▲住宅展示場で見た百瀬さんの作品や、その後提案してくれたスケッチがかっこよすぎたのでもともと具体的な要望はなかったという施主。強いて言うのであれば「和モダン」で、とにかく面白い家、そして人が集まるような家というイメージを伝えたという▲住宅展示場で見た百瀬さんの作品や、その後提案してくれたスケッチがかっこよすぎたのでもともと具体的な要望はなかったという施主。強いて言うのであれば「和モダン」で、とにかく面白い家、そして人が集まるような家というイメージを伝えたという

秘密の隠れ家を頭上に備える「和モダン」ガレージ

今回訪れたのは埼玉県越谷市。古くからの住宅と新しいマンションなどが混在する閑静な街並みで、目指すF邸は表通りから一本裏に入った場所にあった。

正面から観察すると、中央に玄関がありガレージシャッターが左手に設けられている。玄関上部の、やや手前に張り出している部分だけ白く彩られていて、左右のグレー部分とのコントラストが上品な印象。ビルトインガレージのほかに屋外にも1台分の駐車スペースが設けられていて、ボクシーな軽カーが収まっている。窓は少ないようだが、果たして邸内にはどのような空間作りが施されているのだろうか? ガレージにはどんな車が? 期待が膨らむ。

珍しく、玄関には格子の引き戸が採用されている。遠景から想像するよりも、かなり「和」をイメージしてデザインされているようだ。足を踏み入れると黒いタイルが敷き詰められた「ラウンジ」と呼ばれる空間が。ここは土間のような存在で、内外の仕切りを曖昧にしているように感じた。

正面には2階へと続く階段があり、見上げると2階の天井まで一気に広がる高い吹き抜けになっている。らせん状の階段は、その造形から幾何学的な広がりが感じられ、やや遠近感が狂う。実際の寸法よりも広く感じられることがポイントだろう。

設計を担当したのは、建築家の百瀬修さん。「玄関を入ったラウンジの吹き抜けを中心につながる4層の家というのが大きな特徴です」

4層の家。設計上は2階建てだが、1階+ロフト+2階+ロフトというスキップフロア構造とすることで、4フロアあるということだ。さらに、「トップライトを設置した吹き抜けが“光柱”となって、各層に明るさをもたらします」


F邸を正面から観察した際に「窓が少ない」と思ったが、真上から大量の自然光を取り込むことによって邸内に十二分な明るさを確保していたのだ。

玄関を入って左手にあるガレージには、テックハウスグレーのFIAT 500が格納されている。ラウンジとガレージの仕切りは広いガラス窓を用いて、フロア材も共通とすることで一体感をもたらしている。ラウンジのソファに腰を下ろして愛車を眺める時間は格別だろうが、F邸にはさらに特別な仕掛けが施されていた。

期待をはるかに超えるデザインスケッチを提案

「ガレージは単なる車置き場ではなく、ラウンジの延長として機能していますし、1階と2階の中間には愛車を見下ろすことができるFさん専用の書斎があるのです」と、百瀬さん。ガレージから見上げると、まるで基地の司令室のような造形の書斎が存在した。ここへ入るには、階段の踊り場から、あたかも茶室に入るように身をかがめなければならない。室内も同様に天井は低いが、それがまた特別な隠れ家らしい心地よさを生み出している。

こんな遊び心タップリの設計をする百瀬さんとFさんとの出会いは、「ビルトインガレージの展示ハウスを見学したときに、カッコいいなぁ…とひと目惚れした物件が百瀬さんの作品だったのです。その直後、百瀬さんに設計をお願いしたいと営業の方に無理をいいました」と、Fさん。

当初から百瀬さんに設計を依頼することを前提に、ビルトインガレージ建築の話は立ち上がった。設計前の打ち合わせで、思い出に残っていることは?

「初めてお目にかかったときに『展示場のガレージのようにしてほしい』という希望をお伝えしたところ、次の打ち合わせでは私たちの期待をはるかに超えるデザインスケッチを提示してもらい、妻とともに感動しきりでした」。

百瀬さんは、Fさん夫妻に対してどんな印象を?

「当時はマスタングを所有されていて、漠然とガレージハウスが欲しい…という感じだったと思います。打ち合わせをしていく中で夢がどんどん広がり、それに比例して予算も増えていきました。そんなとき、ドクターであるFさんの『ボクが仕事を頑張るので!』というひと言で、私の提案を採用していただいたという印象です。そんなご主人の発言を、躊躇なく受け入れた奥様も、じつに男前でした」。

百瀬さんが設計する住宅の特徴は、人と住まいのあり方を十分に考慮し、そのうえで愛車との関係性を構築するという点にある。Fさんが住宅展示場でひと目惚れした複数の作品はすべて、人の動線を巧みにデザインすることで家族の触れ合いが重視されていたという。事実、このF邸は玄関を入ってすぐにラウンジを設けることで、出入りをする家族は必ず顔を合わせてコミュニケーションをとることができる。そんな家族の触れ合いを、直結するガレージで愛車が見守っているというわけだ。

▲階段や梁などにウッディな素材を用いることで、いっそう「和」のテイストが強調される。玄関の格子戸から差し込む光も、独特の陰影を描いて空間のアクセントとなる▲階段や梁などにウッディな素材を用いることで、いっそう「和」のテイストが強調される。玄関の格子戸から差し込む光も、独特の陰影を描いて空間のアクセントとなる
▲ガレージの上方には、まるで秘密基地のような書斎が設けられている。それと知らない人は、不思議な存在感に目を奪われる。以前はマスタングを所有していたFさんだが、今回のガレージハウス建築にあたり、コンパクトなFIAT500に買いかえられた▲ガレージの上方には、まるで秘密基地のような書斎が設けられている。それと知らない人は、不思議な存在感に目を奪われる。以前はマスタングを所有していたFさんだが、今回のガレージハウス建築にあたり、コンパクトなFIAT500に買いかえられた
▲「ラウンジ」と称される1階のリビングスペース。吹き抜けから注ぐ自然光により、実際のサイズよりも開放感に溢れた空間だ▲「ラウンジ」と称される1階のリビングスペース。吹き抜けから注ぐ自然光により、実際のサイズよりも開放感に溢れた空間だ
▲フロアは4つ。それぞれがらせん階段で結ばれ、限られた空間を有効に、かつ美しくデザインされている。2階は掘りごたつのある畳ダイニングと露天風呂気分が味わえる浴室が特徴だ▲フロアは4つ。それぞれがらせん階段で結ばれ、限られた空間を有効に、かつ美しくデザインされている。2階は掘りごたつのある畳ダイニングと露天風呂気分が味わえる浴室が特徴だ
▲Fさんがもっとも気に入っているという書斎は、まさに隠れ家。階段の踊り場から直結しているが、アクセスしにくい出入り口がいっそう「秘密」っぽい▲Fさんがもっとも気に入っているという書斎は、まさに隠れ家。階段の踊り場から直結しているが、アクセスしにくい出入り口がいっそう「秘密」っぽい
▲天井の低い書斎だが、不思議と居心地がよく童心にかえれる空間。愛車を俯瞰で、しかも屋内から眺められる環境というのは珍しい▲天井の低い書斎だが、不思議と居心地がよく童心にかえれる空間。愛車を俯瞰で、しかも屋内から眺められる環境というのは珍しい

【吹き抜けを中心に空間が広がるコンパクトなガレージハウス】
■限られた敷地のなかでビルトインガレージにするということは、生活スペースを犠牲にするということ。それでも我慢をして狭い空間で生活するようなことにはしたくなかったという。ガレージも、単なる車置き場としての用途だけではなく、ラウンジとつなげることで複数の用途に使用できるようにしたとのこと。また、すべての空間を階段の「光柱」でつなぎ広がりを演出したり、子供部屋は単に畳数ではなく機能を考えてサイズを決めたりしたことなどが工夫をした点だそう
■主要用途:専用住宅
■構造:木造軸組工法
■敷地面積:101.25平米
■建築面積:60.68平米
■延床面積:112.97平米
■設計・監理:ポラテック株式会社 百瀬 修(ポウハウス一級建築士事務所)
■TEL:0120-321-549

text/菊谷聡
photo/木村博道


※カーセンサーEDGE 2015年7月号(2015年5月27日発売)の記事をWEB用に再構成して掲載しています