キャデラック XLR-V

■これから価値が上がるネオクラシックカーの魅力に迫るカーセンサーEDGEの企画【名車への道】
これからクラシックカーになるであろう車たちの登場背景、歴史的価値、製法や素材の素晴らしさを自動車テクノロジーライター・松本英雄さんと探っていく!

松本英雄(まつもとひでお)

自動車テクノロジーライター

松本英雄

自動車テクノロジーライター。かつて自動車メーカー系のワークスチームで、競技車両の開発・製作に携わっていたことから技術分野に造詣が深く、現在も多くの新型車に試乗する。『クルマは50万円以下で買いなさい』など著書も多数。趣味は乗馬。

バブル感満載。古さを感じないラグジュアリーなスポーツ2シーター

——さて、今回ですが取材予定リストの中で、僕が一番見たかった車の上物が見つかったんですよ。きっと気に入ると思います!

松本 ずいぶん前にリスト作って、あまりに流通しないモデルばっかりだからずっと紹介できないでいる車、結構あるしね。で、何にしたの?

——松本さんも絶賛してたキャデラックのXLRです!

松本 おぉー、いいじゃない。ブルガリエディションだといいなぁ。中古車で見たほとんどがブルガリエディションだからおそらくそうだね。

——最初に見た時、キャデラックっていう感じが全面に出ててすごくカッコイイと思ったんですよ。僕は機会がなくて結局乗れなかったんですけど、松本さんは試乗してますよね?

松本 当たり前でしょ。XLRの生産は2004年から2009年までで、僕は2005年頃に試乗したんじゃないかな。

——なるほど。あ、今日の対象車この個体です。カッコイイというインパクトがすごいですね。

松本 そうだね。このXLRというモデルはキャデラックのフラッグシップらしいラグジュアリースポーツカーとして1999年にショーカーとして登場したんだよ。
 

キャデラック XLR-V
キャデラック XLR-V

——ショーカーの時からこんな奇抜なデザインだったんですかね?

松本 そう。平べったくてカッコよかったよ。その時はまさか市販するとは思っていなかったけどね。キャデラック エヴォック コンセプトという名前でね。折り紙のようにパキパキしているんだけど、よく見るとフェンダーアーチは柔らかいデザインなんだ。キャデラックのフラッグシップのスポーツモデルらしく、インパクトが強かったよ。

——なるほど、それベースからして個性的なルックスだったんですね。

松本 いや、ベースになっているのはもう1台あるんだ。このキャデラック エヴォック コンセプトが登場した後にキャデラック ノーススター LMP2000という耐久レースカーがル・マンに出場したんだよ。モトローラのカラーリングでカッコよかったなぁ。

——あぁそんな車確かにありましたね。

松本 レースシーンで実績を作るために頑張っていたんだよ。その時のノーススターLMP02というレースカーがXLRにとても似たフロントでね。あんなル・マンカーは見たことなかったよ。まあ優勝していたらもっと有名になっていたんだろうけど。

——確かに記憶に残るデザインでしたよね。

松本 2002年にキャデラックは100周年を迎えたんだけど、そのタイミングでのル・マン出場だったんだ。レーシングシーンでトップを狙ったんだね。そんな流れの中、2004年にこのXLRが生産されたんだよ。デザインはほとんどショーカーと同じ。とても価値がある車だよ。
 

キャデラック XLR-V

——そんなに似てるんですか?

松本 ビックリするくらい似てる。リアエンドの処理が若干違うけど、テールランプの形は可能な限り再現されているね。本当にショーカーが市販されたっていう感じなんだ。ホイールのデザインはル・マンカーの方に似ていたりして、すべてに統一感があるよね。

——この時代のキャデラックってみんなこういうシルエットでしたよね?

松本 キャデラックというより、この当時のGMだね。みんな直線を基調としたデザインで、フロントのヘッドライトやグリルが象徴的なんだ。XLRの基本デザインを描いたデザイナーはジョン・キップ・ワンセコという人でキャデラックCTSの基本を描いたメンバーの1人なんだ。

——どうしても見た目に話題が集まりがちですけど、中身や性能はどうなんですか?

松本 結構有名な話だけど、プラットフォームやエンジンはシボレー コルベット(C6)と同じなんだ。だからコルベットの生まれ故郷であるケンタッキー州ボウリンググリーンで組み立てられていたんだよ。

——松本さん当時、試乗してどんな印象だったんですか? コルベットの中身にキャデラックの外観って想像つかないんですけど。

松本 うん。コルベットは大柄なボディだけど乗ってみると不思議とスポーツカーの身のこなしで軽快なんだよね。キャデラック XLRは全然別モノなんだ。優雅な雰囲気を大切にしたかったんじゃないかなぁ。コルベットのスポーツ性とキャデラックの大らかな乗り心地が本当に混ざったような、流して楽しむタイプの車なんだよね。ちょっと乱暴な言い方をすれば直線番長だよ。

——確かにルックスからはその匂いが……。

松本 いいじゃない。堂々とした雰囲気があって。メタルトップを開けたオープンボディの方がカッコイイと言う人もいるけど、僕は断然メタルトップを閉じたほうがスタイリッシュでいいと思う。カリスマ性があるって言えばいいのかな? 僕だったら開けないで乗るね。その方が高級感もあるし、キャビンが小さく見えるからラグジュアリーなスポーツカー感が増すんだよ。

——内装もキャデラックって感じですよね。

松本 そうなんだ。内装もいいんだよ。タフなレザーシートやちょっと日本人からすると大味のシフトノブだけど、大らかに乗るXLRにピッタリなんだ。内装の雰囲気ってとても大切だからね。

——ザ・高級車って感じがいいですよね。

松本 そう、クルーザーのような内装なんだよ。しかも高級時計ブランドであるブルガリのベゼルのデザインをメーターパネルや内装の時計にもあしらってね。初めて一緒に乗る人ならきっと驚くし、喜ぶと思うよ。

——いいなぁ。これは欲しいなぁ。

松本 欲しくなるよね。このデザインってすごいのは今見ても古く感じないところなんだよね。リアはちょっと古さを否めない部分もあるけど。とはいえキャデラックが放ったラグジュアリーで本格的なスポーツ2シーターは遅れて来たバブル感が満載なんだ。間違いなく記憶に残る1台だし、名車に数えていいと思うんだ。
 

キャデラック XLR-V

電動ハードトップを備えるFRの2シーターオープン。インパネまわりをブルガリが担当するなど、ラグジュアリーな仕立てに。磁気粘性流体を用いた電子制御ダンパーをはじめ、当時の最新技術が採用されている。V8スーパーチャージャーを搭載した「V」は2007年に登場した。
 

キャデラック XLR-V
キャデラック XLR-V

※カーセンサーEDGE 2021年1月号(2020年11月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています

文/松本英雄、写真/岡村昌宏