巧みな空間演出で外と内を融合させたガレージが出現

ガレージというと密閉された空間を思い浮かべがちだが、必ずしもそうとは限らない建築家の石川淳氏が手掛けたガレージはそんな既成概念を壊すボーダーレスなものに仕上がっている。

ビルトインと見紛う独創的なガレージ

施主であるN夫妻との出会いは、石川さんのホームページに掲載されている作品がN夫妻の目に留まったことがキッカケ。作品に共通するテイストが気に入り、すぐに連絡をとったそうだ。設計にあたりN夫妻の希望は、①個性があって他の家とは違う綺麗なモノにしたい②ガレージから邸内に出入りできるドアが欲しい③ガレージはクルマのドアが十分に開閉できるスペースを確保したい④夫婦の寝室を独立させたい⑤地下室を作りたい、というもの。

じつは、設計を依頼した段階でN夫妻宅には2頭の犬がいた。大変な愛犬家であるN夫妻は、犬たちが暮らしやすいことも新居の条件であった。ボルボV70というステーションワゴンを選んだことも、ガレージスペースを十分以上に確保したことも、ガレージ後方にウッドバルコニーを設けたことも、数え上げればキリがないが、すべて愛犬のため。小さな造作としては、ガレージ内に足洗い場を設けたり、邸内のいくつかのドアには犬がひとりで出入りできる細工が施されていたり。しかし残念ながら今では2頭とも亡くなってしまい、邸内の至るところに思い出の写真やアイテムが飾られている。

引き戸を開け玄関に入ると、正面に愛犬の絵が2枚掲げられ、訪れた人を愛くるしい表情で見つめてくれる。周囲を見渡すと、どこか「和」を感じさせる雰囲気だ。

「そのように感じられたのは、邸内の扉や階段などを黒ではなく濃いグレーにしているからでしょう」

と、石川さん。三和土(たたき)には「墨モルタル」が用いられ、文字どおり墨汁や硯のような色合いを放つ。これが白い壁と相まって和風のコントラストを描き出しているようだ。

玄関のすぐ横には、前述したガレージに直結する扉を設置。また、廊下突き当たりを左折したところには、ガレージ後方のウッドバルコニーへアクセスする扉が設けられている。ガレージへのアクセスは3方向確保されているが、完全なビルトインガレージではない?

「本当はビルトインがよかったのですが、建ぺい率の問題があり、ビルトインに見えるデザインとファサードに注力してデザインしました」

邸内からのアクセスも、バルコニーから見える風景もビルトインガレージといって差し支えないものだが、ガレージの天井は2階バルコニーのフロアになっており室内ではないことがわかる。しかし、隣家との境もバルコニーと同じ素材の塀とすることで、あたかもひとつの部屋であるかのような空間を作り出している。愛犬の乗り降りや、帰宅後に足洗いをすることなどを考慮すると、このようなガレージはライフスタイルにマッチしていて好ましいと感じた。

日が暮れはじめ、N邸に灯が点ると例の窓辺に置かれたクリスマスツリーも点滅を始める。来年のクリスマスには、新しい愛犬がツリーの下から外界を眺めているかもしれない。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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踊り場をスケルトンにすることで、視覚的な開放感と明るさを感心させてくれる

傾斜地であることも考慮して、玄関には短い階段が設けられている

階段と居住空間の間に温もりのある木製ルーバーを使い、カフェのような雰囲気としている

OUCHI-13
建築家:石川 淳

tel.03-3950-0351 http://www.jun-ar.info

所在地:東京都 主要用途:専用住宅
家族構成:夫婦、母 構造:木造在来工法
規模:地下1階地上2階建
敷地面積:87.61㎡ 延床面積:149.13㎡
設計・監理:石川淳建築設計事務所/石川淳