※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲シルバーシャドウに用意されたサルーンクーペとコンバーチブルモデルを改良し、1971年から発売されたのがこのコーニッシュである。写真のサルーンクーペは1981年、コンバーチブルは1995年まで製造され続けた。製造はマリナー/パークウォード、当時の価格は1万2900ポンド(日本円にして4000万円以上)。最高級のコノリーレザーを使ったシート、もはや芸術品とも呼べるウッドパネルや装飾パーツを多数採用し、購入する「特別な人々」を満足させる豪華な作りが最大の特徴である シルバーシャドウに用意されたサルーンクーペとコンバーチブルモデルを改良し、1971年から発売されたのがこのコーニッシュである。写真のサルーンクーペは1981年、コンバーチブルは1995年まで製造され続けた。製造はマリナー/パークウォード、当時の価格は1万2900ポンド(日本円にして4000万円以上)。最高級のコノリーレザーを使ったシート、もはや芸術品とも呼べるウッドパネルや装飾パーツを多数採用し、購入する「特別な人々」を満足させる豪華な作りが最大の特徴である

マックィーンも愛した 華麗なるサルーン

松本 巨匠、本日は特集がグランツーリスモということで、弩級のモデルをじっくりと拝見させていただくことになっております。
徳大寺 君の好みは僕とよく似てるし、我々が行くお店の大半は少数精鋭のモデルが並ぶお店ばかりだから、何となく想像はつくよ。それでなんだモノは。
松本 映画「華麗なる賭け」でお馴染みの1台ですよ。
徳大寺 あれか。あれはカッコイイな(笑)。なかでもフェラーリのNARTスパイダーは飛び切りだ。あのフェンダーに腰掛けてオペラグラス片手に、ポロをしているスティーブ・マックィーンの姿を見つめるフェイ・ダナウェイはいかしてたよな。とすると、もう1台出てくる方が今回のモデルだね。
松本 はい、ロールスの方ですね。
徳大寺 あのロールスの2ドアサルーンはカッコイイよ。2台ともマックィーンの個人的な車だからね。多少オーバーな演出でもOKが出ていたんだろうな。
松本 さすがですね。“コーニッシュ”と言わないところが巨匠の造詣の深さを感じます。あの映画は1968年の公開ですが、コーニッシュというモデルは正式には1971年からですから、それまでは注文に応じて作るカタチをとっていたんでしょうね。フルハンドメイドで1台あたりの作業期間が4ヵ月といわれたそうですよ。ですから映画に登場する2ドアサルーンはマックィーンが予めオーダーをした1台になるわけです。早い話が個人所有以外は考えられないモデルということですね。
徳大寺 そうなんだな。知る人ぞ知るエッセンスが詰め込まれているんだ。あの映画はとにかく趣味がイイ。たしか、僕が初めに知ったのもサルーンだったはずだよ。この優雅なコーチワークはロンドンのマリナー/パークウォードだからね。僕も4年間ほど所有していたよ。
松本 所有していたというのがすごいですよ。名だたるサルーンは巨匠に聞けば、当時の背景も含めて聞けるところが素晴らしいです。

世界の技術者集団が世に送り出した名車

徳大寺 今日見に行くのは何年式だい?
松本 コーニッシュという名前がついた初期のモデルですから1971年になります。2ドアサルーンも、今回のコーニッシュも、1965年に登場したシルバーシャドウのモノコックボディを2ドアにしたモデルなんです。ですからホイールベースは4ドアと同じ3mはあるわけです。
徳大寺 だけどシルバーシャドウはロングホイールベース版もあるんだよ。それと今回のコーニッシュもそうなんだけど、架装したマリナー/パークウォードの2ドアサルーンは、ルーフが若干シルバーシャドウよりも低くAピラーも寝かせてあるんじゃなかったかな。
松本 なるほど。当時絶頂を極めたマックィーンが購入したわけですが、彼のセンスの良さが光りますよね。ドロップヘッドクーペ(DHC)ではなくフィックスドヘッドクーぺ(FHC)をあえて選んでいるところが。表面的ではない本物を知るオトコという感じがします。
徳大寺 君の言うDHC、すなわちコンバーチブルもイイけど、FHCは本物のお金持ちの雰囲気をもっている。だってオープンが欲しいなら他のメーカーのDHCを購入すればいいわけだからね。実際マックィーンはオープンカーも複数所有していたしな。
松本 映画に登場したNARTスパイダーやバギーもその一部でしょうね。
徳大寺 おー、見覚えのある風景になってきたな。あの大きな白いテントの倉庫がお店じゃなかったか?
松本 よく覚えてますね。着きました、アリババの巣窟、ヴィンテージ湘南さんです(笑)。
徳大寺 おーここだな。サンゴロ(356)のプリAもあるな~。本当にここは興味深いモデルが多い。コーニッシュもいいな。4年も乗っていたからそう珍しくはないけど懐かしい。これはコーニッシュの古いタイプだろう。
松本 これはコーニッシュの最初期モデルです。コノリーレザーも最高級なんでしょうね。触っておかないと。
徳大寺 この当時のロールスは優雅で品格の高さが際立ってるな。しかもそれなりの心得を持った人が扱う車なんだ。ロールスの場合、前オーナーはとんでもないすごい人だったなんていう話はよくあるからね。君も早いところ購入したほうがイイぞ。

ROLLS-ROYCE CORNICHE SALOONCOUPE シート
ROLLS-ROYCE CORNICHE SALOONCOUPE ドアノブ
 ROLLS-ROYCE CORNICHE SALOONCOUPE エンジン
 ROLLS-ROYCE CORNICHE SALOONCOUPE 運転席周り
ROLLS-ROYCE CORNICHE SALOONCOUPE リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:5169×1829×1492(mm)
■車両重量:1020kg ■エンジン種類:V8 OHV ■総排気量:6700cc

【ヴィンテージ湘南】
■所在地:神奈川県横浜市瀬谷区南台1-3-2 横浜サウスプラザ三ツ境
■定休日:不定休
■営業時間:10:00~19:00
■tel:045-300-3750

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2014年9月号(2014年7月26日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています