ガレージに収められたマルニを2階からの明かりが照らす

ザラっとした触感の扉を開け放った先にいるのは、抜群のコンディションを保ったSさんのマルニ。そこは室内にも関わらず、愛車が自然光によって照らされている

コンクリートの造形と和が融合した空間

正面から観察すると、窓は小さな円形のものがひとつあるだけ。住宅というよりも写真スタジオやアトリエのような雰囲気だ。壁面の植木がアクセントとなっているが、これは土を使わない緑化システムのひとつで、ヒートアイランド現象やCO2削減のために公共施設にも取り入れられ始めているものらしい。

ガレージの入口には、観音開きのドアを採用。

「シャッターだと機密性が低いので、玄関とガレージが一体となっている場合にはふさわしくないのです」

と弓場さん。ドアを開けると、そこにはBMW2002が格納されていた。この"マルニ"、じつはSさんが初めて所有したクルマだという。

「古いアルファが欲しかったのですが、友人に初心者はイタ車はやめろといわれ、ジュリアTiに顔が似ているマルニにしたんです」

すでに10年以上乗り続け、オールペイントを経て良好なコンディションを保っている。

マルニのボディが美しく見える理由はもうひとつ。それは、屋内駐車場でありながら、クルマの真上から柔らかい自然光が差し込んでいるからだ。見上げると、FRPのハニカムコアを通して光が注いでいる。その薄緑色の光は不思議な空間を生み、「氷の下に潜ったダイバーが、上を見上げたような感じ…」

という弓場さんの表現がピッタリだ。内外ともにコンクリートのクールなイメージがこの家の特徴だが、光の採り方によって柔らかい空気を作り出している。では、このハニカムコア、上から見るとどんなだろう…と、早速2階へ。

そこには、階段スペースとリビングを隔てる巨大な格子状のものが。

「これは、PSシステムという冷暖房システムです」

とSさん。格子自体がフィンの役割を果たし、その中を温水や冷水が流れることで室内の温度を調節するシステム。設計を依頼する際に、Sさんがこだわったアイテムだ。

京都の町家格子を思わせる造形は、フロアを和風の雰囲気に仕立てている。ガレージから見上げたハニカムコアはリビングフロアの一部として存在し、畳と組み合わされている。その横には、まるで雪見障子越しの景色のように隣家の庭が見え、いっそう「和」を感じさせる。キッチン側の窓は天井近くに設けられ、そこから入る5月の爽やかな風が、このフロアレベルの窓から抜けていく。

この家の屋根は隣家の日照を考慮して、正面から見ると右上から左下へ切り落としたような造形となっている。これに伴いリビングルームの天井も傾斜しているのだが、この形状がレフ効果となり室内に柔らかい自然光をもたらしてくれる。

クールな外観の中身は、緻密に計算された光と風の動き、そして和のテイストをもった居心地のいいガレージハウスなのである。

南馬込の住宅
建築家:弓場章史

弓場章史建築設計事務所
tel.03-3989-8522  http://yuba-arch.com
所在地:東京都大田区 主要用途:専用住宅 家族構成:1人
構造:鉄筋コンクリート造 規模:2階建 敷地面積:88.19㎡ 延床面積:83.84㎡
設計・監理:弓場章史建築設計事務所/弓場章史
設計プロデュース:LDKホーム tel.03-5468-9775 http://ldk.co.jp/

文・菊谷 聡 text / KIKUTANI Satoshi
写真・木村 博道 photos / KIMURA Hiromichi
構成・石井 隆 editorial / ISHII Takashi

前編を見る

コンクリートを主体とした外壁によって形作られたS邸。住宅の前に十分なスペースが確保され、ガレージハウスには珍しく、シャッターではなく観音開きの扉を採用する

リビングの畳からキッチン方面を見ると、天井近くに位置する大きな窓から自然光がたっぷりと注ぎ込む様子がわかる。奥には浴室などがあり、その上はロフトとなっている

寝室などのプライベートルームは、ガレージ奥に配置。ガレージとはフロアレベルを変え、床を木材とすることで、コンクリートに囲まれたガレージとは別空間としている

バスルームには照明がなく、ガラス戸越しに洗面所から明かりがあるほか、天井に設置された明かり窓からバスタブに光が差し込まれるようにデザインされている