▲ランチア テーマのエクステリアデザインはジウジアーロが手掛け、直線基調ながら当時としては優秀な空力性能を誇っていた ▲ランチア テーマのエクステリアデザインはジウジアーロが手掛け、直線基調ながら当時としては優秀な空力性能を誇っていた

フォーマルなスーツは必ずしも着心地が良いわけではない

原稿執筆時点でカーセンサーnetに1台のみ掲載されている希少車をご紹介します。今回、2015年7月14日に発見したのは「ランチア テーマ」です。1984年から1994年まで生産されていた、ランチアの最高級モデルでした。セダンはジウジアーロによって、ステーションワゴンはピニンファリーナによってデザイン(と生産)された車でした。

ランチアは1906年、フィアットの契約ドライバーであったヴィンチェンツォ・ランチアが設立した自動車メーカーです。かつては常に高性能な車両を生み出し、最新技術を次々に量産化したことで話題を呼んだものです。

1920年代にはすでにモノコックボディや独立懸架式サスペンションを投入。1940年代には5速MT、1950年代にはV6エンジンを市販車に世界で初めて投入してきました。ただ、当時は効率性を無視した経営があだとなり、1955年に倒産。以降、複数のオーナーを経て、1969年にフィアット傘下に収まります。

テーマは1984年から1994年まで生産されたランチアの最上級モデルで、当該中古車は1995年に新車登録された最終モデルです。当時、ランチアはサーブと提携関係にあり、共同開発された車でもあります。“ティーポクワトロ”と命名されたこの共同開発プロジェクト。後にアルファロメオ、フィアットも加わりました。というわけでテーマ、サーブ 9000、アルファロメオ アルファ164、フィアット クロマは兄弟車なんです。

効率性を求めた車両開発(プラットホーム共有)を行いながらも、兄弟車はそれぞれ独自の個性が演出されています。その中で、テーマはイタリアの伊達っぽさよりも“正統派”で攻めた車です。オーソドックスなセダンデザインながら空力特性はCd値0.32で、当時としてはかなりの優秀さを誇っていました。

インテリアはオーソドックスながら、デビュー当時の前期モデルでは高級紳士服「ゼニア」の布地を用い、話題を呼びました。そして、フェラーリエンジンを搭載した最上級グレード(後期モデルのLXにも)にはイタリアの老舗家具メーカー、ポルトローナフラウの本革があしらわれていました。つまり、テーマは遊び心よりもフォーマルであることを個性としていたんです。

▲インパネまわりは、イタ車で思い浮かべるようなセクシーさやスポーティさより“堅実”な雰囲気を漂わせるデザインとなっています class= ▲インパネまわりは、イタ車で思い浮かべるようなセクシーさやスポーティさより“堅実”な雰囲気を漂わせるデザインとなっています
▲日本人の平均身長にはちょっと大きめのシートは、思いのほかキッチリカッチリしています。また、アクセントの“ひだ”が高級感を演出しています ▲日本人の平均身長にはちょっと大きめのシートは、思いのほかキッチリカッチリしています。また、アクセントの“ひだ”が高級感を演出しています
▲全長4605mm(当該モデルのグレードの場合)とコンパクト。駆動方式はFFで、トランクの容量も思いのほかたっぷりです ▲全長4605mm(当該モデルのグレードの場合)とコンパクト。駆動方式はFFで、トランクの容量も思いのほかたっぷりです

当該中古車は、写真を見るかぎり、走行8万kmを感じさせない奇麗な状態が保たれているようです。筆者もしばらく乗っていましたが、ネオクラシックカーでありながら問題なく日常の足として使えます。3L V6アルミエンジンは後期モデルからアルファロメオ製になっていて、最高出力は175ps。今の水準では大したことありませんが、1370kgの車重には必要十分です。とはいっても、昨今の高級セダンのような走りを求めてはいけません(笑)。

テーマは特段、静粛性が高いわけでもなく、乗り心地がスムーズなわけでもありません。パワーステアリングは重めで、ボディロールはたっぷりとし、ブレーキもグッと踏み込んで利く、という感じです。でも、テーマの魅力は車の絶対性能ではないと思います。それは、フォーマルなスーツは必ずしも着心地が良いわけではない、ということに似ているのかもしれません。

めったに同じ車を路上で見かけることがない、という意味で差別化にはもってこいです。テーマならではの仕立てが良いシートに腰を下ろせば、フォーマルな車らしく自然と背筋が伸びます。決してスポーツカー然としているわけではありませんが、独特なV6エキゾースト音は“血中ラテン濃度”を上げてくれます。

ネオクラシックなイタリアン・フォーマル、ちょっと素敵な選択肢だと思います。

■本体価格(税込):54.0万円 ■支払総額(税込):---
■走行距離:8.0万km ■年式:1995(H7)
■車検:無 ■整備:無 ■保証:無 
■地域:神奈川

text/古賀貴司(自動車王国)