▲先日登場した現行ミニの5ドア仕様。乗ってみると高級感あふれる素晴らしい車だったが ▲先日登場した現行ミニの5ドア仕様。乗ってみると高級感あふれる素晴らしい車だったが

小型車はもう少し「ざっくばらん」でも許されるのかもしれない

過日、F55こと現行ミニの5ドア仕様に試乗した。大変素晴らしい車だった。具体的にどう素晴らしいかといえば、ミニというよりはもはや「BMW 0シリーズ」とでも呼びたくなる感じの、剛性感と高精度感のカタマリ的車だったのだ。

筆者が試乗したのは高出力版のクーパーSであったため当然かなり速いが、驚いたのは動力性能というよりも前述の剛性感と高精度感だ。結構な速度で結構な曲がり方をしてみてもボディや足回りはミシリとも言わず、まるでドイツ軍が保有する何らかの次世代型高機動軍用車にでも乗っているような、そんな気分になる。ステアリングの正確さも驚愕レベルで、筆者のような松竹梅でいう竹レベルのドライバーであっても、狙ったラインを(大げさにいえば)1ミリの狂いもなくトレースすることが可能。また内装各部の緻密な作りや上質な手触りも、もはや「小型車」の域を軽く超えている。いやはや、凄い車だ。

▲F55(現行ミニ 5ドア)のインテリア。素材も作りもデザインの緻密さも、とにかく2クラス分は上な感じ ▲F55(現行ミニ 5ドア)のインテリア。素材も作りもデザインの緻密さも、とにかく2クラス分は上な感じ

しかし同時に思ったのは「小型車ならではの魅力にはいささか欠けるかも」ということだった。

「小型車ならではの魅力」とは、言ってみれば「Tシャツ+短パンの快感」のようなものだ。

フォーマルな場所にTシャツ+短パンで出かけると怒られることもあるが、基本的にはこれからの時期、Tシャツ+短パン姿というのは非常に気分が良い。ざっくばらんであり、軽快であり、そして汚れやその他を気にせずどこへでも思い立った瞬間にビュッと行けるという、「自由」と言ってしまうと大仰にすぎるかもしれないが、そういった好ましい何かが、Tシャツ+短パン姿には内包されている。

そして、それと同じ種類の好ましい何かは、往年の輸入コンパクトカーにも確かにあった。それこそがコンパクトカーの魅力であったのだ。

しかし現行ミニ 5ドアは、冒頭で述べたとおりかなり素晴らしい車であるとは思うが、少なくとも「Tシャツ+短パン」的なざっくばらんさはない。どちらかと言えば、かなり上等でおしゃれなスーツをビッと着込んでいるニュアンスだろう。走りも手触りもデザインも、とにかくすべてにおいて隙がなく、ビシッとしているのだ。かなりおしゃれではあるが、堅く、正確なのである。

▲ポップで可愛らしい見た目とは裏腹に、その走行感覚は非常にエリートっぽいというか、緻密で精密だ ▲ポップで可愛らしい見た目とは裏腹に、その走行感覚は非常にエリートっぽいというか、緻密で精密だ

それはそれで小型車の新たな理想像として歓迎すべき資質なのだろう。筆者としても異存はないし、異存はないどころが自前で1台買いたいぐらいだ。しかし、もしも「自分はもっとこうTシャツ+短パン的な、隙のあるコガタシャのほうが好きなんだよねぇ……」というのであれば、選ぶべきは現行ミニ 5ドアではなく、何らかの中古車になるだろう。

その際、けっこう古めなヨーロピアンコンパクト(ルノー サンクとかプジョー205とか、あるいは初代フィアット パンダとか)であれば、どれを選んだとしても最高の「Tシャツ+短パン感」を堪能することができる。しかしそれら往年系は今やメンテナンスの面では楽勝とは言いがたく、そもそも中古車の流通量もそう多くはない。結論として一部マニア向けの車といえるだろう。

もう少しメジャーな、具体的には比較的新しい年式のヨーロピアンコンパクトで、往年のコンパクトカーに通じる「Tシャツ&短パン感」が味わえるモデルというのはないものか?

実はある。フィアット 500 ツインエアと先代ルノー ルーテシア RSだ。

▲現行フィアット 500に2010年から追加された「ツインエア」。0.9Lの2気筒エンジンを搭載する ▲現行フィアット 500に2010年から追加された「ツインエア」。0.9Lの2気筒エンジンを搭載する
▲こちらは先代のルノー ルーテシア RS(正確にはルノースポール)。諸事情により販売期間は短かった ▲こちらは先代のルノー ルーテシア RS(正確にはルノースポール)。諸事情により販売期間は短かった

ご承知のとおりフィアット 500のツインエア系は、1.2Lの4気筒がデフォルトとなる同モデルに0.9Lの直列2気筒ターボエンジンを搭載したゴキゲンなコンパクトカー。さすがに最近の車だけあって内装は往年系コンパクトと違いそれなりにゴージャスだが、しかしスーツを着ているような堅苦しさはなく、非常にポップなイメージだ。短パン感があるかどうかは知らないが、少なくともTシャツ的ではある。

そして最高なのが、やはり2気筒のツインエアエンジンだ。パワー自体は大したことがないのだが、2気筒ならではの妙に有機的な鼓動を発するこのエンジンは、まるで小柄で活発な野生動物の心臓のよう。振動などの面で突っ込みどころはあるのかもしれないが、「そんなことはどうでもいい!」と感じさせる陽気なビートこそがツインエアの持ち味なのだ。

▲「ドゥビビビビ~!」という感じの独特な排気音と動物っぽいビート感が気持ち良いツインエアエンジン ▲「ドゥビビビビ~!」という感じの独特な排気音と動物っぽいビート感が気持ち良いツインエアエンジン

また先代ルーテシア RS。これは現行RSがあまりにも素晴らしすぎるため、総合的な性能ではそれにやや劣るかもしれないが、その分、間違いなく高性能車なのに何となく「愛すべき隙」も微妙にあるというか、これまたTシャツ+短パン感を少々感じるゴキゲンなヨーロピアンコンパクトである。筆者の主観に基づく判断に過ぎないが、現行RSと比べると内装デザインが微妙にイケてない点も逆に愛らしい。

▲こちらは先代ルノー ルーテシア RSのインパネ回り。ちなみにシートの座り心地も実は非常に良好 ▲こちらは先代ルノー ルーテシア RSのインパネ回り。ちなみにシートの座り心地も実は非常に良好

F55型ミニも素晴らしいし、そういった新世代コンパクトに乗るのは本当にステキな行為だ。しかし、もしもあなたがキッチリとしたエリート感ではなく「ちょっと抜けてる(?)Tシャツ+短パン感」みたいなものを現代の小型車に求めるのであれば、ぜひこの2モデルの存在を思い起こしてほしい。

ということで今回のわたくしからのオススメはずばり「フィアット 500&先代ルノー ルーテシア RS」だ。

text/伊達軍曹