※徳大寺有恒氏は2014年11月7日に他界されました。日本の自動車業界へ多大な貢献をされた氏の功績を記録し、その知見を後世に伝えるべく、この記事は、約5年にわたり氏に監修いただいた連載「VINTAGE EDGE」をWEB用に再構成し掲載したものです。

▲1972年に発売され、大ヒットとなったルノーの大衆車。フランス語で「5」はサンクと読むため、日本ではそちらで呼ばれることも多い。左右で異なるホイールベース、エンジン縦置き配置のFF車など、特徴的な構造を持っていたが、その性能は世界中から高い評価を得た。また前後に樹脂製バンパーを採用したのもこの5が世界初である。派生モデルにはアルピーヌがプロデュースした93馬力を誇る「アルピーヌ」、WRCでも活躍したミッドシップ後輪駆動の5ターボなどがある 1972年に発売され、大ヒットとなったルノーの大衆車。フランス語で「5」はサンクと読むため、日本ではそちらで呼ばれることも多い。左右で異なるホイールベース、エンジン縦置き配置のFF車など、特徴的な構造を持っていたが、その性能は世界中から高い評価を得た。また前後に樹脂製バンパーを採用したのもこの5が世界初である。派生モデルにはアルピーヌがプロデュースした93馬力を誇る「アルピーヌ」、WRCでも活躍したミッドシップ後輪駆動の5ターボなどがある

フランス車の良さを小さいボディに凝縮

徳大寺 しかしこう蒸し蒸しすると、我々が求める趣味の良い車は乗っているのがしんどいんだよ。今日はどんな車だい? 
松本 今回はフランスを代表する大衆車で、最近はめっきり見なくなったモデルです。
徳大寺 また、いつものクイズか。フランス車なんて、年代も分からないんじゃ分かるわけないだろう(笑)。
松本 今回はルノーです。70~80年代、このデザインはFFでは斬新だったと思いますね。今見ても古さを感じさせないですし、可愛いですよ。環八の上野毛周辺を走っていて見つけたんです。いつもの自動車屋さんで。
徳大寺 縦置きエンジンのFFだろう。フランス語で“サンク”、ルノー“5”だな。これしかないよ、この年代のルノーの大衆車で際立って可愛いのは。3ドア? 5ドアどっち?
松本 5ドアのほうなんですよ。3ドアのほうは1972年に発売されてあっという間にベストセラーになったモデルですね。エンジンやトランスミッションはルノー4(キャトル)からの流用が多かったのではないでしょうか。ホイールベースもキャトルとほぼ変わらないですし、サスペンション形式も同じですから。
徳大寺 ルノーっていうのはデザインはなかなか斬新なんだけど、メカニズムは保守的なんだ。最近のモデルを見てもよく分かると思う。成熟したモノを好んで使うブランドと言ったほうがいいかな。サンクは縦置きFFなんだけど、エンジンは後方のバルクヘッド側にきているんだよ。車軸は前方だからフロントミッドシップということだな
松本 現在では考えられませんが、ホイールベースが左右で違うんですよ。数㎜ではなく数十㎜単位で違いますからね。サンクやキャトルはリアサスペンションがトーションバーによるトレーリングアーム式で、トーションバーを左右互い違いに配置してバネを長くして動きを良くしているんです。
徳大寺 そうだったな。左右同時に見る人もいないしな。道理で乗り心地がイイと思ったよ。特にリアの動きがフランス車の代表的な動きだったな。お、シノダオートモービルさんか。ここはいつも素敵な車を置いているな。あのサンクか。おーこれは綺麗だね~。ベージュの内装もイイね。
松本 これ、奇跡的に綺麗ですね。再塗装はしてあると思いますが、内装が素敵です。やれた感じが全くないですね。これは女性に乗ってもらいたいなぁ。それだけで好きになっちゃいますね。

可愛らしいデザインしかし中身は異端な大衆車

徳大寺 確かに、男性よりも女性だな。ほーこれATじゃないか。しかもクーラーが付いている。最高だな。さっきは蒸し暑い日はしんどいって言ったけど、これならイイな。
松本 たいていこの手の大衆車は珍重されませんからね。ドアやフロアにサビで穴が開いていないだけでもめっけもんですよ。しかもしっかり走るわけですからね。
徳大寺 何年まで製造してたんだっけ?
松本 確か1972年から84、5年までだったと思いますよ。年上の友人が富ヶ谷にあるキャピタル自動車で最後のサンクを買おうかどうかで迷っていましたから。
徳大寺 当時はキャピタル自動車じゃなくて、キャピタルって言っていたかな。ルノーは70年代に入ってから扱ったんじゃないかな。話はこのサンクに戻るんだけど、今見ている5ドアは何年から生産されていたんだろう。
松本 5ドアは1979年からデリバリーのようですね。サンクの印象は3ドアですが、5ドアのサンクを目の前にするとこれも良いと思います。使い勝手からいうと5ドアですし。このドアの閉まり方、フランスしていますね。以前乗っていたプジョー204もこんな感じだったな。軽く閉めても“パシャンッ”と閉まる感じ。ドアの立て付けも文句ないです。
徳大寺 フランス車に作りの良さを問うのは野暮というものだよ。フランス車はこの緩さがイイんだよ。時には曖昧になりたい時があってもいいじゃないか。決して速くないし、今の車のように安全とは言えない。しかし最新のモデルに装着している安全装置を過信して運転するよりも、こんな車に乗ると時間がゆっくり流れるものなんだ。慌てないでも時間がかかっても何事もなく目的地へ到着すればいいんじゃないか。最近にはなくなった考え方かもしれないけどな。

RENAULT 5  サイド
RENAULT 5  シート
RENAULT 5  エンジン
RENAULT 5  運転席周り
RENAULT 5  リア

【SPECIFICATIONS】
■全長×全幅×全高:3540×1550×1410(mm)
■エンジン種類:水冷直列4気筒OHV ■総排気量:1397cc
■最高出力:58.5ps ■最大トルク:10.3kg-m

【シノダオートモービル】
■所在地:東京都世田谷区上野毛1-9-9
■定休日:月曜日
■営業時間:午前10時~午後7時(火曜~土曜)、 午前10時30分~午後7時(日曜・祭日)
■tel:03-5706-8511

text/松本英雄
photo/岡村昌宏


※カーセンサーEDGE 2014年8月号(2014年6月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています