ひとつの部屋であり動線の基準でもあるビルトインガレージ【edgeHOUSE】
カテゴリー: カーライフ
タグ: EDGEが効いている / ガレージハウス
2018/06/29
行き止まりのないガレージハウス|滝下秀之(滝下秀之建築アトリエ)
今回訪れたのは静岡県静岡市。背後には富士山をはじめとする山々、正面には駿河湾と、自然のエネルギーが強く感じられる温暖な土地だ。そのなかでも高級住宅街の一画に目指すK邸はあった。
向かって左手にインナーガレージのシャッターがあり、ほぼ中央に玄関、右手は高い塀がそびえている。それらは大きくセットバックしているから、K邸の正面には3台が縦列駐車可能だ。見上げると窓は少なく、塀の中の様子もうかがえないことから、外に対しては閉じた作りであることがわかる。
シャッターを開けてもらいガレージ内を拝見する。向かって左手にはKさん用のジープ グランドチェロキー、右手には奥さま用のポルシェ マカンというラインナップ。SUVが2台と多少違和感があったが、Kさんご自身は所有車のカテゴリーはそれほど気にしないのがスタンス。
車に対してのこだわりは強くないそうで、これまでフォルクスワーゲンに始まりアウディ、BMW、メルセデス、ポルシェといった王道をはじめプジョー、ボルボ、サーブに至るまでメジャーな輸入車を所有してきたが、どのモデルも「走りというよりは雰囲気を楽しんでいました」とのこと。
今回のグランドチェロキーは「初めてのアメリカ車」ということだが「大きくて、とても楽」と、お気に入りの様子。マカンは、「どこへ行くにも車で」と活動的な奥さまが、まもなく3歳になるお嬢さまを乗せて動き回るには最適のパッケージとパフォーマンスを持っていることが選択理由のようで、アウディQ3から乗り替えた。
実際、名古屋から東京間程度の距離ならば、ちゅうちょなく車で移動するというから、まさにアウディやポルシェがお似合いだ。
設計を担当したのは、建築家の滝下秀之さん。お二人の出会いは、Kさんが滝下さんのホームページを見たことがキッカケだという。
「自邸を新築するにあたり、住宅展示場を見て回りました。ビルトインガレージが欲しいと考えていましたが、ハウスメーカーはほとんど外ガレージでした。そんなとき、建築家にお願いするのもいいかな……と、たまたま滝下さんのホームページを見て、コンテンツの作り方にもコダワリが感じられ堅実な作り方をしているな、と思いました」と、Kさん。
設計にあたりKさんが滝下さんに出した希望は
①ビルトインガレージにしたい
②リビングルーム、ダイニングルーム、キッチンを分けたい
③全館空調にしたい
ということが代表的なもの。そんなKさんの希望に、滝下さんはどのように応えたのか。
「Kさんからはメールで連絡をもらい、ちょうどお互いのスケジュールが合い、その日に会うことになりました」。人と人との出会いにはタイミングが大事だが、お二人は初対面の段階で意気投合していたようだ。
4つの吹き抜けが明るい光と爽やかな風をもたらす
「外観については白もしくはグレーで、かつ落ち着いた雰囲気に……という希望でした。また、開口部が外部から見えるのもNGということで、中庭を3つ作ってそこを吹き抜けとし、光と風を取り入れるようにしました」と、滝下さん。
さっそく、ガレージ背後の中庭から邸内に足を踏み入れてみる。3つある中庭のうちここが最も広い空間で、見上げると2階テラスと屋上を経て広い青空が広がっている。
取材日は残暑の厳しい日であったが、中庭に入った瞬間、ひんやりとした風がスーッと通るのがわかった。
「床面積が広く、北側にも部屋があるので、光と風をうまく取り入れることに注力しました。外から見ると閉じている印象ですが、中に入ると明るく開放的で、風がよく通ります」
そのまま外階段を通って2階へ。そこは回廊のようになったテラスで、そこに沿って居室が並んでいる。
空はさらに広く感じられ、開放感が増幅する。この広い空間から取り入れた光と風が、各フロアの各部屋へ注がれているというわけだ。1階も2階も、すべての部屋は中庭を中心に繋がっているから、つまり行き止まりのないレイアウトとなっていることもK邸の特徴だ。
中庭に戻り、あらためてガレージを振り返ると、K邸の動線は中央の中庭とガレージを基準に設けられているように感じた。
「とてもオシャレなご夫婦に見合うように、広いシューズクロークなどを備えたひとつの部屋として考えました」というガレージには、4つの動線が引かれている。
正面のシャッター、玄関ホールと繋がるルート、シューズクロークを通って廊下に続くルート、そしてガレージ背後の中庭へアクセスが可能だ。Kさんも奥さまも、基本的に車で外出するので、必然的に「正面の玄関は来客時ぐらいしか使いません」となり、ガレージから邸内にアクセスしているという。
まさに、滝下さんのアイデアどおり、単なる車置き場ではなく住む人の大切な空間のひとつとなっている。
これまで、多くのガレージハウスを手掛けてきたという滝下さんに、その考え方を伺ってみた。
「 ガレージは『部屋の延長』であることが大切です。K邸の場合は、ガレージも中庭も居室と同じように使ってもらいたいですね。そのためにも、趣味やライフスタイルをしっかりとヒアリングしました」
取材時、K夫妻と滝下さんのやり取りを拝見していて、強い信頼関係で結ばれていることがうかがえた。それを可能にしたのは、出会いから時間をかけてヒアリングを続けてきた滝下さんの建築に対する姿勢にほかならない。
【施主の希望:多岐にわたる希望を叶えるのも建築家ならでは】
■本文で触れた希望以外にも、奥さまが海外にお住まいだった頃のファミリーキッチンやゲストダイニングなどを再現したい。シューズクロークをはじめ、とにかく収納スペースを豊富に設けたい。来客が多いので、ゲスト用のパーキングスペースを設けたい。裸で家のなかを歩き回れるように(笑)、外界からの視線を遮断する高い塀が欲しい……など。これらの希望をすべて叶えてくれ、「やはり、このあたりは建築家に依頼すると違うな……」とKさん。
【建築家のこだわり:住宅メーカーにできないキメ細かい配慮を意識】
■「大手の住宅メーカーにはできないことはなんだろう? それを常に考えています。例えば一般的な住宅メーカーだと、バルコニーや物干しが外から丸見えのものが多いですよね。その点も、K邸の場合は近隣の住宅の窓をすべて調査して、外から見えないように計算しています。また、敷地の利を最大限に生かすことも心がけています。この周辺は高級住宅街でありながらまだ田んぼが残っていますが、それを景観に取り入れる工夫をしたり、邸内の各所から富士山が見えるように工夫したり……」
■主要用途:専用住宅
■構造:木造2階建
■敷地面積:378.61平米
■建築面積:184.59平米
■延床面積:279.14平米
■設計・監理:有限会社 滝下秀之建築アトリエ
■TEL:054-209-2088
【関連URL】
※カーセンサーEDGE 2017年11月号(2017年9月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています
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