▲NSX type Sに搭載されるV6 3.2L VTECエンジン ▲NSX type Sに搭載されるV6 3.2L VTECエンジン

ドライビングフィールは天下一品

国産車で最も志の高いスポーツカーは? と聞かれたら、初代NSXと答えたい。

1990年の登場から16年間、ほぼスタイルを変えずに細かな改良を重ね成熟させてきたモデルだ。

性能は絶えず一線級を維持。

最高出力でグイグイと押し進めるのではなく、自然吸気エンジンの扱いやすい特性を利用して、中回転から高回転でのドラマチックなパワー特性を生かしたコントロール性能がウリのスポーツカー。

そしてそのドライビングフィールの切れ味は天下一品だ。

私が初めてNSXに乗ったのは、2台しか作られなかったスペシャルモデルだった。

色は黒。インテリアはあずき色に似たレッドという仕様だった。

ステアリングのフィールといいエンジンのサウンドといいもう最高だった。

硬めの乗り心地も若い頃の自分には相性が良く、その試乗時間は最高のひと時となった。

しかも、こんなにキャビンが低くいのに、視認性が良いことに驚いたことを思い出す。
 

▲最後に乗ったのは2005年のNSX-R。この1台は特に思い出に残っている名車だ▲最後に乗ったのは2005年のNSX-R。この1台は特に思い出に残っている名車だ

十数年ぶりに突然訪れた初代NSXの試乗機会

カーセンサーの大脇デスクから『松本さんNSXに乗りませんか?』と聞かれた。

私は『もう乗ったけど2019年モデルを借りたの?』というやりとりをしたくらい“まさか”だった。

なんと、大脇デスクが初代のNSXを借りてきたというではないか。

実はホンダの計らいで、とても良く整備された2003年式のNSX type Sのステアリングを握ることができたのだ。

色はセブリングシルバー。走行距離は3.5万km程度。

中古車であれば「極上車」というラベルを付けたくなるような1台だ。

▲これがホンダで保管されている今回の試乗車、2003年式のNSX type Sだ▲これがホンダで保管されている今回の試乗車、2003年式のNSX type Sだ

今見るととてもコンパクトでバランスがとれている。

リアがちょっと長いのがある意味特徴的であり、派手なスポイラーなどのないオリジナルは均整がとれていたのだとあらためて実感する。

車体を一周して見る。現代のレギュレーションでは不可能なノーズの低さや、その造形がまたたまらない。
 

▲私はドライブしたい衝動を抑えきれず、勝手に車に乗り込み思わずシートを合わせてしまった▲私はドライブしたい衝動を抑えきれず、勝手に車に乗り込み思わずシートを合わせてしまった

NSXはすべてが専用品というコストをかけた逸品

NSXがすごいのは、アルミ合金のフルモノコックボディというところ。

加えて、他車流用できないオンリーワンの専用シャシーという豪華ぶりだ。

ただ、アルミ合金は意外と扱いが難しい。

ボディをシャープに作る難易度が高く、曲面の厚みのあるモノフォルムは特に難しい。

最近のスーパースポーツカーやラグジュアリーカーに用いる、メインフレームとボディのアルミ合金の接合は、溶かして付けるような溶接を極力控えて、飛行機などに使われるリベットと接着で接合している。

NSXはこのスポット溶接で作ってあるのだ。

これはアルゴン溶接のように母材を溶かして付けるのではなく、鉄板同士にとてつもない圧力をかけて電気を流し、一瞬にして溶かして付ける方法だ。

アルミのスポット溶接は鉄鋼に比べて2.5倍ほどの電気量が必要なので、設備からなにから大変なのである。

また、スポット溶接は素材自体のアルミ合金のポテンシャルが大きく変わらないのがメリット。

NSXはそこに着目して作られているのだ。
 

うん、これはいい! すばらしくいい車だ! 全くあせない!

▲外から聞いていてもNAのVTECサウンドは聞きほれるほど実に気持ちいい。また目の前を走る去る姿も他の車とは全く違う余韻を残していく▲外から聞いていてもNAのVTECサウンドは聞きほれるほど実に気持ちいい。また目の前を走る去る姿も他の車とは全く違う余韻を残していく

さて試乗だ。

6速MTのギアを1速に入れてアクセルを優しく開けながら走り出した。

軽くて乗りやすい。

久しぶりに乗ったとは思えないくらい車がフィットしてくる。

V6の3.2L VTECエンジンはトルクが滑らかで乗りやすい。

ヒップポイントと目線の低さが、スーパーカーを運転しているという喜びを一層高めてくれる。

15年は経過しているが、ボディは素晴らしくソリッドで剛性はとても高い。

少し加速してみる。

そのエンジンの音色には、ドライバーがうれしくなるようなハーモニック性を備えている。

切れの良いクラッチは電光石火のシフトアップダウンが可能だ。

高回転まで鞭を入れたときのエンジンサウンドとその加速感は、ただただ人をエクスタシーへと誘う魔法のよう。

ノーズが軽くドライバーの意思への反応が速い。

ワイドなボディも小さな感じがするくらいスイスイと走ることが可能だ。

パワーは280psもあるが、ライトウェイトスポーツカーのように操作が軽やかである。

一方、中速以上の領域でも安定感があり、ロングツーリングへと誘うポテンシャルも備えている。

この初代のNSXが日本のスーパースポーツグランツーリスモの先駆けだと言っても、おそらく間違いはないだろう。

そして、オンリーワンのテクノロジーと品質を満載した本当に価値あるモデルなのである。
 

▲シートの着座位置の低さがわかるだろうか。この低さに慣れるまでは、走行中に尻を擦っている感じがしてムズムズする▲シートの着座位置の低さがわかるだろうか。この低さに慣れるまでは、走行中に尻を擦っている感じがしてムズムズする
▲グレードの高いグランツーリスモに適したバケットシートは、作りがしっかりとしている。ホンダが高級スーパーカーを細部まで研究して作り上げたことが、シートやステッチの縫製を見るだけで理解できる▲グレードの高いグランツーリスモに適したバケットシートは、作りがしっかりとしている。ホンダが高級スーパーカーを細部まで研究して作り上げたことが、シートやステッチの縫製を見るだけで理解できる
▲当時はどんな車にも備えられていたカセットデッキと灰皿は、今見るととても懐かしい。その当時の車だった証しでもある▲当時はどんな車にも備えられていたカセットデッキと灰皿は、今見るととても懐かしい。その当時の車だった証しでもある
▲スポーツカーとしての機能美と最低限の実用性の狭間で、トランク容量ではもめたとかもめなかったとか……。結果、ゴルフバッグが積める広さはある。奥に装着されているCDチェンジャーがまた泣かせる▲スポーツカーとしての機能美と最低限の実用性の狭間で、トランク容量ではもめたとかもめなかったとか……。結果、ゴルフバッグが積める広さはある。奥に装着されているCDチェンジャーがまた泣かせる
▲実走行距離はたったの35055km。これが市場に出回ったら間違いなくお宝車確定だ。8000回転からレッドゾーンとなるタコメーター。超高回転型のエンジンを搭載していることがお分かりいただけるだろう▲実走行距離はたったの35055km。これが市場に出回ったら間違いなくお宝車確定だ。8000回転からレッドゾーンとなるタコメーター。超高回転型のエンジンを搭載していることがお分かりいただけるだろう

-取材後に知った驚愕の事実-

大脇:「いやぁ~、ドキドキしっぱなしの車でしたねぇ」

松本:「新車時価格はtype Sだから1000万円ちょいくらい。当時の国産車ではものすごく高価な1台だね」

大脇:「15年経過しても、コイツの存在感は当時と全く変わりませんねぇ。欲しいなぁ~」

松本:「古いスポーツカーが値上がりしているとはいえ、中古車探してみたら?」

大脇:「それもそうっすね!」

松本:「このNSXは2003年式のtype S、走行距離は3.5万kmだね。近いコンディションの物件ある?」

大脇:「初代は現在全国で70台くらいありますね。type Sに絞ると……3台しかないです(笑)」

松本:「少ないねぇ(笑)」

大脇:「……。松本さん、事件です……」

松本:「……?」

大脇:「ニ・ニ・ニ・ニセンマンエンモシマス……」

松本:「2000万円!? おいおい、新車時価格の倍じゃない!(笑)」
 

text/松本英雄
photo/篠原晃一、ホンダ