▲車好きといえばスポーツカーや大排気量車といったイメージがある中、鈴木さんの心を捉えたのはランチアのフラッグシップセダンのテーマ。すでに希少車となったテーマがもつ魅力とは…… ▲車好きといえばスポーツカーや大排気量車といったイメージがある中、鈴木さんの心を捉えたのはランチアのフラッグシップセダンのテーマ。すでに希少車となったテーマがもつ魅力とは……

先入観をもたず、自分の波長に合う車を素直に楽しむ

街を歩けばそこかしこに時刻が表示されていて、そもそもポケットの中にはスマホがある昨今、腕時計を「時刻を知るために買う」という人は少ない。あれは今やブレスレットの一種であり、要するに「趣味の品」なのだ。それゆえ実用性をまったく問わないわけではないが、それは二の次三の次となる。

あくまで「都市部に住んでいる人間にとっては」ではあるが、実は車も腕時計と同じだ。

まったく動かないとさすがに困るが、たまに動かないことがあったとしても、よく考えてみれば大して困りはしない。そのことに気づいたとき、車選びは自由になる。「機能的だけどダサい何か」をガマンして買う必要がなくなり、ただただ自分の美意識に合致する耽美的な何かに、たまに乗ればいいのだ。

筆者がそのことに気づいたのは割と最近だが、若くしてそれに気づいたのが、今回登場する鈴木喜裕さんだ。

鈴木さんが人生2台目の車として購入したのは、ランチア デルタインテグラーレに次いで「宇宙で2番目によく壊れる」とも噂されるランチア テーマ。そして実際、いろいろ壊れた。

「エアコンのガスが抜けてるんで真夏の日中は正直乗りたくないですし(笑)、パワーシートは運転席も助手席も壊れてます。あと助手席のパワーウインドウも上がったきり下りません(笑)」

でも鈴木さんは全然ノープロブレムなのだという。

「だって昼間移動するときは電車を使えばいいという、それだけの話じゃないですか?」

会社へは徒歩で通勤しており、日中の移動は電車か、友人の車の助手席。自分のテーマには、たまに、乗る。

「たまに乗るならテーマでいいし、テーマ“が”いいんですよ、僕は。運転して楽しい車も、豊かな気分になれる車も、世の中にはたくさんあると思います。でも、その両方を同時に楽しめる車というのは少ないんじゃないでしょうか。そんな希有な存在であるテーマですから、ちょっとした故障なんて……。もちろん壊れないに越したことはありませんが(笑)、強がりではなく本当に気にならないんです」

確かにそうだ。話は微妙にズレるのかもしれないが、本当に好きになってしまった異性に対しては、いろいろな欠点も(まったく気にならないといえば嘘になるが)さほど気にならない。欠点があっても、大して好きでもない人と無理に付き合うよりは100万倍幸せである。鈴木さんが言っているのも、たぶんそういうことなのだろう。

※この記事はカーセンサー本誌2015年10月号に掲載された「輸入車“若者”オーナー見聞録」を、WEB用に再構成したものです。

▲「エンジンはランチア デルタのいわゆるEVO I と同じですので、非常にパワフルです。基本的には落ち着いた雰囲気の車なんですが、実は活発な走りも楽しめるんです」 ▲「エンジンはランチア デルタのいわゆるEVO I と同じですので、非常にパワフルです。基本的には落ち着いた雰囲気の車なんですが、実は活発な走りも楽しめるんです」
▲「シート表皮がホワイトのアルカンターラ(スエード調の人工皮革)なのは、我が車ながらかなりおしゃれかと。内装のその他部分に使われている黒との対比も美しいですよね」 ▲「シート表皮がホワイトのアルカンターラ(スエード調の人工皮革)なのは、我が車ながらかなりおしゃれかと。内装のその他部分に使われている黒との対比も美しいですよね」
▲「30年ほど前のOZのホイールです。車と同世代でかつ品の良いデザインに惹かれました。純正は15インチなんですが、テーマの走りにはこの16インチの方が合いますね」 ▲「30年ほど前のOZのホイールです。車と同世代でかつ品の良いデザインに惹かれました。純正は15インチなんですが、テーマの走りにはこの16インチの方が合いますね」
▲東京都在住の会社員、21歳(2015年7月当時)。父の影響で幼少期より車の魅力に目覚め、中学3年生のとき、アバルト500の登場をきっかけにイタリア車に目覚める。初めての愛車は約2年前に購入した1999年式フィアット プントスポルティング アバルト ▲東京都在住の会社員、21歳(2015年7月当時)。父の影響で幼少期より車の魅力に目覚め、中学3年生のとき、アバルト500の登場をきっかけにイタリア車に目覚める。初めての愛車は約2年前に購入した1999年式フィアット プントスポルティング アバルト
text/伊達軍曹
photo/畠中和久