▲かつてはコンパクトサイズのセダンだったが、今ではミドルクラスからアッパーミドルクラスに位置するようになった主力モデルの3シリーズ。1975(S50)年の発売以来、5代目にあたるモデルが2005(H17)年4月にデビューした。ボディは全幅が1800mmを超えていて、サイズの拡大によって室内空間にも余裕が生まれた。エンジンは2Lの直4Lと2.5Lと3Lの直6の計3機種。定評あるエンジン技術であるバルブトロニックを全車に採用し、直6には量産車初のマグネシウム合金が使われる。 ▲かつてはコンパクトサイズのセダンだったが、今ではミドルクラスからアッパーミドルクラスに位置するようになった主力モデルの3シリーズ。1975(S50)年の発売以来、5代目にあたるモデルが2005(H17)年4月にデビューした。ボディは全幅が1800mmを超えていて、サイズの拡大によって室内空間にも余裕が生まれた。エンジンは2Lの直4Lと2.5Lと3Lの直6の計3機種。定評あるエンジン技術であるバルブトロニックを全車に採用し、直6には量産車初のマグネシウム合金が使われる。

BMWというエンジンメーカーが作る6気筒エンジン

仕事柄様々な新車に乗る機会がある。しかし、年数と走行距離が重ねられた中古車に乗ることで、新車試乗時には感じられなかったことに気づくことがある。中古車試乗レポートという形でお伝えするので、読者の皆さまの中古車選びの参考にしていただければ幸いだ。

今回は2007年式のBMW 3シリーズ 323iハイラインパッケージに試乗する機会を得た。新進気鋭のカーセンサー編集部の神崎氏が所有する車だ。BMWを購入しようとする人は6気筒搭載モデルにこだわることが多い。それはとても正しい。

直列6気筒はダイナミックバランスに優れたエンジンが特徴であるが、ちゃんとした考え方がメーカーに存在しないとエンジンブロックとクランクシャフトが長いので剛性低下によるバイブレーションも考えられる。しかしBMWはエンジンメーカーだ。そのあたりのフィロソフィーが現在も直列6気筒を作り続けている証拠である。

▲多くのファンが存在するBMWの直列6気筒エンジン。今回のオーナーが一番こだわっていたのも「6気筒」とのことだった ▲多くのファンが存在するBMWの直列6気筒エンジン。今回のオーナーが一番こだわっていたのも「6気筒」とのことだった

ドイツ車の真髄は4万kmを超えてからこそ発揮される

今回試乗した323iは4ドアセダンのE90という形式のモデルだ。エクステリアは先代のE46型に比べてシャープなデザインでスピード感があるなと感じた。

当時の新車に標準装備されていたランフラットタイヤ(※)は、現在のものに比べて乗り心地まで考慮されていないようであった。特にMスポーツパッケージが履いていた18インチモデルは、スタイリングこそカッコいいものの、なかなかハードで男らしい乗り心地であった。とはいえBMW 3シリーズは6気筒エンジンを搭載していても軽やかだと思っていたし、ドライの路面ではエンジン出力に関係なく軽快な身のこなし方がとにかくスポーティだった。

※ランフラットタイヤ:パンクなどでタイヤ内の空気圧がゼロになってしまっても、一定距離を走行することができるタイヤ。BMWではこのあたりのモデルから、積極的に採用している

BMWの提案した6速ATのプログラムは歯切れよくステップアップでシフトして、今でこそ当たり前のマナーであるが、その後の国産車も類似したプログラムになっていったことは言うまでもない。E90の前期モデルは、とにかくウエットの路面での操縦安定性は少々希薄な印象が強い。それだけハンドリングに特化したセッティングになっていたに違いない。その証拠にランフラットタイヤ装着車でワダチでブレーキングをするとステアリングが取られやすかったのだ。これはブッシュ類の曖昧な部分を少なくしたセッティングだということがよくわかる。それでも新車だとブッシュ類の柔軟性が高いからゴツゴツ感は少ないイメージがある。

しかし今回、10年以上経過し8万kmほど走行した323iの乗り心地が良かったのには驚いた。しかもホイールが標準の16インチから18インチのMスポーツ仕様に変更してある。もっともタイヤだけはランフラットではない仕様に交換しているが……。ワダチの中でのブレーキングでもステアリングが取られることが少ない。また、18インチであればタイヤの剛性も高い。そのため距離がかさめば不快な突き上げ感も気になってくるはずだが、意外や意外、この個体はそれがほとんど気にならない。

▲今回の車両で純正から変更されていたのがタイヤ&アルミホイール。タイヤはランフラットではないものに替えられており、アルミホイールはMスポーツ純正モデルの18インチのものへ変更されていた ▲今回の車両で純正から変更されていたのがタイヤ&アルミホイール。タイヤはランフラットではないものに替えられており、アルミホイールはMスポーツ純正モデルの18インチのものへ変更されていた

「ドイツ車の真髄は4万kmから緩やかに良好の状態が続く」と、若い頃に教わったことがあるが、それは間違いではなかった。もちろん乗り方や使い方によって違いはあるだろうが、標準的に使われたものだと思われる8万kmを超える323iのサスペンションの動きは、まだまだ国産車では到達の難しい奥深さを感じるのである。これだからBMWの神話は本物なのだ。 レザーシートも十分に馴染んでシワの入り方がシートの心地を深めると同時に、深くヒップを安定させてホールド性も良好だ。

12年前に最新だったものが今になっても古くさく感じない……それがドイツ車

BMWのデザインが素晴らしいのはエクステリアだけではない。インテリアの造形は12年前のデザインであるが古くささを感じない。登場したばかりの頃、「最も新しいセンタークラスターである」と論評したが、今見ても見劣りしていない。当時のBMWの生産方法は決して新しいわけではなかった。どちらかというとコンサバティブな造り方をしていた。しかし必要な部分には最良のマテリアルを使って先を見据えていたのである。だから古くならないのだ。ハンドリングはMスポーツ仕様に比べるとおっとりとしているが、これが逆にボディや樹脂類の劣化を防いだのかもしれない。いい感じに歳をっているのだ。「ドイツ車ってこれなんだよなぁ」と感じることができる1台である。

本人はそれほど予算がなかったようだが、どうしても6気筒が欲しかったらしい。6気筒モデルの廉価版である323iだが、325iよりも出力が低く抑えられており、だからこそ動力系にもストレスがかかりにくかったのかと感じる。

▲ハイラインパッケージのインテリアは、レザーシートと木目調が組み合わされており、派手さはないものの落ち着いた空間を造り出している。どこか「おじさんっぽい」内装も気に入っているポイントの一つなのだとか ▲ハイラインパッケージのインテリアは、レザーシートと木目調が組み合わされており、派手さはないものの落ち着いた空間を造り出している。どこか「おじさんっぽい」内装も気に入っているポイントの一つなのだとか
▲非力な323iだからこそ車にストレスがかかりにくく、比較的良いコンディションを保つことができているのかもしれない ▲非力な323iだからこそ車にストレスがかかりにくく、比較的良いコンディションを保つことができているのかもしれない

メンテナンスを施すことで、さらに気持ちの良いフィーリングに

ただ8万キロ乗っているので全く悪い部分がないかというとそうではない。一つはステアリングホイールが直進のときにまっすぐ向いていないこと。これは気になりだすとけっこう気になる。それとブレーキを見てもらった方が良い。ローターが減っているせいであろう。踏み始めから制動まで一瞬ブランクがある印象だ。ホイールが黒くなりがちな欧州車は、ディスクパッドとブレーキローターを減らしながらリニアな制動力を発生させる傾向がある。国産車に比べて、高速域からのブレーキングには本当に心強いが、日本ではそこまで感じられないのが惜しい。

▲新車時に比べて角が取れたようなイメージだった。しっかりとメンテナンスが施されてきた車は、古くても走行距離が多くても関係ない。この323iも今後まだまだ“駆け抜ける歓び”を感じることができるだろう ▲新車時に比べて角が取れたようなイメージだった。しっかりとメンテナンスが施されてきた車は、古くても走行距離が多くても関係ない。この323iも今後まだまだ“駆け抜ける歓び”を感じることができるだろう

時間をかけて使い込まれたものだからこそ味わえる魅力もある

今回の試乗を通して、新車の印象とは異なる角の取れた老練なモデルに仕上がっていたのには驚いた。

乗り続けられた中で、しっかりとメンテナンスを受けてきた中古車には年式も走行距離も関係ない。エアコンもよく効くしATも調子がよく、安価で良い1台に巡り会えたと感じた。ラッキーな1台であることに間違いない。

今回の試乗を通して、「BMWの潜在能力はまだまだなのかもしれない」と感じた。




【試乗車情報】
車名:BMW 3シリーズ(E90)
グレード:323i ハイラインパッケージ
年式:平成19年式
エンジン:2.5L 直列6気筒 DOHC
駆動方式:FR
ミッション:6AT
修復歴:無
走行距離:8.1万km
購入時総額:97.0万円(税込)

text/松本英雄
photo/篠原晃一