▲ランドローバー社が1970年に発表。それまでのオフロード車の概念から大きく離れ、本格オフロード性能と快適性や豪華さを合わせた1台として世界で高い人気を誇った ▲ランドローバー社が1970年に発表。それまでのオフロード車の概念から大きく離れ、本格オフロード性能と快適性や豪華さを合わせた1台として世界で高い人気を誇った

時代に左右されないデザインの基は英国にあり

デビュー時は4速MTで最高速度は152㎞/h、1983年に3ATが追加され、1985年に4AT化。そのタイミングでエンジンは電子燃料噴射式となっている。現在も使われている高級グレードの「VOGUE」は1984年から設定されていた。今回の撮影車両は1991年式、カラーは黒、走行距離13万km、左ハンドルの4ATモデルである。

徳大寺 今回のテーマはレンジローバーで、我が家から近いところで取材だって? ヴィンテージエッジ的には1970年代の2ドアハッチバック(HB)のオリジナルレンジローバーになると思うんだけど、そういう車を扱っているお店はあったかなー。
松本 巨匠、レンジローバーはご存じの通り、初期は2ドアのみの販売でしたが、巷では2ドアと4ドア両モデルを「クラシックレンジ」と呼んでいますから、今回は4ドアモデルを見に行くことにしたんですよ。確かに2ドアは見たいですが、なかなか現存している個体が少ないですし。あ、こちらのお店ですね。
徳大寺 こちらは前にも一度お邪魔したことがあったな。クラシックレンジは2台あるのか。
松本 レンジは当初が2ドア、そしてその後にスイスの「モンテヴェルディ」が4ドアを提案して、1981年に4ドア版のレンジローバーが生産されたんですよね? そして2ドアと4ドアのレンジローバーは1970年から1996年まで作られ(2ドアHBモデルは94年まで)、これがクラシックレンジと呼ばれると。
徳大寺 基本設計は四半世紀以上前だから、いかにデザインとパッケージング、設計が優れていたかということだ。レンジローバーをまとめあげた人物が伝説的なエンジニアだからね。“チャールズ・スペンサー・キング”というイギリス人なんだけど、僕らの間じゃ“スペンキング”と言ってレンジローバー好きはもちろん、イギリス車を好きな人は大抵が知ってるんじゃないかな。イギリスはこういうパイオニア的なモデルを作った人をとても重んじるんだよ。
松本 僕はトライアンフ2000に乗ってますけど、当時(1965年)スペンキングがまとめあげたローバーP6と比較されていたので、スペンキングの功績はよく知ってます。ローバーP6はメカニズムや発想は斬新ですが、インテリアは簡素で無意味な装飾はなく、上品にまとめられたイギリスらしいモデルなんですよね。トライアンフ2000はイタリア人のミケロッティですから持っている根底の慣習の違いを感じます。
徳大寺 スペンキングの発想は天才的な部分もあるがメカニズムも含めて全体的に上品だよな。ローバーという車が歴代王室の人々に好まれて乗られていたのがよくわかるよ。
松本 デザインもスペンキングがかなり咬んでいると言われていますけど、実際にはローバー社のデザイナー“デビット・バーチェ”が描いたようですね。バーチェはオースチンA30のインテリアも手がけているんですよ。その後1960年代から90年代まで、オースチンやローバーで歴史に残るモデルを数々デザインして量産したんですよね。僕もA30を買おうと思って見に行ったんですよ。外観は可愛らしいんですが、内装は大人びていて上品なんです。今では作れないようなコストのかかったインテリアでした。
徳大寺 グレース・ケリーが最後に乗っていたモデルもローバー3500というモデルだからね。英国王室のみならず、モナコ王室からも好まれていたんだ。僕も何台か乗り継いだけど、乗りやすいんだよ。上品なだけではなく、ローバーというメーカーは優しい部分があったんじゃないかな。何をするにも操作しやすいんだよ。走りながらの送風口の切り替えや、温度調節、不器用な指でも容易に操作できる。こういうところも温かみがある部分じゃないかな。乗りやすいとはそういうことなんだよ。
松本 確かにレンジローバーはとても乗りやすいですね。最新の幅2m級でさえ見切りが良くて乗りやすいんですから。スペンキングとバーチェが練り上げたオリジナルデザインは現在でも継承されているんですね。パワーユニットはスペンキングは自分のエゴを押し付けず、ビュイックにも搭載していたローバー3500のオールアルミ製V型8気筒エンジンを載せてしまう。こういうところがエンジニアとして中庸な部分だと思うんですね。純粋にレンジローバーのドライバビリティには適していると思ったのでしょう。
徳大寺 彼らは英国というエスタブリッシュメントを重んじる国で育ったからこそ、コンフォータブルで本格的なオフロード性能を持ち、それでいてホテルに乗り付けることが可能な雰囲気をデザインに注ぎ込むことができたんじゃないかな。クラシックと呼べる、時代の流れに廃れないデザインのモデルは、ミニやレンジローバーで分かるように基は英国にある。これだけ情報があり、様々な機械やコンピュータがあるにも関わらず、クラシックを名乗ることができそうなモデルはなかなか出て来ない。皆さんがクラシックレンジと呼ぶモデルは、エクステリアやインテリア、運動性能のどれをとっても満足のいくものだということなんだ。すなわち完璧なモデルだったということなのだろうね。

▲ランドローバー レンジローバー シフト
▲ランドローバー レンジローバー リア
▲ランドローバー レンジローバー インパネ
▲ランドローバー レンジローバー シート
text/松本英雄
photo/岡村昌宏