▲1954年のトリノショーで発表され、量産車メーカーとして大成功を収めたジュリエッタシリーズ ▲1954年のトリノショーで発表され、量産車メーカーとして大成功を収めたジュリエッタシリーズ

この年代のアルファロメオは本当に価値があるんだよな

ジュリエッタという名前は「小さなジュリア(ジュリアの妹)」という意味で、「ロミオとジュリエット」にかけてつけられている。ボディはベルリネッタ、ベルリーナ、スパイダーの3タイプが用意され、1958年を境に、ティーポ750と呼ばれる前期モデルとティーポ110と呼ばれる後期モデルに分かれる。今回撮影した車両は1962年に追加された1.6Lモデル。内装なども限りなくオリジナルコンディションに近い個体となっている。

徳大寺 さて、今日は何を見に行くんだ? 最近はイタリア車が多いけど人気があって際立っているからなぁ。1950年代、60年代のイタ車は素晴らしい車が多いしな。
松本 イタ車は壊れるとか言いますけど、僕は今まで50年代60年代のイタリア車に乗ってきて、致命的な故障はありませんでしたけどね。
徳大寺 今回も君のチョイスだろ?
松本 はい。今回はまたアルファロメオなんですけど、少し珍しいモデルなんですよ。少し前にジュリエッタ スプリント スペチアーレを見に行きましたよね?
徳大寺 あれはフランコ・スカリオーネのデザインだな。あれが最後の花火だったんじゃないか。戦後のアルファロメオにおけるベルリネッタは彼が華を添えたんだ。一部のエンスージャストは“60年代のデザインはパッとしない”なんて言うけど、俺はそうは思わない。
松本 巨匠ならば必ずそう言ってくれると思いました。その人の代表作と言っても良いモデルですよ。エンジンが1300ccから1600ccにスープアップしたモデルです。
徳大寺 そりゃジュリエッタ スプリントしかないだろう。しかし1600ccに排気量アップしているモデルだとジュリア スプリントか。
松本 マニアからはセブン・フィフティ(750)という初期のスプリントがもてはやされているようですね。僕も昔はその一人で、20年近く前に血眼になって探しました。1957年のスプリントですが。デザインから内装の調度品に至るまで素晴らしいの一言です。しかしその後1959年に大きなマイナーチェンジを迎えボディ形式も750→101というように変わったのです。
徳大寺 君は本当に細かいところまで詳しいよな。たしかテールレンズとフロントグリルも違ったよな。特にフロントグリルは格子状のプレスの模様になってより一層、際立った顔つきになったんじゃないか。それと君に聞きたいんだけど、エンジンも確か変更があっただろう。
松本 はい、ボディパネルは1958年から変わっているんですが、これは対米輸出仕様にヘッドライトを大きくしなければならなかったんじゃないかと思います。他のイタリア車も同じようなことでレギュレーション変更を余儀なくされたのではないでしょうか。
徳大寺 アメリカは現在でも巨大なマーケットだからな。国産車を見たってアメリカに沿うように仕様変更しているもんな。
松本 その通りなんです。話をジュリエッタ スプリントに戻しますが、その時に10年後でも耐えられるエンジンに変更したわけですね。
徳大寺 しかし挟角ヘッドだけじゃなく、腰下(エンジンブロックなど)も違ってたろう。
松本 そうなんです。クランクシャフトは細く抵抗が少ないんですが、消耗しているエンジンが多かったようですね。それとサスペンション形式は基本的には同じですが、1959年から強化されているんです。大きな排気量を搭載しても十分耐えられる仕様に変更しています。
徳大寺 ジュリエッタもジュリアもそうなんだけど、スプリントもスパイダーも足回りはほとんど共通だろう。ゴムブッシュを使ってなかったんじゃなかったかな。
松本 これも凄いところなんですが、フロントウィッシュボーン、リアAアームとコントロールアームによるコイルリジットなんです。これは動きを良くするためと、アライメント変化を極力嫌ったためで、ゴムブッシュを少し使っているだけであとは金属ブッシュだったんです。
徳大寺 さすがグランプリカーを作っていたメーカーだな。やはり凄いよ。こういう歴史を知ると嬉しくなるじゃない。だろう?
松本 ほんとですね。そろそろですね。この地下のガレージにあるようですよ。
徳大寺 ほう、このデザインだな。またオリジナリティが高そうじゃないか。いいコンディションだ。逆にジュリアの1600ccのほうが乗りやすくていいだろう。しかもシングルキャブだろう。そりゃいいよ。扱いやすくて。この年代からエンジンがうんとタフになったしな。この基本的なエンジンブロックを使って1990年近くまで排気量アップを図りながら作り続けたんだ。こういうエンジンを作ったことが凄いんだ。まだグランプリカー直系の車なんだよ。この年代のアルファロメオは。本当に価値があるのはこういう車なんだよな。
 

▲GIULIA 1600 SPRINT フロント
▲GIULIA 1600 SPRINT リア
▲GIULIA 1600 SPRINT シート
▲GIULIA 1600 SPRINT エンジン
text/松本英雄
photo/岡村昌宏