▲白いガソリン車と黒い電気自動車って、まさにパンダ!? 白いガソリン車のオーナー・木村吉見さんは、初めて見るでんきパンダにもちろん興味津々だ ▲白いガソリン車と黒い電気自動車って、まさにパンダ!? 白いガソリン車のオーナー・木村吉見さんは、初めて見るでんきパンダにもちろん興味津々だ

中古車の電気自動車化には一長一短がある

でんきパンダを飼い始めて2ヵ月。私は大いに不満だった。「でんきパンダを飼っている」ことに誰も気づいてくれないからだ。古くさい車に充電器がブッ刺さっているなんて、どう考えてもおかしいだろ? いじれよ!

しかし、こう見えても私は52歳の立派なおっさんだ。自ら「でんきパンダを飼ってるんだよー!」などと叫ぶような、子供じみたことはしないのだ。ここはあくまでスマートに、さりげなく。「え、どーなってるんですか?」「あ、これ? いやちょっとパンダを電気自動車にしましてね」なんて具合に……

「誰も興味がないからじゃないですか、電気自動車のパンダなんて」

いじっているスマホから視線を上げることなく、てんちょ~(編集部員の大平くん)が言い放った。

こう見えても私は52歳の立派なおっさんだ。彼に対する最大級の侮辱の言葉をグッと飲み込みつつ、彼の愛車のマフラーに風船をしかけて、エンジンをかけたら膨らんで……などと思案していたら、突然天啓が降りてきた。

そうだ。ノーマルの、ガソリン車パンダのオーナーなら、きっとこの快挙に驚くに違いない! 何しろ世界でたった1台だけの(ちゃんと調べてないから「恐らく」だ)急速充電対応フィアット パンダなのだから。

さっそく見つけたのが、イラストレーターの木村吉見さんだ。彼の愛車は95年式のCLXのMT車と、くしくもでんきパンダのベース車と全く同じスペック。

しかも、現在の走行距離が14万km超だという。でんきパンダのベース車も13万km超だったから走行距離までほぼ一緒。

これなら乗り比べればきっと……。

高まる期待を胸に、まずは木村さんにでんきパンダを試乗してもらった。

木村さん(ガソリンパンダオーナー):へぇー。3人で乗ってもこの出足か。非力じゃないパンダってちょっと不思議だなー

ぴえいる:でしょ?(ホクホク) しかも3人とはいえ1.5人前の体重がある、てんちょ~が乗っていて……

木村さん:だけど劇的じゃないね。電気自動車だからもっとすごい加速感かと思っていたけど

ぴえいる:それは1.5人前の体重がある、てんちょ~がいるから……

今頃は痩せているはずじゃなかったのか、てんちょ~


中身である三菱 i-MiEVは、そもそも軽自動車のiを電気自動車に仕立てた車。その際、軽自動車のターボ車と同じ程度の加速感にしないと運転しづらいだろうと、敢えて出力を調整している。でんきパンダの加速が劇的ではない理由の1つだ中身である三菱 i-MiEVは、そもそも軽自動車のiを電気自動車に仕立てた車。その際、軽自動車のターボ車と同じ程度の加速感にしないと運転しづらいだろうと、あえて出力を調整している。でんきパンダの加速が劇的ではない理由の1つだ

木村さんがパンダを購入したのはもう15年前のこと。その時点での走行距離は8万km。それから6万kmほどしか延びていないということは、年間4000kmほどしか乗っていない計算だ。普段は買い物に行くくらいで、たまに遠出する程度。

木村さん:ウチのパンダくんは速度を増すとフワフワする感じ。だから高速道路では怖くてあまりスピードを出さないんだよね。けれど、でんきパンダはどっしりしているから安定感があるよ

ぴえいる:でしょ?(ホクホク) やっぱり電池で約150kg増えたのが功を奏し……

木村さん:その分、ブレーキが利くのか心配で、結局飛ばせないんだけどね

重量増は一長一短だ。

上がでんきパンダ、下が木村さんのパンダのインパネ。メーターが違う程度でほぼ同じだ上がでんきパンダ、下が木村さんのパンダのインパネ。メーターが違う程度でほぼ同じだ
左がでんきパンダ、右が木村さんのパンダの後席。ラゲージに電池を積むために背もたれが直角になったほか、よく見比べると座面も短くなっている左がでんきパンダ、右が木村さんのパンダの後席。ラゲージに電池を積むために背もたれが直角になった他、よく見比べると座面も短くなっている

てんちょ~:ところで音はどうでしょう? 電気自動車なら本来エンジン音がしないから静かになるはずじゃ……

木村さん・ぴえいる:(同時に)パンダに静粛性を求めるな!

確かにでんきパンダは、当たり前だがエンジン音がしない。しかしロードノイズやら窓の外の喧噪やら、フロントガラスにぶつかる風の音やら、ボディ各所で発生するきしみ音やらで、結局大して静かではない。むしろエンジン音がないせいで、今まで聞こえなかったはずの音が、逆に目立って聞こえる。

やはり一長一短だ。しかし、大きな「長」もある。

木村さん:もうパンダは20年以上前の車でしょ? 年々パーツが少なくなっているから、修理をしようにもパーツ探しがまず大変

ぴえいる:確かに。私もドアのキーを探すのに一苦労した(詳細は後日)

木村さん:今年の3月に車検だったんだけど、オイル系と点火系をメンテして、他にリアの足回りも替えたけれど、何だかんだで約50万円もかかったし

ぴえいる:年々パンダが年老いてくると、不安も増えますからね。その中で電気自動車にすることで動力系だけでも不安が解消されるなら、いいですよね

木村さん:延命措置としてはアリかなー

ガソリン車(左)と比べて、でんきパンダはスペアタイヤを外してもエンジンルームがキチキチ。エンジンやミッションは取り外したが、代わりにモーターやコントローラーを搭載しているガソリン車(左)と比べて、でんきパンダはスペアタイヤを外してもエンジンルームがキチキチ。エンジンやミッションは取り外したが、代わりにモーターやコントローラーを搭載している

15年も乗っている愛車だ。できれば最後まで乗りたい。その選択肢として改造電気自動車はアリだと木村さんも認めた。

木村さん:で、いくらで電気自動車になるの?

ぴえいる:約240万円

木村さん:100万円くらいなら考えるけど(笑)

やっぱり費用がネックか……

とはいえ、52歳の立派なおっさんである私は約240万円に見合う価値を、ビンビンと感じている。何しろ(多分)世界に1つだけのでんきパンダだ。それが世の中の人々に伝われば、きっといつか同胞が現れ……

てんちょ~:そもそも誰にも気づかれないんだから、伝わらないでしょ(笑)

お前の車のステアリングに、ちくわ巻いたろか!

text&photo/ぴえいる