愛車を眺めるために何よりもガレージを最優先

ザガートをこよなく愛し「車の隣で寝てもいい」とまで言い切る施主そんな想いを形にしたガレージハウスは、家そのものが愛車のための空間となっている

いつまでも続けていたいと思うほど楽しかった家作り

敷地は決して広くはない。それにもかかわらず、Sさんの希望は前述のとおり「屋内に2台…」というもの。したがって1階の扉を開け放つと、フロアスペースのほとんどを2台の愛車が占めている。格納されている車はオーテック・ザガート・ステルビオとアルファ155TIザガート。この2台を見るまでもなく、屋外の駐車スペースに置かれているアルファロメオ・ジュリアを見れば、Sさんがどれほどのカーフリークであるかは容易に想像できる。

正面右手にはSさんのコレクションであるミニカーが並べられるショーケースや、愛車のメンテナンス用パーツを収めたボックス類が積まれている。空きスペースにテーブル&チェアを置けば、友人たちとの愛車談義で盛り上がることもできるという空間だ。左手にはバスルームとパウダールームが設置されているのだが、バスタブに浸かりながら愛車たちを眺められるという設計。

「1階に風呂を設置して、さらに車たちを眺められるようにしたのは松永さんの提案だったのです」と、Sさん。加えて、友人たちと語り合うスペースも松永さんの提案だという。さすがは車好きの気持ちを知り尽くした松永さん。どんなガレージにすれば施主が満足するか、自身がオーナーになった視点で設計をしていることが窺える。

2階は、高い天井により明るく開放的であることが特徴。広いワンルームでありながら、リビング&ダイニングとベッドルームをパーテーションで効率的に仕切っている。「1500万円以上のローコストで…」とSさんが依頼したとおり、無駄な扉や収納は一切ない。その代わりに部屋の両端にはロフトが設けられていて、隠れ家的な雰囲気とともに、来客用の寝室としても使えるなど様々な使い勝手を実現している。これも、高い天井による恩恵だ。

そして、Sさんのリクエストのひとつであるキッチンスペースは、リビングルームのど真ん中に設置。自然光タップリの明るいリビングルームは、白を基調としたカラーと相まって、洒落たカフェの雰囲気を醸し出す。ここでSさんは、友人を招いて料理の腕をふるうという趣向だ。しかし、「友人たちが遊びにきても、2階に上がらずにガレージで過ごすことのほうが多いんですよね」と少し残念そう。

いずれにせよこの家は、すべての空間がSさんの満足を充たしている。これは、Sさんと松永さんとの信頼関係がなせる技にほかならないのだが、取材の最後に聞いたSさんの言葉が、とても印象的だった。

「家が完成したときには、その喜びよりも、これで松永さんとの家作りが終わってしまうという寂しさのほうが強かったのです。それぐらい松永さんとの家作りは楽しかった」

建築家冥利に尽きるとはこのことである。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi

前編を見る

ガレージの横にあるバスルームの扉を開け放てば、外と内の車を眺めながら入浴できる

キッチンは施主のために松永さんがデザインしたオリジナルのものを採用している

LDK両サイドに配置されたロフトには愛車にまつわるグッズが飾られている

ガレージの奥に配置された階段に木材を使って、クールななかに暖かみのある空間としている

The Garage HOUSE
建築家:松永基
M'S WORKS architecture

tel.045-680-5339
http://www.msw-arch.com/

所在地:神奈川県横浜市 主要用途:専用住宅
家族構成:一人 構造:木造 規模:2階建
敷地面積:86.3㎡ 延床面積:99.0㎡
設計・監理:M'S WORKS architecture/松永 基