▲当時としては画期的な200km/hオーバーという性能を前輪駆動方式で達成しようと開発がされたシトロエンのスポーティモデル ▲当時としては画期的な200km/hオーバーという性能を前輪駆動方式で達成しようと開発がされたシトロエンのスポーティモデル

ボクも所有していた最高に格好いいシトロエン

発表されたのは1970年、ボディの構造はDSをベースにした2ドアボディとされた。DSで見せたシトロエンらしい個性的なデザインを採用しているが、当時提携していたマセラティ製の2.7Lエンジンを搭載しているというのも特徴的である。当然サスペンションはハイドロ・ニュー・マティック、ブレーキシステムも油圧だが、これはDSから引き継がれていた。製造は1975年まで。

徳大寺 今回はポルシェ特集だけどヴィンテージエッジで取り上げるのは“シトロエンSM”なんだろう。君は何か繋がりがあると思うかい。
松本 うーん、こじつければ、一番の共通点はシトロエンの戦後からSMまでのモデルも、ポルシェ初のモデルも、両者とも天才エンジニアが大きく関わったことでしょうか。
徳大寺 それは言えるだろうね。自分はシトロエンのGSを当時(1970年代前半)買ったんだけど、これは空冷の水平対向4気筒。これはポルシェがこだわったレイアウトに類似しているな。
松本 2人の天才とはポルシェは言わずと知れたDr.フェルディナント・ポルシェ。しかしシトロエンはあまり知られてないんですよね。
徳大寺 そうだな。シトロエン好きには是非知っておいてもらいたい。その天才は“アンドレ・ルフェーブル”というエンジニアなんだけど、ポルシェ以上に天才肌だったんじゃないかなぁ。彼はグランプリレーサーとしてもトップクラスだったんだから。しかも自分自身が設計したグランプリカーで極めたんだからね。
松本 そのルフェーブルが最後に手を加えたモデルがGSと言われてますね。巨匠がGSを購入してからの苦労話はそりゃ良く聞きましたよ。次々といろんな部分が壊れて修理の費用が嵩んで大変だったんですよね。当時は日本の道路事情には合わなかったのかもしれませんね。
徳大寺 とにかくシトロエンというメーカーは戦後から復活を遂げて1960年代初頭にフランスで1位のメーカーになるんだ。それもこれもルフェーブルの力が大きかっただろう。僕はルフェーブルの傑作の一つであるDSを所有する事はできなかったけれど、FFでありながら最高にカッコイイシトロエンを所有していたんだ。それが今日見に行くシトロエンSMだよ。
松本 SMはフロントドライブの最初で最後のエキゾチックカーというモデルですよね。僕も今でも欲しいと思う一台です。1970年から75年までの5年間でおよそ1万3000台弱生産されました。SMとは“SportMaserati”の略で、1968年にイタリア・マセラティ社を買収してエキゾチックカーに相応しいパワーユニットを取得したわけです。
徳大寺 もう一つ言えば、これはマゼラティのユニットをSM仕様に設計変更したんだ。有名なV型8気筒 4.2Lの2気筒を切り離しV型6気筒にした。それでもフランスの課税基準である15CVに収まらないため、さらにボアストロークをダウンサイジングして2.7Lのユニットを造り出したんだ。
松本 なるほど。SMはスタイリングが独特ですが、色もイイ色があるんですよね。今日の車両、色も素晴らしいですよ。
徳大寺 そうだな。こういうデザインに長けた車は個性的な色が良く似合うよ。
松本 巨匠が乗ってたSMはどのような仕様だったんですか?
徳大寺 当時のディーラーだった西武自動車が輸入したモデルだったんだが、日本に輸入された時はアメリカモデルでライトがカッコ悪かったんだよ。それを西武自動車自ら本国仕様にしましょう、と丸目四灯から角形6つの仕様にしたんだ。これで完璧だった。色は明るいセージグリーンで内装がカフェオレ色で、とにかくカッコイイんだ。だけど残念なことにメカニックがリアをぶつけてしまって僕は手放したんだ。そのメカニックは泣いてたよ(笑)
松本 そういえば、SMが企画、設計されたのは1960年代後半ですが、ルフェーブルの意思がハッキリと現れているんですよね。すでにシトロエン社の主任設計者から退いて10年は経過していたにもかかわらず。
徳大寺 だろうな。
松本 特に空力の面、一番分かりやすいのがフロントの空気を受ける部分の角度です。ルフェーブルという人はフロアの空気の流れを考えて造るという、量産車初のことをDSで成し遂げたエンジニアです。ボンネットを伝わった上部とアンダーパネルを伝わってリアに流れる下部はルフェーブルイズムがはっきり現れているそうです。
徳大寺 それはもっともな話だな。ルフェーブルは元々ヴォワザンという航空機会社で設計とデザインを任されていた人物だ。空力を考えずに自動車を造らないわけがない。ルフェーブルも確かに天才だけど、その手腕を発揮させた当時の社長“ピエール・ブーランジェ”も素晴らしい。学歴主義だけでは個性豊かなモノを造り出すことはできないのに、自動車メーカーはそういう意味では逆行しているからね。特に日本のメーカーは天才を育てる土壌ができていないんだ。温故知新、SMから見習って欲しい部分もあるんだよな。

▲シトロエン SM ボディ
▲シトロエン SM リア
▲シトロエン SM エンジン
▲シトロエン SM インパネ
text/松本英雄
photo/岡村昌宏