旧型BMW X6は、ある種の人限定でオススメしたい格安だが贅沢な1台
2019/09/23
最初はどうかと思ったが、今や主役のひとつとなった「クーペ的SUV」
こちらは、雑誌「カーセンサーEDGE」で8年以上続いている自動車評論家MJブロンディさんの長寿連載「EDGEセカンドライン」のB面である。すなわち、なぜかその取材現場に同席している自動車ライター伊達から見た「同じ車の別側面」だ。
第5回目となる今回は、2019年9月27日発売のカーセンサーEDGE 11月号で取材した2010年式BMW X6 xドライブ35i(車両本体価格278万円/走行3.4万km)のB面をお届けする。
結論から申し上げると「格安でありつつも贅沢な選択肢」というのが、この278万円也のBMW X6だと言える。
BMW X6という車自体について、まずは簡単にご説明しておこう。
X6が日本市場に上陸したのは2008年6月のこと。BMWは自社SUVのことをSUVではなく「SAV(スポーツ・アクティビティ・ヴィークル)」と呼んでいるが、そのなかでもX6はSAC(スポーツ・アクティビティ・クーペ)、すなわち「クーペのようなSUV」というか「SUVのようなクーペ」というのか、とにかく「屋根の低いSUV」である。
「わざわざ車高を上げてSUVを作り、しかしその屋根を低くするというのは謎というか、ハッキリ言ってバカなんじゃないか?」と2008年当時の民衆は(筆者を含め)思ったものだ。
しかし時は流れ、BMWが提案した「クーペっぽいスタイルの高級SUV」というジャンルは今や完全に定番のひとつとなった。使おうと思えば使えるスペースを、最近の軽自動車のように使い切るのではなく、あえて捨てるという「贅沢」が、ある種のお金持ちには刺さったのだろう。BMWは正しかったのだ。
800万円超級だったX6も今や200万円台から
初代X6が搭載したエンジンは3L直6ターボと4.4L V8ターボの2種類。初期モデルのトランスミッションは6速ATで、駆動方式は全時代にわたって4WDのみ。前後輪のトルク配分を無段階に調整する「xDrive」と、左右後輪への駆動力配分を調整する「ダイナミック・パフォーマンス・コントロール」を組み合わせた4WDシステムが採用されている。
2010年5月には一部改良でATが8速となり、xドライブ35iの3L直6ツインターボユニットはシングルターボの3L直6に変更。同時に「ブレーキエネルギー回生システム」も採用した。
2011年5月には乗車定員は4名から5名に変更され、2012年6月には外装全般と一部装備のマイナーチェンジを実施。そして2014年8月には現行型(F16型)へとフルモデルチェンジ―――というのが旧型BMW X6の大まかなヒストリーだ。
そのなかで今回の取材車両は「前期型の後期」とでも呼べばいいのか、2010年5月の一部改良で8速ATとなり、3L直6ターボエンジンの内容が少々変わって「ブレーキエネルギー回生システム」も採用された世代である。
新車価格は851万~889万円(※時期によって微妙に異なる)だった旧型X6 xドライブ35iだが、現在の中古車相場は車両価格で約180万~約400万円といったところ。取材車両のスペックに近い「2010年式前後の比較的低走行な個体」に限った相場は240万~280万円ぐらいだ。
万人向けの中古車ではないが、ある種の人には確実に刺さるはず
この相場(取材車両で車両価格278万円、類似スペックの中古車で240万~280万円ぐらい)は、まあ「格安」と呼ぶことはできるはずだ。
福沢諭吉さんの肖像画が描かれているお札が278枚+諸費用でプラス20枚ぐらい(?)というのは、もちろん結構な大枚ではある。
だが「もともとの新車価格は800万円超級だったモノの比較的低走行な中古車が278万円」と考えれば、そして「大衆的な国産コンパクトSUVの新車を買うのとだいたい同じぐらいの予算」と考えれば、「あら、お安いじゃない!」と評しても決して間違いではないのだ。
しかしユーズドカーのBMW X6は、格安であると同時に「贅沢な車」でもある。
まずは冒頭付近で申し上げたとおり、空間の使い方が贅沢だ。使おうと思えば使える空間を、クーペ的フォルムにすることであえて捨てている。
それに加えてサイズも贅沢。贅沢というか、使用場所をある程度選ぶ車である。
全長4885mmと全高1690mmはさておき、全幅1985mmというのは「都内の駅前とか住宅街ではあまり乗りたくないな……」と少々思わせる数字だ。郊外にある邸宅を拠点に、「せせこましい庶民の街にはあまり足を踏み入れないんですよね」というライフスタイルの人に向いているサイズ感と言えよう。
そして「特に故障しやすい車」というわけでは決してないのだが、それでも大衆クラスの国産SUVと比べれば補修部品の単価が高いため、定期的な整備や突発的な故障対応にはそれなりのカネはかかる。また燃費も、決して良好なわけではない(取材車両の年式・グレードでカタログ値9.4km/L。燃料種別は当然ハイオク)。
以上のモロモロから引き出されるとりあえずの答えは、非常に明確である。それは「格安だからといって庶民が安易に手を出すべき中古車ではない」ということだ。
「800万円超級だったカッコいい輸入SUV(SAC)が車両278万円!」という部分だけで、例えば東京23区内に住んでいる筆者のようなド庶民がこれを買うのは得策とは言い難い。その場合は素直にスバル XVの新車とか、BMWだったらX6ではなくX3の中古車あたりを買うのが得策であろう。
だが世の中には「程よく安くなった中古のBMW X6」が絶妙にマッチする人も、少数ながら確実に存在している。
それはすなわち「比較的郊外にお住まいで、ぜんぜん富裕層ではないけどまあまあレベルではお金に余裕があり、それでいて“超高級な感じのSUV”を好む人」だ。
そういった人がもしもこの記事を読んでいたならば、ぜひ販売店まで現車をチェックしに行ってみてほしい。筆者個人には不向きだが、内外装とも素晴らしくキレイでお手頃価格な、そして何より「カッコいいSUV」であることは間違いなかったからだ。
自動車ライター
伊達軍曹
外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。
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