▲「最初は無難な国産コンパクトカーの中古車で……」という意見に一理ないわけではないが、かといってうのみにする必要もない。例えば、いきなり元祖ミニで車生活を始めたって構わないのだ! ▲「最初は無難な国産コンパクトカーの中古車で……」という意見に一理ないわけではないが、かといってうのみにする必要もない。例えば、いきなり元祖ミニで車生活を始めたって構わないのだ!

英語で「ミニへの愛」を詠う不思議な青年

見たところ22歳ぐらいの青年が、中古軽自動車専門店の前で高らかに詩を吟じていた。

「なぜここで……」と思ったが、よく聞いてみると、それは英国のロマン派詩人、ウィリアム・ワーズワースの「カッコウに寄す(To the Cuckoo)」の一節だった。

だがさらによく聞くと、本来は「O Cuckoo ! shall I call thee bird(カッコウよ! 君を鳥と呼べばいいのか)」となるべき箇所が、「O Mini ! shall I call thee car(ミニよ! 君を車と呼ぶべきなのか)」となっていた。

不思議に思ったわたしは、思わず声をかけた。いったい貴君は何について詠ってるのですか? と。

すると彼は答えた。

「……気持ちよく吟じていたところを呼び止められて非常に不愉快ですが、まぁお教えしましょう。これは、僕が買おうと思っていたミニという英国車についての詩です。ワーズワースをパクリました」

謝りながらもさらにヒアリングしたところによれば、事情はおおむね以下のとおりだった。

▲こちらが「彼」が詩に詠っていた元祖ミニ。英国の天才的技術者、アレック・イシゴニスが設計した革命的なFFコンパクトカーで、1959年から2000年まで製造販売された▲こちらが「彼」が詩に詠っていた元祖ミニ。英国の天才的技術者、アレック・イシゴニスが設計した革命的なFFコンパクトカーで、1959年から2000年まで製造販売された

「人生初の車がクラシックミニ」というのは危険きわまりない?

見立てのとおり、彼は22歳の新社会人。学生時代にアルバイトをして貯めたお金と、正社員として今後見込める月給を元手に、さっそく中古車を買うつもりでいたそうだ。

だが販売店を訪ねる以前の段階で、周囲からの猛反対を受けてしまった。

なぜならば、「最初の車は英国の元祖ミニにしようと思ってます」と口走ってしまったからだ。

「中古のガイシャ、しかも古いミニなんて、壊れまくるに決まってる!」

「若造はおとなしく、同じぐらいのサイズの軽自動車でも買っとけよ!」

などと会社の先輩から散々言われた結果、彼も「まぁそうかもしれないな……」とある程度納得。とりあえずは中古の軽自動車を買おうと翻意し、今日ここへやって来た。

だが最終的な踏ん切りがつかず、お店の前で思わず得意の英語詩を吟じてしまったのだという。

▲会社の先輩連中が言うとおり、クラシックミニというのは「金食い虫」なのだろうか?▲会社の先輩連中が言うとおり、クラシックミニというのは「金食い虫」なのだろうか?

「やはり皆さんがおっしゃるとおり、僕は中古の軽を買うべきなのでしょうか?」

そう尋ねる彼に、わたしは年長者として、そして中古車評論家として答えた。

「……それは貴君が決めるべき問題だが、わたしとしては『欲しいなら、買えばいいんじゃないですか?』とは思っている」

「でも古いミニを買うなんてバカ丸出しだと、会社の先輩が……」

そう言う彼にわたしは断言した。

「貴君の人生は貴君のものだ。会社の先輩など放っておけ。そもそも人生初の車が元祖ミニで何が悪いのだ? 悪いことなどひとつもない」

以下は、この後わたくしが彼に詳述した内容のダイジェスト版である。

ビギナーにオススメなのは97年式以降の最終世代

まずは彼が買おうとしていた車、英国製の「元祖ミニ」について。

現在はドイツのBMWが「ミニ」というブランド名を継承し、独自のコンパクトカーを作っている。

だが彼が欲しかったのはそれではない。英国のBMC(ブリティッシュ・モーター・コーポレーション)が1959年に発売し、そして2000年までの長きにわたり製造され続けた「クラシックミニ」だ。

クラシックミニのヒストリーや詳細についてはネットや書籍で星の数ほどの記事が読めるため、詳しくはどうかそちらをご参照いただきたい。ここではかなりざっくりめにご紹介する。

1959年から70年代あたりまでの初期モデルは、今やド渋い希少クラシックとしてかなり値が張る存在で、その維持にもノウハウと経験、あるいは財力と根性が必要。一介の(と言っては失礼だが)新社会人が安易に買うべき車ではない。

▲こちらは1960年式のモーリス ミニ マイナー。最終世代と似たような形といえば似たような形だが、こちらはある意味希少クラシックカーで、中古車価格は「応談」となっている場合がほとんど▲こちらは1960年式のモーリス ミニ マイナー。最終世代と似たような形といえば似たような形だが、こちらはある意味希少クラシックカーで、中古車価格は「応談」となっている場合がほとんど

気軽に購入でき、そして(比較的)気楽に維持できるのは、燃料供給がキャブレター式からインジェクション式へと変更された92年式以降の世代だ。

中でも97年式以降の最終世代は、インジェクションシステムが改良されると同時に運転席エアバッグやシートベルトプリテンショナー、間欠ワイパー等々も採用されたため、ビギナーでもまあまあ安心して乗れる仕様だとは言えよう。

中古車のプライスはグレードやコンディションにより様々だが、あくまで大ざっぱな目安としては下記のとおりとなる。

●97年式:総額70万~180万円
●98年式:総額90万~200万円
●99年式:総額100万~220万円
●00年式:総額90万~240万円

ちょっとは大変だが「死ぬほど大変」なわけではない

「意外と高いというか、安くはないですね……」

と彼は言う。うむ、以前はもうちょっと安かったのだが、世界的なネオクラシックブームの影響で、クラシックミニの相場も上がっているようだ。

「まあお金はなんとかします。しかし問題は会社の先輩ども……じゃなかった先輩方がおっしゃる『買ってもどうせ壊れる』という点なのですが、そのあたりは正直、どうなんでしょうか?」

乗っていれば壊れることもあるだろう。なにせそもそもの基本設計がド古い車であり、最終年式でも19年前の車だ。

「ならば、やっぱりやめといた方が……?」

そんなことはない。最初に言ったとおり本当に欲しいならばユー、買っちゃいなよ。

なぜならば、経験豊富なきちんとした専門店で、きちんと直された最終世代に近い個体を買えば――そしてもちろん購入後も正しいメンテナンスと定期点検をサボらないようにすれば、割とぜんぜんフツーに維持できるからだ。それでもたまに壊れるだろうが、あくまで「たまに」である。

「ならば、諸先輩はなぜあのようなネガティブなことばかり言うのでしょう?」

聞きかじりだけでモノを言っているからだろう。あるいは、上記のような正しい購入法&維持法を怠った失敗者が、たまたま身近にいたのかもしれない。

「……要するにクラシックミニの維持は、現代の車と比べればもちろんある程度大変ではあるけど、死ぬほど大変なわけではない――ということですね?」

ザッツ・ライト、おっしゃるとおりである。部品代も安いし、人気車だから、専門店も、「街の達人」も多いしね。わからないことや不安なことは、そういった店や達人に聞けばいいんですよ。

▲ちなみに写真の紳士は「街の達人」ではなくジョン・クーパー氏。1960年代にクラシックミニのチューナーとして名を馳せた人物で、後の「ミニ クーパー」や現在の「ジョン・クーパー・ワークス」の、言うなればご先祖さまだ▲ちなみに写真の紳士は「街の達人」ではなくジョン・クーパー氏。1960年代にクラシックミニのチューナーとして名を馳せた人物で、後の「ミニ クーパー」や現在の「ジョン・クーパー・ワークス」の、言うなればご先祖さまだ

ま、とにかくアレだ。僕ぁ貴君にぜひクラシックミニを買ってほしいね。なぜならば、僕ぐらいの中高年になると、クラシックミニの素晴らしさを知ってはいても、実際はもうなかなか買えないんだ。

あの狭さもキツいし、乗り心地も(中高年のお尻と腰にとっては)快適とは言えないし。また、たまにとはいえ壊れるかもしれないというのも、実は正直ちょっとめんどくさいと感じてしまう。

でも貴君の「若さ」があれば、僕が今言ったようなことはすべて乗り越えることが可能だ。そして、あの「青春そのもの」とでも言うべき俊敏な素晴らしい動きを、日々感じることができるんだ。

あぁ、本当に素晴らしいと思うよ、若さって。だから貴君にはぜひ……と言ったところで前方を見ると、彼はもうわたしの話など聞いておらず、手元のスマホでカーセンサーnetを熱心に検索していた。

……まぁそれで良いと思う。うんちくなどどうでもいい。若人よ、今すぐクラシックミニの専門店へ行け。そして毎日を劇的に、カラフルに楽しめ。クラシックミニという、地球最高レベルの相棒とともに。

文/伊達軍曹、写真/BMW

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伊達軍曹(だてぐんそう)

自動車ライター

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ネタ」を得意としながらも、ジャンルや車種を問わず、様々な自動車メディアに記事を寄稿している。愛車はスバル XV。