようだ ▲その気になればドアの数も乗員数も増やすことができるのに、あえてそうはしない大柄でプレミアムな2ドアクーペ。そればまるで余裕ある土地に建っている贅沢な平屋造りの家のようだ

推定1億5000万円の住宅でも「貧乏くさい」と思ってしまう理由

おぼろげながらだが東京から湘南戸建てへの移住を考えていることもあり、最近は散歩をするたびに周囲の家々を興味津々でガン見している。そうするうちに気づいたのが、ここ10年、15年ぐらいの間に建てられた比較的新しめの戸建て住宅には、ほとんどといっていいほど「庭がない」ということだった。皆、少しでも居住スペースを広く取るため、都市計画が許す建ぺい率ギリギリで設計している。

一例だが、筆者自宅近くのとある土地が売りに出た。我が家に投函されたチラシによれば、土地代はどうやら約1億円らしい。当然筆者にはそんな金などないので「なるほどそうですか」と思っただけだが、ある日そこで地鎮祭が執り行われ、しばらくするうちに工事が始まり、そして住宅が完成した。

筆者は注文住宅にまるで詳しくないので当てずっぽうだが、上モノもたぶん5000万円ぐらいはかけたのだろう。となると土地代と合わせて約1億5000万円の買い物であり、キャッシュかローンかは知らぬが、いずれにせよ「けっこうお金を持ってる人」が建立した住宅であることはほぼ間違いない。で、そんな「けっこうお金を持っている人」が建てた家には、果たして庭が付帯されていただろうか?

……やっぱりなかった。土地をめいっぱい活用し、オシャレで広い家が建てられただけだった。

見も知らぬ、しかも自分より(たぶん)数倍以上はお金持ちであろう人にこんなことを言うのもかなりアレだと承知しているが、それでもつい思ってしまう。「……なんか貧乏くせえなぁ」と。

▲「せっかく大金を投じて購入した土地は余すことなく使い切りたい」という気持ちは当然わかるが…… ▲「せっかく大金を投じて購入した土地は余すことなく使い切りたい」という気持ちは当然わかるが……

自分の資産状況を完全に棚に上げてモノを言うが、本当の贅沢とは、これまた散歩中によく見かける「結構な建築面積(建坪)を確保できそうな土地なのに、建築面積はあくまでほどほどにして、ある意味無駄な部分=庭をしっかり用意している家」のことを言うのだろう。そういった家は20年、30年以上前に建てられたと思しき古いものがほとんどだが、そういった家々を見るたびに「スペースをあえてフルには使わないとは、いやはやなんとも贅沢ですなぁ……」と感じるのだ。

自動車の世界でも「与えられたスペースは1立法センチたりとも無駄にしない」というのが近年のトレンドだが、それとは真逆の「あえてスペースをめいっぱいは使わない」という思想を持つクーペ、特に大柄な2ドアクーペを見ると「男前だなぁ……」と思う。

▲巨大だが、基本的にはパーソナル志向な車であるメルセデス・ベンツSクラスクーペ。……なんとも贅沢で男前な考え方に基いて作られている ▲巨大だが、基本的にはパーソナル志向な車であるメルセデス・ベンツSクラスクーペ。……なんとも贅沢で男前な考え方に基いて作られている

メルセデスのSクラスクーペなど大柄な2ドアクーペともなれば寸法的に、その気になればタントとかに乗ってる家族2家族分ぐらいを余裕で収容できるだろう。しかしあえてそうはせず、1人とか、せいぜい2人だけでそのスペースを使うように設計する。……なんとも贅沢な話である。そして、そういった「大柄な2ドアクーペ」というのはたいていの場合「スポーツカー」ではない。スポーティではあるが、サーキットで鬼のようなタイムを連発できる類の車では決してないのだ。

つまりそういった大柄クーペには「スペース」という価値がないだけでなく、「特別な速さ」という価値すらも実はないのだ。ま、実際はかなり速い場合が多いのだが、それはそのクーペがまず第一に求めた要素ではない。求めたのはひたすらの無駄というか、無駄という名前の甘美な余裕である。まるで広大な敷地に建てられたシブい平屋住宅のような……。

という具合にステキで贅沢きわまりない「大柄な2ドアクーペ」だが、ステキで贅沢なだけに、そのプライスもかなりのモノだ。前出の現行メルセデス・ベンツSのクラスクーペでいうと新車は1740万円~であり、中古車でも8月26日現在で1598万円~。……富裕層にとってはそれこそ余裕な買い物だろうが、「ちょっと金持ってます」程度の人間にとってはなかなか厳しい金額である。

年式的に古い中古車に目をやれば100万円台や200万円台とかでも十分探せるが、「大柄な2ドアクーペ」の場合、言ってはナンだがそういったプライスになった古めの中古車はヤンチャな改造が施されてしまったものも多く、人にもよるだろうが、大のオトナが乗るのはちょっと躊躇するような個体も多いのだ。

はて困った……となったときに燦然と輝くのが、現行BMW6シリーズである。

▲11年10月に日本デビューとなった3代目のBMW6シリーズ。エンジンは3L直6の直噴ツインスクロールターボと、4.4L直噴V8ツインパワーターボの2種類 ▲11年10月に日本デビューとなった3代目のBMW6シリーズ。エンジンは3L直6の直噴ツインスクロールターボと、4.4L直噴V8ツインパワーターボの2種類
▲全長4895mm×全幅1895mmという堂々たるサイズ。乗車定員はいちおう4名で、なおかつ後席にはゆったり座ることも可能だが、基本的には前席に座る1人か2人のためだけの車と考えるべきだろう ▲全長4895mm×全幅1895mmという堂々たるサイズ。乗車定員はいちおう4名で、なおかつ後席にはゆったり座ることも可能だが、基本的には前席に座る1人か2人のためだけの車と考えるべきだろう

全長約4.9m×全幅約1.9mという堂々たる寸法を持つこの流麗なクーペは、乗車定員的には4名だが、実際にはドライバー本人と、せいぜい横に乗る誰のためだけのものだ。カタチとしても精神としても大変美しい存在である。そしてまだ比較的新しいモデルであるため、ヤンチャな個体も少ない。しかしそれでいて走行数千kmからせいぜい1万km台の物件が「おおむね600万円台」という、決して安くはないが、決して天文学的でもないバジェットで狙うことができるのだ。

万人に推奨するわけではないが、真の贅沢を、しかしながらまずまず現実的な予算で実現させたいと考える自動車愛好家には、現行6シリーズこそうってつけかと思うのだが、どうだろうか。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「現行BMW6シリーズ」だ。

▲広大な空間を独り占め(または二人占め)するという贅沢を、ぜひ堪能してください ▲広大な空間を独り占め(または二人占め)するという贅沢を、ぜひ堪能してください
  • Search the selection!
  • Car:BMW 6シリーズ(現行型)
  • Conditions:修復歴なし&本体価格700万円以下
text/伊達軍曹