ランドローバー ディフェンダー

【連載:どんなクルマと、どんな時間を。】
車の数だけ存在する「車を囲むオーナーのドラマ」を紹介するインタビュー連載。あなたは、どんなクルマと、どんな時間を?

浅岡家のちょっとユニークな方針

地価がきわめて高い東京23区内では、「車は一家に1台だけ」という家庭が大半を占めているはず。しかし、ちょっと郊外まで行けば、1家族で2台の車を持っているというケースは決して珍しくはない。

とはいえ、そんな複数台所有のご家庭でも、家族揃ってどこかへでかける際は「1台」で行くのが普通だろう。まぁ当然の話である。

だが、浅岡家の場合は、ちょっと違う。

浅岡家にある車は、夫の亮太さんが独身時代に購入したマニアックでクラシカルなランドローバー ディフェンダーと、買い物などに便利な先代のルノー カングー。

ここまでは、「当たり前」とは言わないが、「よくある話」ではある。

ランドローバー ディフェンダー▲ランドローバー ディフェンダー90
ルノー カングー▲ルノー カングー(初代)

だが、浅岡家の4人が揃ってどこかへでかける際は、ディフェンダーまたはカングーのどちらか1台を出動させるのではなく、「その両方を出動させる」との方針を採用しているのだ。

「いや、もちろん毎回2台で外出するわけではないですし、特に遠出をするときは、さすがに4人が乗れるカングー1台で行きます」

ランドローバー ディフェンダー▲浅岡さんのディフェンダーは後列が補助シートになっているため、2人乗りなのだ

「でも、例えば家族でちょっとした買い物に……なんてときは、ディフェンダーとカングーの2台で行くことが多いですね」

普通に考えて何かと不便であり、非経済的でもある「わざわざ2台」で移動する理由。ひとつには、亮太さんが「どうせなら常にそれを運転したい」と思うほど、古いディフェンダーのことが大好きだから。

そしてもうひとつの理由が、長女のゆかりさんが「ママのぶうぶ(カングー)よりパパのぶうぶ(ディフェンダー)の方が好き。だから、今日もパパのぶうぶに乗っていきたい!」とねだることが多いからだという。

ランドローバー ディフェンダー

「娘がカングーのことを『ママのぶうぶ』と呼ぶことからおわかりのとおり、ディフェンダーとカングーは用途によって使い分けている訳ではないです。趣味のドライブはディフェンダーで、買い物はカングーで――みたいな話ではなく……」

ランドローバー ディフェンダー

「カングーを使っているのは、9割方は妻なんです。僕自身は『ちょっとそこまで』みたいな用事でも、たいていはディフェンダーを使いますね」

ちなみに長女のゆかりさんは、この古いディフェンダーのどこがそんなに好きなのだろうか?

「それがわからないんですよ(笑)。カングーなら車内でアニメを見れますが、古いディフェンダーにはApple CarPlayなんて付いていないので娘もヒマだと思うのですが、なぜか『パパのぶうぶに乗りたい』って言うんですよねぇ……」

ランドローバー ディフェンダー

ちょっとした買い物もツーリングになる

パパのぶうぶこと1997年式のランドローバー ディフェンダー90は、浅岡亮太さんがまだパパではなかった6年前、社会人1年目のときに購入したものだ。

「実家がマニアックな輸入車販売店を営んでいる関係で、学生の頃からいろいろな車に乗ってはいましたが、自分で購入したのはコレが初めてでした」

ランドローバー ディフェンダー
ランドローバー ディフェンダー

「大学のボクシング部の試合で英国のオックスフォードに行ったとき、郊外でこの型のディフェンダーが『はたらく車』という感じでごく普通に使われていて、すっごくいいなぁって思ったんですよね」

そして25歳で結婚し、長女を授かったことで、さすがにクラシカルな(しかも2人しか乗れない)ディフェンダーだけでは無理になった。

そのため、主に妻用の車として中古のメルセデス・ベンツ Aクラスや、同じく中古のフォルクスワーゲン ポロを購入したが、2人目の子供が生まれると、とうとうBセグメントのコンパクトカーでも手狭になってしまった。

そこで乗り替えたのが、現在の「ママのぶうぶ」こと先代のルノー カングーだ。

ルノー カングー▲見た目以上に「たくさん積める」カングー
ルノー カングー
ルノー カングー

だが、何かと便利で使い勝手の良いルノー カングーを一家に迎えたからといって、亮太さんは97年式のランドローバー ディフェンダーを手放す気はさらさらない。

「だってこの車(ディフェンダー)は、僕にとってはもはや家族というか息子、あるいは親友か戦友みたいなものですからね。お別れするなんてあり得ないですよ。一生乗りますし、何があっても手放さないつもりです」

その車のことが好きなのはわかるが、しかし「息子」「戦友」というのは少々大げさなような気もするが?

「いや、そんなこともないんですよ。このディフェンダーには……思い出がたくさん詰まってますからね。それこそ妻と最初に出会った頃のこと。最初の子供が生まれて、深夜の病院に駆けつけたときのこと。で、人生で初めてチャイルドシートを装着して、長女を乗せてドキドキしながら家に帰ったときのこと」

ランドローバー ディフェンダー▲この“煙突”は、奥さまからのプレゼント。亮太さんが仕事から帰ると、リボン付きの煙突がディフェンダーに装着されていたというサプライズ!
ランドローバー ディフェンダー▲助手席にはチャイルドシート

「そんなこんなの、挙げていけばきりがない思い出は、基本的にすべて“こいつ”とセットだったのですから」

だから、仮に同じ年式、同じ色、同じスペックのディフェンダーがあったとしても、それに買い替えるつもりはないという。

「僕はディフェンダーが好きなんじゃなくて――いやもちろんディフェンダーは好きですが、それ以上に“この個体”が好きで、大切なんですよ。親友みたいなもの……といったらクサイのかもしれませんが、でも実際そうなんです」

だから、売却することなどあり得ないし、家族4人ででかけるときも、「今日はディフェンダーに乗りたいな」と思えば、ディフェンダーも出動させる。

「まぁもちろんそういった情緒的な話だけではなく、単純にディフェンダーの乗り味が好きだからとか、娘が乗りたいとせがむから、という理由もあります。でも1家族なのに2台の車で移動するというのは……もちろん不便なこともかなり多いですが、意外と楽しいですよ!」

そ、そうですか?

「はい。2台でつらなって、ハンズフリーのスマホで連絡を取り合いながら走っていると、なんというか、まるで友人とツーリングをしているかのような気分になるんです(笑)」

ランドローバー ディフェンダー

「なんてことのない日常的な買い物も『ツーリング』に早変わりするという意味で、もちろん万人にオススメするわけじゃないですが(笑)、意外と悪くないということは申し上げておきたいですね!」

実は筆者は6年前、雑誌『カーセンサー』の取材で、このディフェンダーを購入したばかりだった浅岡亮太さんを取材している。

そのときすでに97年式ランドローバー ディフェンダーのことを大いに気に入っていた様子ではあったが、ここまでの“熱量”はなかったと記憶している。

「……そうですね。たしかにあの頃は、ここまでではなかったかもしれません。でもその後の6年間で、こいつとの“仲”が深まったんですよ、たぶん。単純な移動はレンタカーでも十分行えますが、こういった感じの“仲”になれるというのが、思い出を刻むことができるというのが、車を所有するということの大きな価値――なのかもしれませんね」

ランドローバー ディフェンダー
文/伊達軍曹、写真/早川佳郎

ランドローバー ディフェンダー

浅岡亮太さんのマイカーレビューその1

ランドローバー ディフェンダー90

●購入金額/約400万円
●年間走行距離/約1000km
●マイカーの好きなところ/無駄な煙突
●マイカーの愛すべきダメなところ/実質2人乗り
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/見た目でも歴史でも乗り心地でも、直感的にいいなと思ったら買ってみることをオススメします。確かに無駄は多いけど、この車でしか味わえないことがたくさんあるので

ルノー カングー

浅岡亮太さんのマイカーレビューその2

ルノー カングー(初代)

●購入金額/約50万円
●年間走行距離/約1000km
●マイカーの好きなところ/天井の高さと角みたいなアンテナ(笑)
●マイカーの愛すべきダメなところ/時代を感じるシートの柄
●マイカーはどんな人にオススメしたい?/ミニバンは大きすぎるけどファミリーカーが必要……そんな方には絶対オススメです!

伊達軍曹

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。