▲「切手の博物館」で筆者が購入した郵便切手。一部のものは額面より高い金額で販売されている ▲「切手の博物館」で筆者が購入した郵便切手。一部のものは額面より高い金額で販売されている

リセール額が多少安い可能性はあるが、それ以上の価値もある

過日、東京都豊島区にある「切手の博物館」を訪ねた。その展示内容は非常にバラエティ豊富かつマニアックで、切手趣味に関しては完全な門外漢である筆者も大いに楽しめた。楽しんだついでに館内にあった売店(正確には外部のディープな切手専門店の出店)に立ち寄り、ちょっとステキなデザインの郵便切手でも買おうと思い立った。自営業者として各クライアントへ郵送する「請求書」の封筒に貼るための切手である。

販売されていたちょっと古い日本国の切手はどれも大層美しかったりコミカルだったりで、大変ステキである。これを請求書の封筒に貼付すれば、受け取った担当者は、ほんの一瞬でもちょっと楽しい気持ちになることだろう。ステキな切手であることにまったく気づかれず(または気にもされず)ソッコーでデスク脇のゴミ箱行きになる可能性もあるというか、その可能性の方が大な気もするが、まあそれはそれでOKだ。よし、買おう。

そう思い立った筆者ではあったが、値段を見て少々たじろいだ。額面よりも売価が断然高いのだ。

もちろん額面どおりの商品もあるが、「コレはステキだな!」と思った額面80円の切手は(古い切手なので82円ではないのだ)、たいてい1枚100円とか130円とかなのである。なかには1枚200円ぐらいのものもあった。なるほど、郵便局とは違いここでは市場原理が働いているということか。

▲左の「太陽の塔」が100円で、右の「蚊取り線香」は130円。……蚊取り線香の方が高いのか! ▲左の「太陽の塔」が100円で、右の「蚊取り線香」は130円。……蚊取り線香の方が高いのか!

筆者はこう見えて真面目な自営業者であるゆえ、コスト意識は割としっかりしている。本来は82円のコストで済む郵送作業に100円あるいは130円をかけるようでは自営業者失格である。ステキな切手で請求書を送ることで「うむ、こいつはセンスがいいから原稿料を倍にしよう」と考える発注元が現れる可能性もなくはないが、その可能性はかなり楽観的に見積もっても0.1%ほどだろう。これはダメだ。ここで買うのはやめて、普通の郵便局で普通の記念切手でも買おう。

しかし筆者はその場で5秒ほど考えこみ、結局は、1枚100円から140円ほどの80円切手をかなりの数、購入するに至った。

なぜならば、コスト管理以上に重要であるはずの「生きる意味」について考えたからだ。

まあ「生きる意味」と言ってしまうと大仰に過ぎるのだが、少なくとも我々は「数十円のコスト」を切り詰めるために生きているわけではない。それがチリツモ理論で年間数千円のコスト削減になったとしても、だ。そうではなく我々は、ざっくり言ってしまえば「気分よく時を過ごす」ために生きている。仕事もお金も異性も自尊心も公共心もその他いろいろも、結局はココに紐づいているのだ。少なくとも筆者はそう考えている。

であるならば、たかが1枚数十円(年間でせいぜい数千円)のコストで「受け取った人がニコッとする(あるいはニヤリとする)」「送った自分も(自己満足かもしれないが)気分が良い」という好ましい状態を作り出せる可能性があるのだから、それでいいではないか。いやむしろ、この「ステキ切手コスト」は積極的に支払うべきなのではないか…と思うに至ったのである。

▲例えば野球好きなカーセンサー編集部F氏宛てにはこんな切手とか、単純に楽しいじゃないですか ▲例えば野球好きなカーセンサー編集部F氏宛てにはこんな切手とか、単純に楽しいじゃないですか

これと似たことは輸入中古車の購入においても指摘することができる。例えばそれは「黄色い車問題」だ。

黄色い車というのは運転している本人も愉快な気分になり、また灰色めいた街の風景を鮮やかで楽しげなものに変える一助にもなる、なかなか素晴らしいものだ。しかしご承知のとおり現在、人気が高くリセール価格も高いボディカラーは圧倒的に白または黒。黄色はお世辞にも人気色とは言いがたいだろう。その結果として、リセール額も人気色と比べれば少々安くなる傾向がある(ルノーのメガーヌRSなど、逆に黄色が人気のモデルも一部あるが)。実際筆者も、黄色ではないがガーズレッドのポルシェ 911を売却した際は「グランプリホワイトだったらあと10万円は上乗せできたんですが…」と業者の人に言われたものだ。

▲黄色のプジョー 306カブリオレ。ステキだが、「人気色か?」と言われれば微妙なところ ▲黄色のプジョー 306カブリオレ。ステキだが、「人気色か?」と言われれば微妙なところ

それゆえ、仮に黄色い輸入車が欲しいと思っても「売るときに安いかもしれないからやめとくか…」という行動を取っている人もいるだろう。もしもあなたが「ボディ色は何でもいい」とか「黄色は好きじゃない」というのであればどうでもいい話だが、もしも「やっぱ黄色、好きなんだよね…」と思っているのであれば、非常にもったいない話である。

なぜならば、ほとんど先ほどと同文になってしまうが、それは数万円とかせいぜい10万円、20万円のために「気分よく時を過ごす」という人生の本分を捨てていることになるからだ。

確かに経済合理的ではないのかもしれない。しかしそれに乗ることで自身の気分が良くなり、街の風景を明るくする一助にもなり、もしかしたら道行く少年などが「あ、黄色い車っていいな。将来免許取ったらああいう車を買おうかな」と思い、そしてそういった現象がそこかしこで連鎖的に起こり、例えば自分の生物的寿命が尽きた後の日本国が今以上にカラフルな車でいっぱいになるとしたら、ステキではないか。自分が生きた意味もあろうというものではないか。

▲有言実行というわけではありませんが、筆者も実際「黄色い輸入車」に乗っていました ▲有言実行というわけではありませんが、筆者も実際「黄色い輸入車」に乗っていました

よく言われることだが、お金は墓場まで持って行くことはできない。もしも唸るほどのお金をお持ちであるならば教育財団などを設立し、後世の少年少女らに役立ててもらうこともできるが、筆者を含むたいていの人間にはそんなことはできない。であるならば、黄色い車というものに伴うかもしれないちょっとしたコストを、まずは何よりも自分のために負担し、そして周囲の街並みや後世(の可能性)のために負担するというのは、十分割に合うステキな話だと思うのだが、どうだろうか。

ということで今回のわたくしからのオススメはズバリ「黄色い輸入車」だ。

text/伊達軍曹