BA.house R32GT-R

まるで主人のように家の中心に佇むガラスに覆われたGT-R

すべての部屋から愛車を眺めることができる家。これまでもそういった住宅は見てきたがここまで大胆なケースは希。ここでの主役は人ではなく、あくまでもクルマだ。

建築家自らが思い描いたプランニングを実現

設計は、アトリエA5建築設計事務所の清水さんと松崎さんが担当。もともと、Bさんの兄弟が自宅を新築した際の建築家で、その縁があってBA邸も手掛けることになったそうだ。お二人はともにクルマやバイクが大好きで、今回の設計にあたり、「自分もこんなガレージが欲しい」と思い描きながら進行したという。クルマ好き同士の感性が一致し、愛車を家のど真ん中に…という大胆な発想が採用されたというわけだ。

ガレージスペースに向かって左側はリビングルームで、右側はダイニングルーム。仕切りは全面ガラス張りなので、どちらの部屋からも愛車の全容が眺められる。

「私は酒好きなので、キッチンカウンターに座り、呑みながらクルマを眺めるのが至福の時間です」

そうBさんにいわれキッチンを拝見すると、さまざまな酒のボトルが並んでいる。高めのスツールに腰掛ければ、やや俯瞰気味に見える愛車を肴に一杯やれるという趣向だ。新居に移って、まだ2カ月にも満たないので家具も最小限。それが、いっそう生活感のないクールな空間を作り出し、高性能なプロダクトであるGT-Rのキャラクターとマッチしている。

この住宅は小高い丘の上に建っているため、ガレージ裏は数十mのガケ。その先は数百m先まで農地が広がっており、遠景にマンション郡が望める。その広大な景色がガレージ後方に展開しており、ただでさえ開放的な空間にいっそうの広がりを与えている。

2階へのアクセスは、ダイニングルーム奥の階段から。上がってすぐ左手はお母様の居室。Bさんの居室へはガレージ上の廊下を通過するが、この際に愛車をほぼ真上から見下ろすことができる。自分の愛車をこの角度から見る機会などなかなかないが、きっと見下ろすたびに日常の使用では気付かない新たな発見があるに違いない。

改めてこの住宅を外から観察してみる。4方向に設けられた窓から内部を覗くと、いろいろな角度からGT-Rの姿を確認できる。また、幾重にも重なるガラス面の効果により、まるでGT-Rがクリスタルのショーケースに入れられているように見える。日中はガレージ真上に設けられたトップライトにより自然光が注ぎ込むから、磨き上げられたボディが、時間帯や光の種類によってさまざまに表情を変える。そんな様子を、家中のどこからでも見られることがポイントだ。

Bさんの宝物をショーケースに入れ、それを自宅の中心に置いた。そんなイメージで作られたB邸は、ガレージハウスと呼ぶにはあまりにもクルマの存在感が強い。クルマ専用の家に人間が同居している…と表現しても大げさではない。希少な極上R32GT-Rを、こんな空間に保管したいというBさんの気持ちはよく理解できる。

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

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住み始めたばかりということで家具が少ないため、リビングからはクールな印象を受ける。現在、この部屋の雰囲気にマッチするTVボードを物色中だとか

リビングと反対側に位置するダイニングキッチン。料理中も食事中もつねに愛車が視界に収まる。また、同時に住宅裏側に広がった眺望も楽しむことができる

BA.house
建築家・清水貞博、松崎正寿、清水裕子

atelier A5 tel.03-3419-3830
http://www.a-a5.com/

所在地:千葉県船橋市 主要用途:専用住宅
家族構成:親子2人 構造:木造 規模:2階建
敷地面積:180.09㎡ 延床面積:110.13㎡
設計・監理:atelier A5/清水貞博、松崎正寿、清水裕子