車は単なる移動の道具ではなく、大切な人たちとの時間や自分の可能性を広げ、人生をより豊かにしてくれるもの。車の数だけ、車を囲むオーナーのドラマも存在する。この連載では、そんなオーナーたちが過ごす愛車との時間をご紹介。あなたは『どんなクルマと、どんな時間を。』?

▲仕事の汗を拭う川野さん。空の青と山の緑、そしてラシーンの水色がさわやかだ▲仕事の汗を拭う川野さん。空の青と山の緑、そしてラシーンの水色がさわやかだ

ヘタりを含めて「キャラクター」

青い空に向かって切り立つ緑の山肌。一面を覆うのは、収穫を待つブドウの木々だ。その間を縫うように、水色の車が1台、駆けていく。この地で働く川野寛さんの愛車 ラシーンだ。

ここは、栃木県足利市にある「ココ・ファーム・ワイナリー」。指定障害者支援施設「こころみ学園」の園生とともに100%日本のブドウから自家製ワインを醸造し、販売している。

川野さんが醸造家を志しここへきたのは、ほんの1年前のことだ。それまでは編集業をしていた。しかし昨年、「自分が本当にやりたいことは何か」をじっくり考え直し、出た答えが「ワイン造り」だった。今はここで、ブドウ栽培とワインの醸造を学んでいる。

▲ブドウ畑の小道を走るラシーン。何だか日本だとは思えない ▲ブドウ畑の小道を走るラシーン。何だか日本だとは思えない


愛車のラシーンは、人から譲り受けたものだ。ボディはところどころへこんだり錆びたりしているし、最近のSUVに比べれば、安全装備やら走破性能は劣っているし、正直「快適」とは言い難い。でも、そんなところも含めて「キャラクター」のように思え、年々愛着が増しているのだという。

劣っているところも憎めない。自分も同じペースで寄り添いたくなる。そんな気持ちは、一緒に乗る奥様も同じだそうで、ヘタったシートを撫でながら「動かなくなるまで、大事に乗ろうね」と話したそうだ。

今はこの地で、一人前の醸造家を目指し日々汗を流す川野さん。いつか、自分のブドウ畑とワイン蔵を持てるようになるその日まで、ラシーンもがんばってほしい。

▲真っ黒に日焼けした肌に果汁が染み込んだ指先。「まだまだ見習いなので……」と遠慮がちに笑っていたが、出で立ちはすっかり職人のようだった ▲真っ黒に日焼けした肌に果汁が染み込んだ指先。「まだまだ見習いなので……」と遠慮がちに笑っていたが、出で立ちはすっかり職人のようだった


~どんなクルマと?~
■日産 ラシーン(初代)
ユニークな見た目とは裏腹に、全モデル4WDで走破性も高く、また荷物を積んでも大人5人がしっかり乗れるなど、実用性は高い。1993年の東京モータショーに参考出品されたものが大変好評だったために、市販化されたという経緯がある。

▲日産サニーをベースにRV風のワゴンタイプのボディを載せている ▲日産 サニーをベースにRV風のワゴンタイプのボディを載せている


~どんな時間を?~
■「行き先のことを考える時間」

▲愛車との時間は… ▲愛車との時間は……


text/編集部 井上恵利
photo/早川佳郎