▲「フミア系アルファ」とは何か? ちなみに写真はアルファロメオ GTV後期型 ▲「フミア系アルファ」とは何か? ちなみに写真はアルファロメオ GTV後期型

スポーツカーのデザインはいつまで「強さ」を求めるのだろうか

ホンダのスーパーカーならぬ「スーパー軽カー」であるS660が各方面で激賞されている。筆者もS660については大変素晴らしいスポーツカーだと思っているわけだが、大反発を覚悟で言ってしまうと「あのデザインはいかがなものか……」とも思っている。

いや、全体のフォルムはかなりステキだ。絶妙すぎるカタマリ感と、複雑だが決してクドくない面構成。そこについては正直、いち車好きとしてかなりグッときている。素晴らしいと思う。だが細部のあしらい、具体的には「フロントマスクのデザイン」については結構な疑問を感じているのだ。

▲走り、デザインとも基本的には大絶賛の嵐となっているホンダ S660 ▲走り、デザインとも基本的には大絶賛の嵐となっているホンダ S660

人によって感じ方はそれぞれだろうが、筆者個人としてはS660のやや釣り上がった目を特徴とするフロントマスクは、ことさら自分を強そうに、偉そうに、上等に見せたいという20世紀的概念に基づく古くさい顔つきにしか見えない。21世紀の今の視点で見ると、決して洒落ているとは思えない。「もう少しシンプルビューティな方向を目指してくれたらなぁ……」と残念に思うのである。

ただ、スポーツカーというのは「力を求める心」との親和性が高いジャンルであるため、どうしてもああなるのはわかる。また、たまたまS660を例に挙げたが、他のスポーツカーだって似たようなものだ。いや言ってしまえば、これは最近の車ほぼすべてに当てはまる話なのだ。

国産車、輸入車を問わずここ数年の間に登場したモデルの大半は「釣り上がった怖い感じの目つき」をしていたり、「迫力あるかなり大きなグリル」を備えていたりする。トヨタの新型アルファードなどがその典型だろうか。とにかく強そうで、偉そうだ。

▲15年1月に登場した現行トヨタ アルファード ▲15年1月に登場した現行トヨタ アルファード

強いのも偉いのも結構だが、それをこれ見よがしに誇示するのは、決して洒落た行動および思想とはいえないのではないか……というのが筆者の意見である。もうちょっとさりげなくというか、「力はあっても誇示はしない。ただ、にじみ出るだけだ」というような方向で、各社のデザイン部門さんにおいては頑張っていただきたいわけである。バブル時代じゃないんだから。21世紀なんだから。

とはいえこれは場末で地味に生きる筆者ひとりの主観にすぎず、多くの人は「S660サイコー!」「こないだモデルチェンジした○○のデザイン、超格好いいよね!」と思っているのだろう。それはそれで結構だというか、むしろそちらが多数派であろうことは承知している。ただ、比較的少数ではあっても「そうだよね、最近の車のデザインって妙に偉そうでオラオラ系で、なんか好きになれないよね」という人もいることは、経験上知っている。

では筆者を含むそういった者らが今、スポーツカーまたはスポーティカーに乗る場合、どんな車を選ぶべきなのだろうか?

答えは100通り以上ありそうだが、さしあたって今思うのが「フミア系アルファロメオ」だ。

▲フ、フミア系アルファロメオ? 写真はアルファ GTV前期型 ▲フ、フミア系アルファロメオ? 写真はアルファ GTV前期型

フミアというのはもちろん歌手の藤井フミヤ氏のことではなく、イタリアのカーデザイナー「エンリコ・フミア」氏のことだ。そのフミア氏がピニンファリーナに在籍していた時代にデザインを担当したアルファロメオが、筆者が言うところの「フミア系アルファロメオ」である。具体的には96年から06年まで販売されたアルファロメオGTVと、そのオープン仕様である先代(916型)アルファスパイダーだ(※フミア氏はアルファ164のデザインも担当したが、今回はスポーツカー/スポーティカーがテーマであるゆえ、164は便宜上除外して考える)。

▲エンリコ・フミア氏の筆によるアルファGTV。写真のモデルは03年以降の後期型 ▲エンリコ・フミア氏の筆によるアルファGTV。写真のモデルは03年以降の後期型
▲同GTV後期型のリアビュー。サイドの大胆なアクセントラインとリアの絶妙な絶壁感がステキだ ▲同GTV後期型のリアビュー。サイドの大胆なアクセントラインとリアの絶妙な絶壁感がステキだ
▲こちらはそのオープンカー仕様であるスパイダー(型式名=916)。GTV同様、写真は後期型 ▲こちらはそのオープンカー仕様であるスパイダー(型式名=916)。GTV同様、写真は後期型
▲リアの絶妙すぎる絶壁感はGTVよりもスパイダーの方が伝わりやすいかも ▲リアの絶妙すぎる絶壁感はGTVよりもスパイダーの方が伝わりやすいかも

写真上がGTVおよび同時期のスパイダーなわけだが、どうだろうか? アルファロメオ愛好家に対しては今さら説明不要だろうが、周囲を威嚇しない顔つき(どちらかと言えばおとぼけフェイス?)でありながら、リアは一転して超絶セクシーな世界観。このバランスは絶妙過ぎるとしか言いようがない。そして昨今の直噴化されたエンジンと違い、当時のアルファロメオ車はGTV/スパイダーに限らずエンジンフィールもまた超絶セクシーであったことは、カーセンサーEDGE.net読者には説明するまでもないだろう。

数年前に実際GTVに乗っていた身として言わせていただくと、それなりに手間がかかる車ではある。V6のエンジンオイルは約3000kmに一度のペースで交換する必要があるし、ゴムホース類なども決して「強い」とは言えないため、自分で頻繁に目視点検するか、半年に一度ぐらいのペースで専門家に見てもらった方がベターではある。正直、最近の車と違ってちょっと面倒くさいは面倒くさいのだ。

だが、この手のアルファロメオというのは得意とする専門工場が世の中にたくさんあるので、ある程度の(決して大金ではない)お金と時間をかける気概さえあれば、その維持は決して難しくはない。

▲ちなみに内装デザインがかなりセクシーな点も、GTV/スパイダーの大きな魅力 ▲ちなみに内装デザインがかなりセクシーな点も、GTV/スパイダーの大きな魅力

それなりに面倒くさい車ではあるため万人にオススメするわけではないが、もしもあなたが世の中のS660激賞ムードに若干の違和感を感じているなら、ぜひ「フミア系アルファ」に乗ってみてほしい。これ見よがしではない何か、言ってみればそれこそが「イタリアの伊達の真髄」なのかもしれない味わいを、深く感じ取ることができるはずだから。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「アルファGTVと、同時期のスパイダー」だ。

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  • Car:アルファロメオ GTV&先代スパイダー
  • Conditions:修復歴なし
text/伊達軍曹