▲ガレージ後方には趣味用のロフトスペースを設ける。様々なフラッグは、これまでに所有したブランドの思い出として掲げているという ▲ガレージ後方には趣味用のロフトスペースを設ける。様々なフラッグは、これまでに所有したブランドの思い出として掲げているという

郷愁を感じさせる南欧風ガレージ|新井 透(グリーンアンドハウス)

今回ご紹介するガレージハウスは、過去に本誌でもご紹介したことのある建築家・新井 透さんの自邸だ。グリーンアンドハウスというハウスビルダーを率いる新井さんは、独特のモルタル造形とエイジング技術が持ち味で、日本離れしたデザインと空間作りに定評がある。そんな新井さんの自邸を拝見できるというから、興味は尽きない。

場所は埼玉県秩父市。関越自動車道の花園インターチェンジから30分程度の距離に位置している。周辺は初秋でありながら、いまだ緑豊かな山々に囲まれ、渓谷や温泉地なども点在する自然環境に恵まれたエリア。風光明媚なワインディングロードが多いことから、オートバイツーリングのメッカともなっている。

目指すガレージハウスは、ひと目で新井さんが手掛けたとわかる。映画や雑誌から抜け出してきたような南欧風の佇まい、そのノスタルジックな雰囲気を放つデザインこそが新井さんの作品の特徴である。

140坪という広い敷地には同様のデザインが施された建物が2棟建っている。1棟は自邸、もう1棟は新井さんのお嬢さま夫妻が暮らしているということだが、ここだけ周囲の住宅とは空気感がまったく異なっている。

自邸の竣工は2002年というからすでに15年が経過しているのだが、とても美しい状態を保っている。日頃からの入念なメンテナンスのたまものか……と思ったところ、これまでオーバースライドのガレージドアを変更した程度で、外観にはとくに手を掛けていないとのこと。

この自邸、竣工してから2年半ほどはモデルハウスとしても使用していたという。当初ビルトインガレージにはBMW 3シリーズ(E46)を収めて内覧会を開催したが、訪れた人のほとんどがガレージには興味を示さなかったらしい。

ガレージにGT3を入れてから注目が集まり始めた

当時は、新井さん自身もガレージハウスに対してそれほど積極的ではなかったのだが、ガレージにポルシェ 911GT3(タイプ996)を入れるようになってから様子が一変したという。とくにガレージハウスに興味のない来場客も、GT3の入ったガレージを見て関心を持ち始めたというから面白い。

「やはり、絵になる車が入っていると、いろいろと想像が膨らむんでしょうね。それから、家を建てるならカッコいいガレージが欲しい……という意見をよく聞くようになりました」と、必然的に新井さんも、ガレージハウスを積極的に提案するようになっていったようだ。

自邸の特徴については「やはり外観がいちばんの特徴だと思います。とくに外壁のビンテージ感は、モルタル造形という技法を用いて演出しています。この造形は、すべて職人の手作業によって仕上げているので、ふたつとして同じものはありません」

この技法はテーマパークの施設や建物にも用いられている建築技術で、モルタルを盛ったり削ったりしながら形にしていくもの。そのため仕上がりの良しあしは施工する職人のデザインセンスや技術によって大きく左右されてしまうという。

新井さんがモルタル造形に着目したのは、家族でテーマパークを訪れたときのこと。精巧に作り上げられたノスタルジックな街並みを見て「自分の手で作ってみたい」と思ったことがきっかけという。

当時、この技法を一般住宅に用いることはほとんどなかったため、新井さんは独学で試行錯誤を繰り返し、現在の技術を確立して住宅に応用した。その後、手掛けた作品が様々なメディアで取り上げられるようになってから注目を集め、現在では新築の依頼案件は2年半待ちという人気ぶりだ。

玄関から邸内に入ると、まさにテーマパークの中に迷い込んだような錯覚に陥る。まるで本物の石が積み上げられた中世の建物のような空間だ。1階、2階には同様のデザインが施されるとともに、ゲストルームは本棚自体を押すと現れるカラクリ部屋のような作りとするなど遊び心も備えている。

ガレージにはメルセデス・ベンツ SL350が収まっている。もともと車好きである新井さんは、日産 510ブルーバードに始まり数多くのスポーティモデルを所有。近年ではポルシェ 911GT3、フェラーリ F355、ランボルギーニ ガヤルド スパイダーなどを、すべて少しエッセンスを加え、カスタマイズして乗り継いできた。新井さんに、ガレージハウスに対する考え方を伺ってみた。

「まずは施主の考えが第一優先です。車を見せたいのか、メンテナンス中心なのかなど、ガレージに対するイメージを具体化することが先決です。また、家族との間で意見が分かれた場合など、妥協点をどこに見いだすかも重要なポイントです。そのような場合は、モデルハウスや既存のオーナー宅を見てもらって、より具体的にイメージをしてもらいます」

最近では、車好きのお客さまに対して、ツール類の設置レイアウトや装飾関連の展示方法など、具体的なガレージの使い方を提案しているという。

「限られた空間の中で、建築家としていかに実用性とデザインを両立していくか……」というテーマに挑み続ける新井さん。次はどのような手法・技法で驚きを提供してくれるか楽しみである。

▲まるで南欧の古い街角か、映画のセットのような風景に時代と時間を錯覚する。1軒は建築家・新井氏の自邸で、もう1軒はお嬢さま夫妻が暮らす▲まるで南欧の古い街角か、映画のセットのような風景に時代と時間を錯覚する。1軒は建築家・新井氏の自邸で、もう1軒はお嬢さま夫妻が暮らす
▲一見、観音開き仕様に見えるガレージドアだが、じつはオーバースライダー式▲一見、観音開き仕様に見えるガレージドアだが、じつはオーバースライダー式
▲ガレージ内のロフトから愛車を見下ろす。ガレージ内は断熱効果が高く、エアコンがなくても四季を通じて過ごしやすい▲ガレージ内のロフトから愛車を見下ろす。ガレージ内は断熱効果が高く、エアコンがなくても四季を通じて過ごしやすい
▲物置小屋も住宅と同じテイストでデザインされ、見る人に「中になにが入っているんだろう?」と思わせるという趣向▲物置小屋も住宅と同じテイストでデザインされ、見る人に「中になにが入っているんだろう?」と思わせるという趣向
▲玄関正面の部屋は、以前はオフィスとして使用していたが、現在ではジムとして活用している▲玄関正面の部屋は、以前はオフィスとして使用していたが、現在ではジムとして活用している
▲ガレージ内のロフトは「くつろぐスペース」として活用。もちろんお約束のプレステも用意されている。愛車の気配を感じながら過ごす時間は格別だ▲ガレージ内のロフトは「くつろぐスペース」として活用。もちろんお約束のプレステも用意されている。愛車の気配を感じながら過ごす時間は格別だ
▲2階の廊下にある本棚は、じつはカラクリ扉。もともとゲスト用に作った和室だが、おもに新井さんの読書部屋として活用されている▲2階の廊下にある本棚は、じつはカラクリ扉。もともとゲスト用に作った和室だが、おもに新井さんの読書部屋として活用されている
▲各所に設置された扉は、その先への期待感が高まるデザイン▲各所に設置された扉は、その先への期待感が高まるデザイン
▲まるで石作りの中世の屋敷に迷い込んだかのような空間。ディテールの質感も高い▲まるで石作りの中世の屋敷に迷い込んだかのような空間。ディテールの質感も高い
▲室内からガレージへのアクセスは、玄関からは直接繋いでおらず、通用口のような形でアクセスするようにしている▲室内からガレージへのアクセスは、玄関からは直接繋いでおらず、通用口のような形でアクセスするようにしている

■主要用途:専用住宅
■構造:木造
■敷地面積:463.96平米
■建築面積:85.77平米
■延床面積:192.93平米
■設計・監理:グリーンアンドハウス
■TEL:0494-23-3849

text/菊谷聡
photo/大西靖

※カーセンサーEDGE 2017年12月号(2017年10月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています